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ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
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七 「2両目」


 不親切な事に、2両目は電気が点くでも無い暗闇。

1両目の照明が差し込むも、手前を照らすばかりで視界の助けにはならない。

懐中電灯の代りに携帯電を使う他無いだろう。

斡真は渋々と準備を整えると、貫通扉の前で立ち往生する結乃の背をトン! と押す。


「オラ、行った行った!」


 結乃は押された勢いで2両目に飛び込む。

見通しの悪い車両の床は、グニョグニョと泥濘の様に不安定。

足が縺れて転びそうになった所で斡真に腕を掴まれ、ギリギリの所で踏ん張る。


「ワリぃ、大丈夫か?」

「は、はぃ……、」


(コイツ、手ぇ震えてやがる。サクラじゃねぇのか?)


 結乃は仕掛け人の1人では無いのか、体の震えすら演技だと言うなら末恐ろしい才能だ。


「怖いのかよ?」

「ぃ、いえ、別に……」

「まぁ気楽に行こうぜ?

どうせ、セットがチャチぃから暗くして誤魔化してるってオチだろ?」

「そうでしょうか……」

「違うって?」

「ぃぇ……それにしては、何か変だなって、」


 饐えた様な酸っぱい臭いが充満し、カサカサと蠢く音が360度を包囲している。


「腐った缶詰と、サウンドホラーってヤツか?」


 斡真が携帯電話のライトを左右に向け、車内の様子を見やれば、ムカデらしき多足類が灯りから逃れる様に壁を這う。結乃は背を丸めて両手で顔を覆う。


「ひ、ひぃ!」

「ホログラフじゃねぇの?」


 何にせよ、気色悪い。

1両目から顔を突き出して様子を窺う薫子は震え上がって後ずさる。


「これ、ホントにテレビ!? リアル過ぎません!?」

「虫は兎も角、暗いのはちょっとな……ケガしたくないしな……

申し訳ないが、キミ達だけで中の様子を確認してくれないか?

安全だと分かれば、俺も探すのを手伝うから」


 ご都合主義な小金井の言い分には腹も立つが、何かあれば1番に喚き立てそうな手合いには引っ込んでいて貰った方が良さそうだ。

斡真は小金井をシッシッと手払うと、代わりに由嗣を見やる。


「由嗣、お前は来いよ」

「え!? ぼ、僕、オカルトは苦手で、暗いのも虫も本当に勘弁してって感じだからっ」

「見りゃ分かんだろ、照明が足りねんだよッ、男なら文句言わず さっさと来い!」

「ぅ、うぅ……ゎ、分かったよ、しょうがない……、」


 渋々。渋々。

由嗣はライトを準備した後、勇気を持って2両目へ。


「うぅ、あぁ、足元、気持ち悪ぅ……」

「ぅオイ。なに人の腕に掴まってんだよ?」

「だ、だって、作り物にしたって怖いじゃないかっ、」

「ソレでも男かぁ?」

「何とでも言ってくれよ、僕はね、勉強とスポーツ以外は点で駄目なんだからっ」

「自慢にしか聞こえねぇし」


 斡真・由嗣・結乃の3人が行くとなると、薫子は素性の知れない国生と癇症な小金井と共に1両目に残る羽目になる。

『それは御免』と言う様に、薫子は慌てて2両目に飛び込む。


「ァ、アタシも行きますからぁ!」


 4つの細いライトが2両目を照らせば、視界もだいぶ助けられる。

天井の高さや幅は電車内と変わらないが、壁は洞窟の様な凸凹とした質感。

蔦や蔓の間を縫う様に沢山の虫が生息している。

随分と金のかかったセットだと感心しながら、斡真は結乃に問う。


「こんな暗い中で……何だっけ? なに探せって?」

「えっと、クロミカズラ、」

「それ、何だよ? 最近 流行ってんのか?」

「さ、さぁ……」

「分かんねぇで探せってのかッ?」

「行ける所まで進んでみない事には……」

「ハァ。分かったよ。まぁ取り敢えずは ソレっきゃねぇか」


 振り返れば、1両目から零れる光が僅か。



(闇が濃い……)



 あの光を失えば帰り道が分からなくなってしまいそうな程、空間はブラックアウト。

こんな闇を人の手で作り出せるのか、そんな疑問すら沸くリアリティ。



『闇が濃いが故に、何が隠れていても可笑しくはない』



 暗闇を前に臆病風にでも吹かれたか、国生の言葉が頭を過ぎれば悚然させられる。


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