四零
〈お前だよ、お前ェエェエェエェ!! この小娘がァアァアァ!!
俺が水の中で喰われてるのを知ってたクセに、何度も何度も蹴りやがってェエェエェ!!
その所為で腕が捥げちまったァアァアァ!!〉
「いやぁ!!」
薫子は両手で耳を塞ぎ、車内を逃げ惑う。
然し、向かう先、向かう先で窓が叩かれ、執拗に追い詰められる。
バン!! バン!! バン!! バン!! バン!!
「知らない!! 知らない!! アタシ、知りません!! もぉやめてくださぁい!!」
「薫子チャンっ?」
「オイ、どうしたんだよ!?」
薫子は車内のあちらこちらに体をぶつけながら逃げ道を探す。
薫子に何が起こっているのか、誰と喋っているのか、
斡真や由嗣、結乃にはサッパリ分からない。
1人で発狂している様にしか見えない薫子の惨めさに、国生は溜息を零す。
「降りるべきが降りぬが故に、黄泉が直接働きかけておるのだ」
「!?」
「何を吾程 恐れるのか、ヤツガレにも知れぬ所。
然し、黄泉に選ばれるは、相応の理由があっての事。
置管薫子もヤツガレと同様、黄泉の者の怒りに触れたのであろうよ」
黄泉の者となった小金井に名指しされたのだ。
生き残る為、薫子が緊急避難にとった行為は、決して逃れられない死のフラグを招いたに過ぎない。
「自分だけ助かろぉ何てしてない! だってだって、怖かったからぁ!」
〈嘘をつくなァアァアァ!!〉
「嘘じゃないってばぁ!! ホントに死ぬなんて思わなかったぁ!!
わざとじゃない!! もぉやめてぇえぇえぇえぇ!!」
絶叫を上げ、薫子は降車扉からポン……と飛び出す。
「ォ、オイ!!」
「薫子チャン!!」
薫子が降りれば全ての降車扉は静かに閉まり、電車は再び加速を始める。
サァァァ……と聞こえるホワイトノイズが空間に浮いて聞こえるのは、実に呆気ない薫子の最期を見届けたからだろう。
斡真は結乃を抱き締めた儘、車窓から見える暗闇を見つめる。
(ココにいられる分には安全……国生の力が俺達を守る、だけど……)
『この電車が停まって、駅に降ろされたと同時、現実の僕らの心臓も止まる』
『辛うじて生きているんだよ、現実の僕らは』
(ただ黙って電車に乗ってれば安らかだと、とんだ勘違いをしていた。
死は いつやって来るか分からない。どんな死に名指しされるか分からない。
黄泉があんだけ残酷だってなら、地獄は一体どうなっちまうんだって……)
斡真は地獄行きに腹を括っている。
然し、地獄がどれ程恐ろしい場所なのかは考えてもいなかったのだ。
黄泉の闇に閉じ込められれば、次にやって来るのは飢えと乾きによる苦しみ。
そして、黄泉の物を屠るのだ。
腐った水に湧き出す蛆を口にしてしまえば最期。
生前の姿は失われ、醜態の化け物と化す。
『地獄に比べれば、まだ黄泉の方がマシなのでは?』と言う安易すぎた発想に体が震える。
(ただじゃ済まねぇ……)
斡真の震えを感じ、結乃は頭を上げる。
「斡真サン……」
「! ……ぁ、あぁ、ワリぃ、」
結乃を懐から解放すると、斡真は壁に凭れる。
「大丈夫だよ、斡真。
意富加牟豆美命を手に入れられれば、ココから抜け出せる」
「簡単に言うんじゃねぇよ……
大体、その、オオカ……何とかってのだって、何に化けてんのか分かんねぇのに、」
コレ迄をみても、有り得ない所に国生の所望品が転がっている。
注意深い観点で探しようと、見つけ出せたものでは無い。
クリアする毎に難易度も上がっている様に感じるから、4両目にはどれ程の困難と恐怖が待ち構えているのか、想像するだけだけでも気が滅入る。
「ソレじゃ、諦めるのか!?
戻れる可能性が残されているのに、このまま黙って迎えが来るのを待つって言うのか!?
僕は嫌だ! そんなの絶対に認めない!」
「ゅ、由嗣、」
由嗣がコレ程の激情を見せるとは思いもしない。
斡真と結乃は瞠若のまま由嗣を見上げる。




