幕・参
「その内に助けが来っから、疲れたなら寝ててもイイぞ。何かありゃ起こすから」
「ありがとうございます……」
「どっか、イテェとこあったら言えよ? 救急隊が来たら説明しなきゃなんねぇし、」
「痛い……」
「何処?」
「取り残されて……痛い……」
「―― 何、言ってんだよ……?」
「どうして……生き残っちゃったんだろう……」
やはり。やはりだ。
生き残る事の重大性に、結乃も気づいている。
ソレは同時に、失われた命の尊さを痛感しているからだろう。
目の前に広がる多くの死が、生き残った事の意味を問いかけて来るのだ。
(何故、生き残ったのか――)
『斡真、お前は長生きしろよ……』
(親父……)
『長生きして、優しい人になるんだろ?』
(誰の言葉だった?)
『自分で決めた事なんだ、兄チャンが見てなくたってもう大丈夫だろ?』
(兄貴? いつの、会話だ……?)
斡真は奥歯を噛み締める。
「――ザケンな……、」
「……?」
結乃の目が向けられれば、斡真は勢いの儘に小さな襟元を捻り上げる。
「俺に『助けてくれ』って縋ったのはお前だろ!
ソレって死にたくねぇって事だろ!」
(そうだ、俺も必死に手を伸ばした。踠いて踠いて泥水を掻くように……)
「ソレが生き残った事の意味だって思わなかったら、死んじまったヤツらはどうなる!?
死んだら何処に飛ばされるか分かんねんだぞ!
ただ暗いだけの世界に ほっぽり込まれるかも知れねんだぞ!」
(ただ暗い、そんな景色ばかりを見ていたような気がする……)
「そんじゃ、生き残った方がイイに決まってんだろが!
今更つまんねぇ事気にしてんじゃねぇよ!! 勝手に人生諦めてんじゃねぇよ!!」
(俺は いつも怒鳴るばっかりだ。どうして優しい人になれないんだろう……)
初対面に頭ごなしに恫喝され、結乃は目を丸くして瞬きも忘れる。
「まず、そのクソ長ぇ前髪切れよ!」
「は、はぃ……」
「ソレから! 少し太れ! ガリガリ中坊!」
「こ、高校生です……」
「あぁ!? ハァ!? 見えねぇわ、全くと!」
「す、すみません……学校に、行ってないので……」
「行けよ! まず行けよ! やる事やってから生き死に考えろ!」
「は、はぃ……」
放り投げる様に乱暴に襟元を解放すると同時、車内に光が差し込む。
隙間から見えるレスキュー隊のユニホームに2人は息を飲む。
「生存者、発見しました! 無事です!」
無事。
外から向けられるその言葉に、2人は生きている事を実感する。
「やっと、戻って来れた……」
「明るい、場所……」
解ける緊張感に、背が丸くなる。
レスキュー隊の手によって地上へと連れ戻されれば、頭上は既に夜空へと色を変えている。
一先ずは担架に寝かせられ、意識レベルのチェック。
救急車内にて早急に傷の手当と問診を受けるが、大事故に巻き込まれたにも関わらず、2人の怪我は軽傷であるから、『奇跡』と言う言葉が口々に囁かれる。
斡真の両手は包帯でグルグル巻き。
寝て待つ程 重傷で無い斡真は、借りた毛布で肩を温めながら救急車両を出て喧騒に耳を傾ける。




