六
「ちと、タイム」
斡真は片手を挙げ、作戦タイムを要求。
クルリと踵を返し、一同に向き直ると、4人を手招く。
互いの顔色を窺いながら円陣になり、斡真は頭をワシャワシャと掻きながら苦笑する。
「え~っと、俺ら死んだみたいデス」
「そ、そうゆう設定なの、かな?」
「何だそれは!? 俺は帰ってやらなきゃならない事があるってのに!
このままじゃ市場が閉じちまうだろ! 何とかならないのか!?」
「知らねぇよ、そんな事ぉ。こうゆうのに慣れてるヤツがいるんじゃねぇのかぁ?」
中にサクラが混ざっているに違いない。
ともすれば、見た目が良好すぎる由嗣が怪しい。
斡真に疑いの目を向けられれば、由嗣はブンブンと大きく頭を振る。
「な、何!? 僕が仕掛け人だとか言いたいのか!? そんなわけあるかよ!」
「あぁ、怪しいな、キミ! それなら そうと言ってくれ!
俺の仕事は1分1秒を争うんだ! 売り買いの注文に乗り遅れたら大損しちまう!」
「イヤイヤ、僕じゃありませんってっ、勘弁してくださいよぉ……」
「俺以外 全員サクラとかってオチなら、
面目ねぇけど、俺のリアクションに期待しないでくれな?
バイト代にもよるけど。つか、俺をハメた張本人教えろ。ソッコで〆っから」
「え? これ、ホントにテレビですか? カメラ回ってる? だったらヤバイっ」
女子高生=薫子は、ウエーブのかかった長い茶髪を手櫛で梳き始める。
仕舞いにはカラーリップをつけ直す始末だから、この迷惑な企画に乗り気だ。
結乃は押し問答を続ける一同の輪から抜け、国生に詰め寄る。
「あの……国生サンの頼みを聞けば、ココから出して貰えるんですね?」
「ヤツガレの言葉に二言は無い」
「解かりました。どうすれば良いんですか?
私、早く家に帰りたいので、簡単な問題にしてください」
座席に置かれた結乃の手荷物にはケーキ屋の箱。
保冷剤が効いているとは言え、早く帰らなければ生菓子が腐ってしまう。
雖も、コレも周到な段取りの1つに違いないと思える。
小金井は結乃の背に目を側み、呆れ返って溜息を零す。
「強引に話を進めようとしてるって事は、あの子がグルか?
何なんだ、大人しそうな顔して、全く……」
「えッ、意外すぎるぅ、」
番組関係者にしてはパッとしない結乃の外見に、薫子は思わず笑いを含める。
何であれ、結乃がやる気を見せれば、話は次の段階へ。
国生はスーツのポケットから懐中時計を取り出して言う。
「ヤツガレの所望は、黒御鬘」
耳慣れない国生の要求に斡真は首を捻る。
「クロ、ミ? ……は? 何だソレ?」
「黒御鬘は黒御鬘。次の車両の何処かにあると思うのだが」
「ドアが開かねんだよ。どぉやって行けって?」
「制限時間は60分。
それ迄に黒御鬘を探し出し、ヤツガレに届けて頂きたい。宜しいか?」
「だからドアが、」
ガコン。
貫通扉が揺れに合わせて僅かに開閉する。
「開いた……」
「ヤツガレがその扉を開けておけるのは60分。さぁ、頼んだよ、皆の者」
カチッ……とボタンを押せば、懐中時計の針が動き出す。
どうあっても、この企画を押し貫く気でいる姿勢には脱帽だ。
(何でこんなクソ下らねぇ企画にキャスティングされちまったんだか……
もしや、俺に平手はった女達からの推薦か? それなら有り得る。
所謂、お仕置き的な?
ソレなら乗っかってやらなきゃ、ほとぼり冷めねんだろぉなぁ……)
日頃から恨みを買っている自覚はある。
この押し付けがましい企画に便乗してやる事で裏切った女達への贖罪になるなら、なけなしの男気を見せる他あるまい。