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ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
47/57

四六


「30分くらい……

えっと、四半刻経っても僕が戻らなかったら先に戻ってください。

時間はかかるかも知れませんが、諦めずに進み続ければ灯りが見えて来ますから。

少なくとも、国生と言う人がアナタを迎えてくれる筈です」

「貴方は……?」

「僕は大丈夫。そうだ。名前を言ってませんでしたね。僕は由嗣。アナタは?」

「オオカです。オオカムツミ」

「ムツミさん? それじゃ、斡真を宜しく」


 由嗣が腰を上げると、斡真は力なく手を伸ばす。


「待、て……」

「潔く待ってろよ、斡真」

「オオカ、ム、ズ ――、」

「はい、何でしょうか?」

「ああ、見つけるよ。意富加牟豆美命」

「私がどうかしましたか?」

「え?」

「由嗣……オオカ、ム、ズミ……」

「はい、ですから、何でしょうか?」


 話が混線して纏まらない。由嗣は瞠若する。


「え? ……ちょっと待って、……オオカ、ムヅミ、ノ、ミコト?

オオカ、オオカ……って、え!? オオカムツミの、命……

もしかして、アナタが!?」

「??」


 斡真は息苦しそうに胸を押さえながら、体を起こす。



「そうだ、由嗣……コイツだ、コイツが、桃だ、」



 由嗣の頭の中では【意富加牟豆美命】と漢字変換されていたから、直ぐに気づく事は出来なかったが、斡真の三流脳ミソではカタカナの音でしか理解されていない。

ソレが功を制した。由嗣はムツミの肩をわし摑み、見つめる。


「な、何て謎解きだ……コレが、桃? まさか、桃が人間に化けている何て……」

「桃? ぃぇ、私は、」

「そうか! おかしいと思ったんだ!

国生サンは最後に桃を投げ込んだ事で、黄泉から戻る事が出来た!

その感謝の気持ちを込めて、桃に意富加牟豆美命と名を与えたんだ!

きっと、名を授かった桃が人に変化する力を得た!

いや、もしかして桃じゃなく、最初から人間の生贄だったのかも知れない!」


 突飛だが、この空間に落とされてからと言うもの散々な目に遭っている。

何が起こっても疑えない。

何故ココにいるのか、何処から来たのかも分からないムツミが元は桃だったとすれば、記憶が無いのも無理は無い。

ソレでも名前ばかりは覚えていたのは、国生から与えられた栄誉に喜びが深かったからだろう。


「ゅ、由嗣、どうでもイイから、早くずらかろぉぜ……、」

「ああ! そうしよう!」


 ムツミには何が何だか解からないだろうが、事の次第を説明している時間は無い。

由嗣は斡真に肩を貸して立たせると、ムツミに手を伸ばす。


「帰りましょう、ムツミさん。アナタを待っている人がいる」

「私を?」

「ええ。急ぎましょう。話はその時にでも」

「は、はい!」


 ムツミは由嗣の手を取る。


 然し、黄泉を見た者は何人たりと帰してはならない。

1度、踵を返せばトンネル内は大きく揺れる。



ドォン!!



 突き上げられる様に地面は揺らぎ、3人は足を縺れさせて横転。

揺れは次第に大きくなり、腰を上げる事すら出来ない。


「斡真、大丈夫か!?」

「そ、そこそこの大ダメージだっつのッ、」


 振り返れば、奥から順に地面が崩れ出す。

地盤沈下だ。この儘では陥没に巻き込まれてしまう。


「由嗣、地面がヤベぇッ、」

「這ってでも戻るんだ!!」


 立てないなら腹這いになるしか無い。

然し、地面は徐々に傾き、前に進もうとする足をズルズルと滑らせる。

その傾斜が50度程にもなれば、丸っきり滑り台。

3人は線路の枕木に指を引っかけ、宛らロッククライミング。


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