幕・弐
「何で、俺、」
(何で、泣いてんだ?)
「何で、死んでんだよ、お前……」
(見ず知らずの相手なのに、何でこんなに、悲しいんだ……)
「どうして、生きてねんだよ、お前……」
穏やかな死に顔。
この死の姿に、身悶える程の悲しみが迫る。
「うわぁあぁあぁ!! あぁあぁ!! ッッ、うあぁあぁ……」
(母サンが死んで、兄貴が死んで、何度、何度、大事な人の死を見送ればイイ……
優しいヤツばっかり先に逝って、俺みたいな出来損ないが生き残って……)
「クソ、クソ、クソ!! こんな理不尽な事があってイイのかよ!!
返せ! 返せ! 返せ! 返せよぉ!!」
泣き叫ぶ間に間、僅かに聞こえる呻き声。
「―― う、あ……ぁ……」
「!?」
生存者だ。
何処かに生存者がいる確信に、蹲って泣き腫らした顔を上げ、大きく息を飲む。
「ぃ、生きてるのか!?」
「た、す……け……」
「何処だ!!」
女のものと思われる声は、そう遠く無い距離から聞こえて来る。
床を這い蹲って声の主を探し、潰れたケーキの箱を見つけた所で発見。
丁度、ヘシ折れた降車扉が支えになって大事を逃れたのだろう。
見た所、傷を負っている様子も無さそうだ。
「ち、中学生かッ? オイ、大丈夫か! しっかりしろ!!」
「ゆ、き、と……」
「あぁ!? 俺は斡真だ!」
誰と間違えているのか知れないが、斡真が強く名乗れば少女の目が開く。
「あ、つ、ま……?」
「呼びつけか……いや、まイっか。お前、意識は? 怪我はっ?」
「ぁ、あぁ……ゎ、分かりま、せん……でも、多分、大丈夫です……」
「そっか。名前は?」
「羅川、結乃……」
「結乃……お前、スマホ持ってっか?」
「えっと、カバン……」
車内は乱雑。何が何やら分からない。
手荷物は諦めた方が良さそうだ。
「俺もスマホ落としたみたいでな……
クソっ、電話さえ使えりゃ外の状況が確認できんのにッ、」
思い通りにならない苛立ちに当て所なく周囲を見回せば、結乃が指を指す。
「あの、ズボン……後ろのポケットに入ってるみたいですけど……」
「あぁ!?」
ボトムのポケットに携帯電話を突っ込む習性は無いのだが、言われた通り手を回せば棚から牡丹餅。
然し、そのフォルムは斡真の持ち物とは異なる。
「俺んじゃねぇけど、誰んだ?」
考えた所で仕方が無い。
コレも強運の1つと思って笑納するとしよう。
斡真は携帯電話が機能する事を確認し、手っ取り早く警察に電話をかける。
アレコレの遣り取りは20分に及んだだろうか、一通り1両目の状況を説明すれば、救援の時間も短縮されるだろう。後はプロの助けを待つばかりだ。
斡真は結乃を降車扉の隙間から引っ張り出すと、なるべく惨状の見えずらい最前列へと移動する。
(他の車両は全滅なのか? 生き残ったのは俺達2人だけか?
オイ、だったら どうすんだよ……素直に喜べねぇよ、何だよ、この罪悪感は……)
多くの命が奪われた中での数少ない生存者。
ソレは、日頃の行いや強運の言葉で片付けるべきものでは無い。
奇跡の喜びなぞ、失われた命を知れば 忽ち薄れてしまう。
救出される前から罪悪感に項垂れる斡真の傍らで、結乃も言葉無く膝を抱えている。
同じ様な事を考えているのかも知れない。
(出来損ないの三流大学生と、パッとしねぇ暗い中学生女児……
ハリウッド映画なら、製作中止のレベルだ、)




