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ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
51/57

五零 「始まりの駅」


「スゲェ、俺の強運……」


 ソレはココにいる全員が同じく思っている事だ。

特に、国生の驚きは一入。


「見事であった、高槻斡真。お主は やはり荒武者よ」

「褒めてんのかよ、ソレ?」

「無論」


 斡真は体を起こし、国生を見上げる。

その隣には、すっかり落ちついた面持ちのムツミが並んでいる。


「ソレが桃?」

「私が意富加牟豆美命。国を生むと致した この方より頂いた名。

桃とは……何処からそのように伝わったのか知れませんが、

きっと黄泉の入口に、桃の枝木が生えていたからでしょう」


 この口振りから言って、ムツミは国生に会う事で記憶を取り戻したのだろう。

何であれ、これで国生の所望は全て果した事になる。


「国生、コレで俺達も お役ご免だろ?」

「名残惜しくもあるが」

「気持ちだけ有り難く貰っとくよ」


 斡真は苦笑。

ココから解放されれば、2度と国生と会う事は無い。

名残惜しく思う気持ちが無いと言えば嘘になるが、このまま車内に留まっては、折角手にしたチャンスを逃してしまう。



「では、約束通り、始まりの駅へ案内しよう」



 始まりの駅。

そこに辿り着けば、斡真達は元の世界に戻る事が出来る。

死を免れ、意識を取り戻す事が出来る。


 電車は進む。

車窓からの景色が、次第に明るくなっていく。

斡真と結乃は揃って窓にへばり着き、色彩の変化に安堵の一息をつく。


「由嗣、見ろよ! 明るくなって来たぜ!」

「陽が昇るみたいです! すごくキレイです!」

「そうだね。やっと帰れるね。

やっぱり……戻ったら皆、お互いの事を忘れちゃうのかな?」

「え? そうなのか、国生っ?」


 国生が僅かに目を細めれば、傍らに腰かけるムツミが代わって頷く。


「ココは命無き者の訪れる黄泉比良坂。

今や、現世と常世には境界が引かれ、生者の記憶には残らぬ世界です」

「そんな……」


 言われてしまえば元も子も無い。

結乃が肩を落とすと、斡真は調子よく笑って矮小の背を叩く。


「別にイイじゃねぇか。グロイもんスッカリ忘れて、バッチリ戻れるんだしよ!

こうやって会えたんだから、また会えるって気もするし。

いや、絶対! なぁ、由嗣!」

「……そうだね、」


 由嗣は斡真から目を反らし、薄い笑みを見せる。

そして、国生が立ち上がれば電車は速度を落とす。



「始まりの駅だ」



 小さなブレーキ音を立て、電車は止まる。窓の外は真っ白だ。

光に包まれている様でありながら、眩しくは無い。雲の上の様な淡い世界。


 降車扉が1枚開く。


「感謝する」

「ああ」

「末永く、現世を謳歌すると良い」

「ああ」


 湿っぽい別れは願い下げ。

斡真は結乃の背をトン! と押して、電車の外に連れ出す。

そして、電車を振り返れば、そこには国生とムツミ、その隣に由嗣が佇む。


「由嗣?」

「……斡真、ごめん。僕は降りられないんだ」

「なに言ってんだ、お前……」


 由嗣と結乃が訝しめば、由嗣は自分の脹脛に目を落とす。



「傷口から黄泉が入り込んでしまったから、」



 3両目の冠水で由嗣は異形にフクラハギを噛まれている。

その時に、異形の牙が肉に食い込んだのだ。

斡真は息を飲んで察するも、受け入れられぬ思いで頭を振る。


「そんな、フザケ……嘘だろ……?」

「ごめん」

「な、何で言わなかったんだ……戻れないのに、何であんなムチャな事……」


 元の世界に戻れないと気づいていた由嗣が、何故アレ程 必死に黄泉と戦ったのか、その気が知れない。


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