四五
「うーん。記憶喪失ってヤツか?」
「やめろよ、斡真。眩しそうじゃないか」
「あぁ、ワリぃ。つか、アンタ、気づいてから どれくらいココにいる?」
「目が覚めてから出口を探して……四半刻も経っていないと思います」
「オーイ、由嗣ぃ、シハントキって?」
「30分くらいかな」
「30分は経ってねぇって? なら、俺達が入って来た時間と同じくらいか。
アンタ、国生って男を知ってるか?」
「いいえ。ちょっと覚えが……」
斡真と由嗣は顔を見合わせる。
「言葉も変だし、国生が俺達の前にほっぽり込んだ部隊じゃねぇかと思ったんだけどな?」
「うーん、、千年に1度しか明けられない扉だったよね?
そうなると、少なくとも千年前の人と言う事になるけど、とても そうゆう年齢には……」
斡真達の前に国生の所望を取りに入ったと言うなら、この女は千歳を越えている。
好い加減、黄泉に同化している頃だろうに、ソレとも若さを保つ秘訣でもあるのだろうか、由嗣の表情は益々険しくなる。
「うーん、うーん、解からないなぁ、どうゆう事だろう?
アナタ、この先からココまで戻って来たんですよね?
その割りに襲われた様子がありませんが、大丈夫でしたか?」
「え? ええ。躯は沢山 見ましたが、襲われる事は……
あの、やっぱりココは危険なんですねっ? でしたら早く逃げた方がっ、」
女はイソイソと立ち上がり、浴衣についたホコリをバサバサと払う。
「いえ、待ってくださいっ、戻るのは まだ早いんですっ」
「俺達、この先に行かなきゃなんねんだよ」
「いけません! この先は隧道も崩れ、沢山の躯が……
壁や床も、死んだ人の体で出来ていたんですっ、
あんな惨たらしいもの、見るべきではありませんっ、」
身の毛も弥立つ惨状を思い出し、女は再び震え上がる。
然し、斡真と由嗣は意富加牟豆美命を見つけなければならない。
戻る事が黄泉の者を目覚めさせる事にもなる以上、この女にも共に進んで貰う必要がある。
「まぁ。何事も無く……ってわけにゃいかねぇよなぁ、流石に。
でも、俺達は死人かき分けてでも見つけなきゃならねぇモンがあんだよ」
「まぁ、何て事でしょう!?」
「どうして斡真はそうやって、女の人を怖がらせるのかなぁ?」
「ホントの事だろがぁ」
「あの、大丈夫ですよ。僕らは怪しい者じゃありません。
でも、今アナタに引き返されると困ると言うか、僕らが命の危険に晒されるかも知れない。
どうか、僕らに着いて来るか、そうでも無ければ、ココでもう暫く待っていて欲しいんです」
「そ、そんな……」
「オイ、頼むよ。つか、時間がねんだよッ、
アンタに解かって貰ってる暇じゃねぇっつぅ悲惨な状態なんだよッ、
って、あぁそうだ! 由嗣、お前、この人に着いててやれよ。
俺が先を見て来るから!」
斡真の提案に、由嗣は頭を振って断固拒否。
「斡真、ソレは駄目だ! だったら僕が行く! 斡真が彼女をみていてくれ!」
「何だよ、お前さっきっからぁ。いきなし過保護かぁ? 大丈夫だっての」
「僕の方が体力は残ってる! ソレに、運動神経だって良い!」
「ハイハイ。ンじゃ、その運動神経で この人守ったれ」
「斡真!」
どうあっても斡真を1人で向かわせる訳にはいかない程に由嗣は切迫している。
今度は腕を掴んで離さない。
(ホントにどうしたんだよ、コイツ……
この先に俺を行かせたくないのか? 何かがあるって言うのか?
この女が言うには、トンネルが崩れてるってけど……)
「トンネル ――」
(何だ? 何か、一瞬フラッシュバックした……)
ジリジリと電流が走る様に脳裏を掠めたのは、電車内の光景。
チラホラと空席も残る座席。敢えて座らず吊り革に掴まる乗客達。
ゴチャゴチャと混雑した車内の様子は いつ見たものなのか、斡真は額を抱える。
「うッ……、」
「斡真、斡真、どうした!?」
「電車……スゲェ、揺れたよぉな……、、」
「やっぱり僕が行く! すみません、斡真を看ていて貰えますか?」
「ぇ、……ええ、はいっ、」
やはり体力が回復していない斡真に4度目の黄泉は無謀だったのだ。
斡真は2人の手を借り、その場に腰を落とす。
(待ってくれ、俺は まだ動ける……いや、動かなきゃならねぇ……
早くしねぇと、次は誰が連れて行かれるか分かんねぇんだ……
チビだったらどうすんだよ……アイツ1人で逝かせるわけにゃ……)
気持ちは強くあれど、頭の中はグルグルと旋回。
体力の限界を知らせての不調なのか、あらゆる場面が呼び起こされて混乱が止まらない。




