八
(まさか、な……)
ムギュ。
(ん?)
左腕には由嗣。
右腕に押しつけられる柔らかい感触に、斡真はライトを向ける。
「うぅぅ、眩しぃ!」
「ぁ、ワリぃ、」
右腕に しがみついているのは薫子だ。
この柔らかい感触は豊満な胸の弾力であると察するなり、斡真の口元には妖笑が浮かぶ。
(イイモンもってんなぁ、女子高生!
まぁ、こうゆうサービスの1つくらい無きゃ、やってられねぇよなぁ!)
「足元、気ぃ付けろな」
「はぁい!」
「うん。気をつける」
「由嗣、テメェにゃ言ってねぇ」
「冷たいなぁ……」
「何か、肝試しみたいですよねぇ!」
「そんなノリにしかなれねぇはなぁ」
一瞬の不安は薫子の巨乳によって追いやられるから、斡真も存外ゲンキン者。
3人が団子になって歩く中、勇敢にも先頭を行く結乃の足が止まる。
「行き止まり……」
何と無しに歩いて来たが、落し物と言える物はあっただろうか、
結乃が呟けば、斡真は額を抱える。
「それらしいモン、見たヤツいるかぁ?」
「アタシ、何も見てませぇん」
「ごめん、怖くて目ぇ閉じてたよ、僕……」
見た目ばかりは貴公子な由嗣は使い物にならない事が判明。
斡真は由嗣の手は強引に払い、薫子には やんわりと制して腕を取り戻すと、ライトの光で虫を追いやり、行き止まりの壁をドンドンと叩く。だが、ビクともしない。
半ば焼けっぱちに蔦やらを引っぺがせば、そこには3両目に続く貫通扉が見つかる。
洞窟コンセプトの車両とでも言えば良いのか、そんな名を打って切符を売り出せば、乗車率は上がりそうだ。
「見る限り、3両目も停電してるぞ。そもそも、ミクロ? ……何だっけ?」
「クロミカズラ、だったと思います」
「ソレが何だか分かんねぇっつのが問題だっつぅ話」
「ホントですよねぇ! 1度戻って国生サンに聞いてみませぇん?
ヒント貰ってぇ、もぉちょっと探しやすいようにして欲しいかなぁって!」
「言えてる。なぁ、由嗣」
「ソレもそうだね。じゃ、戻ろうか。えっと……結乃チャン、良いかな?」
「え? ぁ、はぃ……そうですね、」
まだ時間は10分と経っていないから、出直した所で支障は無いだろう。
ソレよりも、この薄気味悪い空間から早く退散したいのが本音。
4人は踵を返し、1両目の灯りに向かって歩き出す。
(この番組プロューサー、謎とかせる気ねぇだろ?
こんな、ただ暗いだけの車内にシロートぶっ込んで、
暗視カメラ映像だけで何分の尺が埋められると思ってんだか。
リアクション芸人じゃねぇぞ、俺はと。
つか、これを本気でリアルだと思う現代人がいると思ってんなら、もぉちっと頭使えって、テレビマン)
斡真が心中で文句を垂れていると、背中がピンっと引っ張られる。
「ぁ?」
「! ……す、すいません、」
今度は最後尾に付ける結乃の心細さの表れ、シャツの裾を摘まれた様だ。
左右に由嗣と薫子。背中は結乃に縋られるとは、随分とアテにされたもの。
「別にイイけどよ。つか、由嗣、テメェにゃプライドはねぇのか」
「僕を呼んだのは斡真だろっ? 我慢しろよ、コレくらいっ」
「あの、スイマセーン。何かアレ、変じゃないですかぁ?」
「アレ?」
「1両目の灯り、遠くなってるよぉな気ぃしませぇん?」
そう言えばだ。
歩いても歩いても、目標とする1両目の灯りが近づかない。
訝しんで立ち止まれば、薫子が感じた通り、灯りが遠のいているのがハッキリと解かる。
「ど、どうなってやがんだ!?」
周囲にライトを向ければ、左右の岩肌が嚥下する様に波打ち、退路を延ばして行く。この儘では道標を見失ってしまう。