罵煉汰淫殲滅作戦(ばれんたいんせんめつさくせん)
バレンタイン用に短編を書こうと思って書き出したのですが、思いの外気に入ったので連載にしました!頭を空っぽにして楽しんで貰える作品に出来るよう頑張ります。
天立楽園学園。このバカみたいな名前の学校は若くして死んだ高校生達が死後通う学校である。天国にあるから天立。天国だから楽園。
本来人は死ぬと生前の行いによって天国行きか地獄行きかを決められ、その決定に従い死後を暮らす。だが、高校生以下の若者達はまだ天国か地獄かを決めるには人生が短すぎる、ということで設立されたのがこの学園である。
この学園での行動、成績、生活がその生徒の天国行きか地獄行きかを左右する。
ここで語るのはそんな学園で行われる、バカのバカによるバカの為のバカ騒ぎのほんの一端である。
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「バレンタインをぶっ潰すいい手があるんだけど」
「「詳しく」」
僕、秦仲 春の発言に理科準備室にたむろしていた僕を含めた5人のうち2人が食いついた。食いつかなかった1人も不思議そうに僕の顔を見ている。
全く反応しなかったスカしたバカが1人いたけどそれは気にしない。
「バレンタインにチョコを持ってくる事が、悪行カウンターに引っかかる、という噂を流すんだよ。そうすれば自然とチョコを準備する人が減るよね。それでもってバレンタイン当日までにその噂を本当にしてしまえば良いんだよ!」
僕のアイデアの素晴らしさにみんな何も言えないでいた。
ふふふ、昨日寝ずに考えたんだ。そりゃ感動するよね。
因みに、悪行カウンターというのはこの学校に存在する生徒管理システムの1つだ。
各生徒に1つずつ与えられていて、生徒が人道に反する行い、他の生徒に迷惑がかかる行い、単純に悪いことなどなどを行うとカウントが溜まっていき、卒業の時点でカウントが一定数以上だと地獄行き、という人権を無視した悪逆非道な罰則システムである。
やがて僕の正面に座る、守りたくなる男子ランキング第一位(僕調べ)に輝いた優ちゃんが何故か言いづらそうに口を開いた。
「あの……今までバレンタインが行われてた時点で、無理じゃないかな?先輩方が、バレンタイン楽しみだって言ってたし……みんなカウントされないって知ってると思う、よ?」
優ちゃんが申し訳なさそうに首をかしげる。
「というか、去年までの先輩方も似たようなことをしていたと聞くでござるが、そのことごとくが失敗でござった筈」
そう言ったのは自称・戦国時代からやってきた忍者の末裔(この時点で設定崩壊してる気がする)ハンゾーだ。
「全く……わかってないなぁ、みんな。それらは全部……先輩達がバカだった所為だよ!」
「おい誰かそいつに自分のあだ名を教えてやれ」
学園一の不良(またも僕調べ)の秋介が僕の方を見向きもせずに言った。
確かに僕には本名の「秦仲春」をもじった「頭が春」という不名誉なあだ名があるけれど、それはごく一部の学園の、心無い生徒・教員全員に知られているだけで、世界的に言ったら全く知名度のないあだ名だと言うことを声を大にして言いたい。
「ふふふ、秋介、忘れてるみたいだね。僕達が去年起こしたあの事件の事を!」
「あの事件……まさか、あれか⁉︎」
「そう、僕らが去年起こしたあの事件。【クリスマス人質立て篭り事件】さ! あれが原因で問題を避ける為にバレンタインが禁止になったと言えば、その言葉の説得力は最早、神の言葉に等しいよ!」
【クリスマス人質立て篭り事件】とは去年、僕らがクリスマスに起こした事件だ。放課後、クリスマスデートなるものに繰り出すであろう男子を人質に教室に立て篭り、『全ての男子にクリスマスを』をスローガンに女子や先生相手に戦いを繰り広げた。
人質に倒れられては困るので人質には絶え間なく砂糖水を『今日はもう甘いものは食べられない。ケーキなんて食べられない』と言うまで飲ませ続けた。
その結果僕らは怒り狂った先生達との楽しいクリスマスを手にする事が出来たのだった。
「た、確かに説得力はあるでござる……しかしそれは……」
「あぁ、バレンタインを奪われた女子達の怒りの矛先が俺達に向くんじゃねえか?」
2人が呆れ気味に言う。
確かに……そこまで考えてなかった。
「ずっと……考えていたのです」
今までずっと黙っていた委員長っぽい(委員長ではない)新山が口を開いた。
「我々が勝利するには女子の助けが必要なのではないか、と」
「女子の……助け?」
何を言い出すんだこいつは?どちらかと言うと女子は敵なのに。
「もし去年事件を起こした我々がバレンタイン禁止の噂を広めて回ったとして、女子達に信じてもらえない、更にもし事実になった場合我々が天国中引き回しの上打ち首地獄門になるのは確実。なので、女子の力を借りるのです」
「女子の力を借りると、どうなるの?」
「まず仲間の女子にバレンタインが禁止になったらしい、という噂を流してもらいます。それならば信用される可能性が高い。そして禁止の理由を何の確証もない"憶測"という形で話して貰うのです。それならば我らの安全は保障され、バレンタインにチョコを持ってくる女子も減ること間違いなしです。そして元々学園側はバレンタイン反対派ではないが肯定派でもない、それならば面倒ごとは避けようとするでしょう。去年のことを考えて、バレンタイン禁止に乗ってくるかもしれません」
僕達は数秒の間を置いた後、一斉に叫んだ。
「「それだ(でござる)!」」
「それ、なの?」
「さぁな、俺には関係ねぇ」
2人ほどまだこの計画の素晴らしさを理解していない奴らがいるけど関係ない。
この計画なら確実にバレンタインを殲滅する事が出来る!
「じゃあみんな、呼べるだけ女子を呼ぶんだ! 罵煉汰淫殲滅作戦、開始だよ!」