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ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
39/57

参八


「!」


 出られない。

どうやら、降りるべきは由嗣でも無いようだ。ならば人物は絞られる。

結乃と薫子は互いを見やり、表情を強張らせる。


「ゎ、わた、し……?」

「アタシ……ヤダ……絶対、ヤダから……、」


 水没の3両目を脱出したにも関わらず、その甲斐なくも電車を降ろされては堪らない。

由嗣は国生を振り返る。


「国生サン、この先はどうなってるんですかっ?

ココから見える世界と、降りた先の世界は違うんですよね!?」

「否。黄泉の闇に堕ちるが相応しき者がおるのだろう」

「そ、そんな……」


 結乃か、薫子か、黄泉が魂を迎えにやって来たのだ。

余りの恐怖に、結乃は目を回して座席に横たわる。


「だ、大丈夫か、チビっ、」

「国生サン、僕が降ります! 何とかして貰えませんか!?」

「死に急ぐ事なかれよ、中谷由嗣。

黄泉が相応しき魂を選んだのだ。ヤツガレとて覆す事は出来ぬ」


 死に魅入られれば逃れる事は出来ない。

たった1つ手段があるとすれば、国生の所望を果し、今すぐ生還するばかりだ。

斡真は覚悟を決める。


「国生、次の扉を開けろ! お前の望みを叶えてやる!」

「吝かでは無いが」

「今度こそ、今度こそ終わりだよな!?

お前の頼みを聞き届けりゃ、今度こそ俺達は生きてココを出られるって約束しろ!!」


 無制限に所望されては堪らない。斡真の詰問に、国生は深く頷く。



「相違なし。約束しよう」



 3度目の正直。

次の所望品=意富加牟豆美命おおかむつみのみことを手に入れ、戻る事が出来れば、元の世界に帰る事が出来る。



(今の内に4両目を攻略する! そうすれば、誰も降りなくて済む!!)



 そう考えたのは斡真だけでは無い。由嗣も同じ思いだ。

体力は取り戻してはいないが、一刻の猶予もならない。

2人は目を合わせ、四両目の貫通扉を睨む。

その強い意志が揺らぐ事は無いだろう。国生は頷き、片手を上げる。


「ヤツガレの所望は、意富加牟豆美命。では、」

「待ってください! 駄目……駄目です、そんなの危険すぎる……」


 4両目に続く扉を開錠しようと言う所で、結乃は体を起こし、頭を振る。

奇跡的にも斡真は3度目をクリアしたが、4度目ともなれば生還は不可能と言っても過言では無い。

そもそも、国生の所望が端から3つだとしたら、3度目の挑戦は残存量は限りなくゼロに近いライフポイントでの計算。4度目は有り得ない。

斡真が戻らない予測が出来る以上、結乃も止めずにはいられない。


「チビ、心配すんなっつの。次も俺がバッチし決めてやっから」

「そうだよ、次は僕に任せて」

「オイ、由嗣。テメェの自信過剰どーにかしろ」

「そのままそっくり返すよ」

「違う、違うんです……駄目なんです……だって、絶対に無理だから……、」

「時間がねぇ。行くぞ、由嗣」

「うん」

「駄目、駄目……」


 行かせてはならない。国生に貫通扉を開けさせてはならない。

斡真と由嗣が4両目に向けて踵を返せば、結乃は僅かに回復した力を振り絞り、2人に体当たりする。



  ドン!!



 結乃は両手で2人の背中を押し退け、3両目の中央座席へと走る。

そして、小金井の腕を抱え上げるのだ。


「チビ、お前、何やってんだ!」

「た、多分、私だと思う……私が選ばれたんだと思う!」

「ゅ、結乃チャン、落ち着いて!

誰が選ばれたって、僕は次に進むつもりだったんだ、責任を感じているようなら、」

「ゎ、私、友達作れなくて、学校にも行ってない……

お父サンもお母サンも、私には呆れてる……

全部気づいてて、でも、どうにも出来なくて、ずっと部屋に籠もってた……

勉強もしてないし、働いてもいない……ちゃんと生きてない……うぅぅっ、」

「そんなもん、コレからどうにでも変えられるだろぉが!」

「黄泉が私を選んだんだ! ずっと閉じ籠っていられる場所に呼んでるんだ!!」


 結乃はボロボロと泣きながら、降車扉に向かって後ずさる。


「結乃チャン! 駄目だ、戻って!」

「だ、大丈夫……怖くない……だって、小金井サン、いる筈だから……

腕が無くて、きっと、困ってる筈だから……」


 顔見知りがいない訳では無い。

今の内な、ら小金井も結乃を忘れてはいないだろう。

そんなコミカルな発想に、結乃は泣き笑い。


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