四九
頭上を見上げれば、由嗣とムツミの姿は無い。
(由嗣、戻れたか? 戻れたよな? 絶対、戻っててくれ!!)
フッ……と、霧の様に斡真の指先が消える。
(溶ける ―― 体が、溶ける ――)
時機に、意識も闇に溶ける。
「斡真サン!!」
闇の中に響く、淀みの無い鮮明な声。
「チ、ビ……?」
コレは夢だろうか、頭上から結乃が落ちて来る。
ザァァァァァァ!!
――ザザッ!!
「斡真サン、助けに来ました!!」
「ぇ……?」
新しくシートを剥いで作ったのだろうロープを腰に巻き、暗闇の淵にダイブ。
見事な自棄ッパチで以て斡真の救出に駆けつけたのが矮小の結乃であるから驚かされる。
「何、お前……ヒーローか?」
「上で由嗣サン達がロープを持ってくれてます! 早く掴まってください!」
由嗣は無事にムツミを連れて3両目に戻る事が出来た様だ。
結乃は細い腕を伸ばし、斡真に肩を貸す。
そして、斡真の足にぶら下がる薫子を見下す。
「薫子サン……」
〈結乃ォオォオォ! ワザワザ自分から来る何てェエェエェ……
お前も引き摺り下ろしてやるからァアァアァ!!〉
薫子は斡真から結乃の片足に飛び移り、両手でしがみつく。
その重みに膝が抜けそうだ。結乃は薫子を睨みつける。
「言ったでしょ? もう助けないって」
結乃は長い前髪の隙間から大きな目を見開き、片一方の足で思い切り薫子を蹴りつける。
〈!?〉
顔面を蹴られた薫子は、結乃の足を手放す。
そして、真っ逆様にトンネルの先へと落ちて行く。
「また今度、迎えに来て。その時は、一緒に沈んであげるから」
結乃は枕木に指を引っかけ、力を振り絞って斡真の体を持ち上げる。
「大丈夫ですからねっ、
私、斡真サン達のお陰で沢山 休めたから、体力漲ってるんです!
だから、直ぐにココから連れ出します!!」
「……あぁ、」
「斡真サン、消えないでっ、しっかりして!!」
「……チビ、お前、カッケェ……、」
「っっ、はい!」
結乃は ただ帰りを待つだけの萎らしい女では無い。
ロープを作りながら体力の回復を待ち、タイムリミットが迫れば飛び出せるだけの準備を整えていたのだ。
だからこそ、斡真は結乃の粘り強さに感心してやまない。
「斡真! 結乃チャン!」
「由嗣……」
結乃は息を荒げ、斡真を3両目に押し上げる。
「結乃チャン、お手柄だよ!」
由嗣に差し伸べられた手を取り、結乃も続いて4両目を後にする。
そして、間も無く貫通扉は閉ざされる。
「丁度、60分が経過した。
お主らが見事ヤツガレの所望を果したがゆえ、そこな黄泉を切り離す事にも成功した」
4両目は灯りを取り戻し、本来の車内に姿を変える。
斡真の薄れた体も少しずつ輪郭が戻り、意識も徐々に鮮明になる。
無事に戻って来られた事を実感する頃には、消えてしまった指先も元通り。




