正義はやめた
「てめぇ生意気なんだよぼけ。おい、お前らやれ」
そうブレザーをかなり着崩した大柄な少年が言うと、周りにいた生徒達が小柄な少年に殴りかかり始めた。
「ぎゃはははは こいついいサンドバッグになるなぁ」「泣いてやがるぜこいつ気持ち悪ぃ」「あまり顔に傷を付けるなよ、このことが教師にバレたら面倒だからな。」
大柄な少年が取り巻きにそう伝えた時だった。
「やめろ!」
大きな声でしっかりとした口調でそう聞こえた。大柄な少年が振り向くと中肉中背のどこにでもいそうな、だがその目はどこまでも真っ直ぐで、淀みのない瞳をした少年が立っていた。
「なんだてめぇ」
大柄な少年がその少年を睨むが少年は全く気にした様子がなく、真剣な目でいい放った。
「虐めなんて下らないこと、やめろ!」
「はぁ!誰だてめぇ!この俺に指図すんじゃねぇよ。てめぇもこいつみたいにサンドバッグになりてぇのか?」
「はぁー...
もう一度だけいってやる低能。そういう他人を貶めることでしか自分の優位性を確認できない弱者のやる可哀想な行為をやめろといったんだ。」
「なんだとてめぇ!あんまなめてんじゃねぇぞ!!」
そう大柄な少年は叫ぶと殴りかかってきた。
「死ねー!!」
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「んううぅ」
目を覚ますと見慣れたいつもの天井が目に入った。俺がこのアパートに来たときから付いている天井のしみは今もなお健在で、目を覚ますたび独特な形のしみが嫌でも目にはいる。だが何年も住んだ今となっては目にするたびに我が家にいるんだと実感できるから、なくてはならないしみだ。
そういえば何か夢を見ていた気がする。
懐かしく、だがとても気が滅入るような内容の夢だった気がする。
...まぁ思い出せないなら考えていても時間の無駄だから考えないが。
寝ぼけ目を擦りながら今現在の時刻を確認するために携帯に手を伸ばし、カーテンから光が入ってきていないことに気付く。
恐らくまだ深夜の時間帯なのだろう。そう思いつつも携帯を手に取り時間を確認する。
3:36
変な時間に目が覚めてしまったな。明日は朝からバイトをいれているのでもう一度寝ようと思ったが目はパッチリと覚めていて寝ようにも寝付けず、暇だからコンビニに行くことにした。あそこならジャンプを立ち読みできるし朝まで潰せるだろうと、そう考えてのことだった。
タンスからTシャツとジーパンを引っ張りだすと財布と携帯をポケットに入れ、電気の確認をしてから家をあとにした。
季節は夏で、夜だからか蒸し暑さが感じられる。家の中はこの時間帯だからか全く明かりが見られない、その代わりか街灯が行き先を照らしてくれる。何がいいのか、蛾は光に群がり虫が嫌いな俺としては見ていて気持ち悪くなる光景だった。
もともとコンビニは近くにあり、徒歩でも十分に辿り着ける距離なので変な時間帯に起きたりするとよくこうして来たりしている。
コンビニに足を踏み入れ真っ先に立ち読みコーナーへ向かう。立ち読みコーナーとはいっているが実際、コンビニでの立ち読みは許されているのだろうか?
そんなことを考えながらジャンプを手に取ろうとしたときだった。
「騒ぐんじゃねぇぞ!今ある金をこのバッグに詰めろ!」
黒いヘルメットを被った全身黒色の服を着た男がナイフを店員に突きつけて脅していた。
店内にいる人は店員と犯人、そして俺だ。おそらく奥にももう一人くらいは店員がいると思うが出てくるとは考えにくい。わざわざこんな場面に好き好んででてくる馬鹿はいないだろうからな。
そう考えると止められるのは俺だけになるな。
今まで生まれてから正義を信じ正しいことを行ってきた自信がある。
だってテレビで見た正義のヒーローはいつだって笑っていて、幸せそうだったから。だから俺もいつかは報われるんじゃないかって、幸せになれるんじゃないかって、そう信じて頑張ってきたのにこの仕打ちはあんまりだ。
でも、だからといって目の前の光景を放ってはおくわけにも行かない。
そう思い犯人に後ろからばれないように近づいていく。
そーっと、そーっと そしてあと3メートルというところで気づかれてしまった。
「てめぇいつの間に後ろに!!」
犯人はそういうと手に持ったナイフをこちらに向け襲いかかってきた。
やばいっ
そう思ったときにはもう既に遅く、犯人の持つナイフは深々と俺の胸に突き刺さっていた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
そう頭で考え、次には胸が熱くなっていくのを感じる。口の端からは赤い液体がこぼれ、目の前が霞んでくる。
このまま死ぬのか、この世界に俺が生まれた意味ってなんだったんだ。
正義のヒーローってなんだったんだ。
...いやもうとっくに気付いていたのかも知れない、初めから正義のヒーローなんて幸せになれないということに。だからこんなにも報われることがないということに。正義のヒーローなんて損な役回りだということに。
大体報われたいだとか正義のヒーローが見返りなんか求めちゃいけないよな。ははっ..
だから決めたよ。
もうヒーローはやめる
そう決意すると主人公要悠利は深い眠りについた。




