里の秋
心臓の音が安らぐのは母の中にいた頃の影響らしいが、それを否定するすべもなく、そう感じている私はそれを否定する意味はない。
卵から生まれた雛は自力で殻を割って出てくるが、人は違って、助けがなければ死んでしまうのが当たり前である。
どこか遠くへいってしまった父も帰ってこず、苦労を掛けてしまった母は過労で死んでしまった。
そんな環境で唯一の助けと言えばラジオで、放送は届かなくてもカセットテープがあれば聞けたので問題はない。
その肝心なカセットテープの中身はというと、母の心臓の音である。
聴診器を通して録音されたそれは雑音が多くても懐かしく、嫌ではなかったと耽っていた。
そこでトントン、とドアを叩く音がして、小動物のように震え上がって心臓が高く鳴った。