四六
「30分くらい……
えっと、四半刻経っても僕が戻らなかったら先に戻ってください。
時間はかかるかも知れませんが、諦めずに進み続ければ灯りが見えて来ますから。
少なくとも、国生と言う人がアナタを迎えてくれる筈です」
「貴方は……?」
「僕は大丈夫。そうだ。名前を言ってませんでしたね。僕は由嗣。アナタは?」
「オオカです。オオカムツミ」
「ムツミさん? それじゃ、斡真を宜しく」
由嗣が腰を上げると、斡真は力なく手を伸ばす。
「待、て……」
「潔く待ってろよ、斡真」
「オオカ、ム、ズ ――、」
「はい、何でしょうか?」
「ああ、見つけるよ。意富加牟豆美命」
「私がどうかしましたか?」
「え?」
「由嗣……オオカ、ム、ズミ……」
「はい、ですから、何でしょうか?」
話が混線して纏まらない。由嗣は瞠若する。
「え? ……ちょっと待って、……オオカ、ムヅミ、ノ、ミコト?
オオカ、オオカ……って、え!? オオカムツミの、命……
もしかして、アナタが!?」
「??」
斡真は息苦しそうに胸を押さえながら、体を起こす。
「そうだ、由嗣……コイツだ、コイツが、桃だ、」
由嗣の頭の中では【意富加牟豆美命】と漢字変換されていたから、直ぐに気づく事は出来なかったが、斡真の三流脳ミソではカタカナの音でしか理解されていない。
ソレが功を制した。由嗣はムツミの肩をわし摑み、見つめる。
「な、何て謎解きだ……コレが、桃? まさか、桃が人間に化けている何て……」
「桃? ぃぇ、私は、」
「そうか! おかしいと思ったんだ!
国生サンは最後に桃を投げ込んだ事で、黄泉から戻る事が出来た!
その感謝の気持ちを込めて、桃に意富加牟豆美命と名を与えたんだ!
きっと、名を授かった桃が人に変化する力を得た!
いや、もしかして桃じゃなく、最初から人間の生贄だったのかも知れない!」
突飛だが、この空間に落とされてからと言うもの散々な目に遭っている。
何が起こっても疑えない。
何故ココにいるのか、何処から来たのかも分からないムツミが元は桃だったとすれば、記憶が無いのも無理は無い。
ソレでも名前ばかりは覚えていたのは、国生から与えられた栄誉に喜びが深かったからだろう。
「ゅ、由嗣、どうでもイイから、早くずらかろぉぜ……、」
「ああ! そうしよう!」
ムツミには何が何だか解からないだろうが、事の次第を説明している時間は無い。
由嗣は斡真に肩を貸して立たせると、ムツミに手を伸ばす。
「帰りましょう、ムツミさん。アナタを待っている人がいる」
「私を?」
「ええ。急ぎましょう。話はその時にでも」
「は、はい!」
ムツミは由嗣の手を取る。
然し、黄泉を見た者は何人たりと帰してはならない。
1度、踵を返せばトンネル内は大きく揺れる。
ドォン!!
突き上げられる様に地面は揺らぎ、3人は足を縺れさせて横転。
揺れは次第に大きくなり、腰を上げる事すら出来ない。
「斡真、大丈夫か!?」
「そ、そこそこの大ダメージだっつのッ、」
振り返れば、奥から順に地面が崩れ出す。
地盤沈下だ。この儘では陥没に巻き込まれてしまう。
「由嗣、地面がヤベぇッ、」
「這ってでも戻るんだ!!」
立てないなら腹這いになるしか無い。
然し、地面は徐々に傾き、前に進もうとする足をズルズルと滑らせる。
その傾斜が50度程にもなれば、丸っきり滑り台。
3人は線路の枕木に指を引っかけ、宛らロッククライミング。




