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ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
41/57

四零


〈お前だよ、お前ェエェエェエェ!! この小娘がァアァアァ!!

俺が水の中で喰われてるのを知ってたクセに、何度も何度も蹴りやがってェエェエェ!!

その所為で腕が捥げちまったァアァアァ!!〉


「いやぁ!!」


 薫子は両手で耳を塞ぎ、車内を逃げ惑う。

然し、向かう先、向かう先で窓が叩かれ、執拗に追い詰められる。



バン!! バン!! バン!! バン!! バン!!



「知らない!! 知らない!! アタシ、知りません!! もぉやめてくださぁい!!」

「薫子チャンっ?」

「オイ、どうしたんだよ!?」


 薫子は車内のあちらこちらに体をぶつけながら逃げ道を探す。

薫子に何が起こっているのか、誰と喋っているのか、

斡真や由嗣、結乃にはサッパリ分からない。

1人で発狂している様にしか見えない薫子の惨めさに、国生は溜息を零す。


「降りるべきが降りぬが故に、黄泉が直接働きかけておるのだ」

「!?」

「何を吾程あれほど 恐れるのか、ヤツガレにも知れぬ所。

然し、黄泉に選ばれるは、相応の理由があっての事。

置管薫子もヤツガレと同様、黄泉の者の怒りに触れたのであろうよ」


 黄泉の者となった小金井に名指しされたのだ。

生き残る為、薫子が緊急避難にとった行為は、決して逃れられない死のフラグを招いたに過ぎない。


「自分だけ助かろぉ何てしてない! だってだって、怖かったからぁ!」


〈嘘をつくなァアァアァ!!〉


「嘘じゃないってばぁ!! ホントに死ぬなんて思わなかったぁ!!

わざとじゃない!! もぉやめてぇえぇえぇえぇ!!」


 絶叫を上げ、薫子は降車扉からポン……と飛び出す。


「ォ、オイ!!」

「薫子チャン!!」


 薫子が降りれば全ての降車扉は静かに閉まり、電車は再び加速を始める。

サァァァ……と聞こえるホワイトノイズが空間に浮いて聞こえるのは、実に呆気ない薫子の最期を見届けたからだろう。


斡真は結乃を抱き締めた儘、車窓から見える暗闇を見つめる。


(ココにいられる分には安全……国生の力が俺達を守る、だけど……)



『この電車が停まって、駅に降ろされたと同時、現実の僕らの心臓も止まる』


『辛うじて生きているんだよ、現実の僕らは』



(ただ黙って電車に乗ってれば安らかだと、とんだ勘違いをしていた。

死は いつやって来るか分からない。どんな死に名指しされるか分からない。

黄泉があんだけ残酷だってなら、地獄は一体どうなっちまうんだって……)


 斡真は地獄行きに腹を括っている。

然し、地獄がどれ程恐ろしい場所なのかは考えてもいなかったのだ。


 黄泉の闇に閉じ込められれば、次にやって来るのは飢えと乾きによる苦しみ。

そして、黄泉の物を屠るのだ。

腐った水に湧き出す蛆を口にしてしまえば最期。

生前の姿は失われ、醜態の化け物と化す。

『地獄に比べれば、まだ黄泉の方がマシなのでは?』と言う安易すぎた発想に体が震える。



(ただじゃ済まねぇ……)



 斡真の震えを感じ、結乃は頭を上げる。


「斡真サン……」

「! ……ぁ、あぁ、ワリぃ、」


 結乃を懐から解放すると、斡真は壁に凭れる。


「大丈夫だよ、斡真。

意富加牟豆美命を手に入れられれば、ココから抜け出せる」

「簡単に言うんじゃねぇよ……

大体、その、オオカ……何とかってのだって、何に化けてんのか分かんねぇのに、」


 コレ迄をみても、有り得ない所に国生の所望品が転がっている。

注意深い観点で探しようと、見つけ出せたものでは無い。

クリアする毎に難易度も上がっている様に感じるから、4両目にはどれ程の困難と恐怖が待ち構えているのか、想像するだけだけでも気が滅入る。


「ソレじゃ、諦めるのか!?

戻れる可能性が残されているのに、このまま黙って迎えが来るのを待つって言うのか!?

僕は嫌だ! そんなの絶対に認めない!」


「ゅ、由嗣、」


 由嗣がコレ程の激情を見せるとは思いもしない。

斡真と結乃は瞠若のまま由嗣を見上げる。


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