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ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
54/57

幕・壱


シュゥゥゥゥ……

シュゥゥゥゥ……



(ココは何処だ……?)



カラン……

ギギギギ……



(夢を、見ていたような……兄貴に会ったような……いや、もっと沢山……)


 体中が痛む。鉄が焼けた焦げ臭さも鼻に憑く。


 うっすらと目を開ければ、辺りは残骸だ。

人が倒れ、荷物は散乱し、細長いパイプの様な物がグニャリと曲がっている。

鉄板の様な壁も激しく歪んでいる。

窓ガラスの破片だろうか、ビーズの様に細かく飛び散り、異国の砂浜の様にも見える。



「!!」



 ハッと息を飲めば、瞬く間に状況が理解できるだろう。

痛む体を無理矢理に起こす。


(電車、トンネルが、崩れて……)


 大学を終え、帰りの電車に乗り込み、出発した所までは日常の延長線上。

だが、地下トンネルから地上へ出る間際に起きた大きな震動に、体が打ちつけられた事を思い出す。


 見やれば、1両目を残して後部車両の全てが崩落に飲み込まれ、瓦礫に潰されている。

辛うじて崩落から逃れる1両目は脱線。

トンネルの壁を削って横倒した車両の輪郭は捩じれ、一見では車内とは思えない程の惨状。


「うぅ、あッッ、、イッテぇ……ッッ、」


 ガラスの破片が転がる上に両手を突いた事で両掌は血まみれ。

爪も何枚か剥がれているが、足は何とか動きそうだ。

この惨状にして この程度の傷ならば、奇跡としか言い様が無い。

恐る恐る腰を挙げ、声を絞り出す。


「だ、誰か、助け……、」


 救援活動が始まっているのか、藁をも縋る思いで車内を見回す。


「生きて、るヤツ……い、いない、のか……?」



……

……



 反応は無し。

倒れている乗客の誰もが息絶えたと言うなら信じたくない光景だ。

頭を振って現実を否定。物伝いに車内を進む。


「オイ、誰か……」


(皆、死んでるのか……? ―― あぁ、そうだろうよ、

あっちこっち おかしな方向に体がネジくれて、ソレでも生きてるって方が残酷だろ……)


 足を止める。


(あ……最新の電子パット。めちゃくちゃ高ぇんだよな、コレ……

多分、このオッサンのだろうな……)


「あの、すいませ……うあッ!!」


 片腕が無い。

脱線の衝撃で失ってしまったのだと察すれば、忽ち吐き気に襲われる。

両手で口を覆い、喉の奥から込み上げて来る酸と格闘。

暫く後に吐き気が収まれば、もう生存者を探す気力も湧かない。


(何処もかしこも死体、死体、死体……)


「ふざけ……ポンコツ、走らせやがってッ、」


 視界の端に見える うつ伏せた女子高生の手にはカラーリップ。

助けを求める様に伸ばされた手が遣る瀬無い。


(あぁ、女子高生……こんなガキまで死んじまいやがるのかよ……)


「俺だけなのかよ、生きてんのはぁ、何で……ふざけんなよ!!」


 この叫びに応える様に、グラッ……と座席の人影が動く。

生存者か、期待を胸に振り返れば、まるで眠るように腰かけた青年の姿。

足を怪我している様だ。墨を塗った様に黒ずんでいる。



「生きて――」



 手を伸ばし、触れてみれば既に冷たくなっている。息は無い。



「小奇麗なツラした兄チャ……、アレ……?」



 何故か、堰を切った様に涙が溢れ出す。


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