参七
「由嗣、止まれよ!!」
キキィイィイィイィ!!
ギギギギギギギ……
シュゥゥゥゥゥゥ……
電車が停まる。
斡真の声がお門違いも聞き届けられたのか、突然の出来事に一同は呆ける。
「電車が、停まった……」
「え? え? え? 何でぇ、どぉして……誰か、降ろされるのぉ……?」
結果的に由嗣の足は止まった訳だが、こうして電車が停車した以上、降りる者がいると言う事だ。
皆が揃って電車内を見回せば、1両目から3両目の全ての降車扉が静かに開く。
ゾッとする程の冷気が車内に流れ込み、生臭さが鼻に憑く。
コレは全員が嗅いだ事のある、闇空間の臭いだ。
(まさか、ヤツらが乗り込んで来るのか!? ココはまだ安全なんじゃねぇのか!?)
斡真はヨロめきながらも立ち上がり、由嗣の手を取ると、結乃と薫子の側へと移動。
結乃は震え上がり、薫子は手摺りにしがみつく。
「迎えが来たようだ」
斡真は3両目から聞こえる国生の声を振り返る。
「誰が降りるんだ……?」
「時機に知れよう」
誰も降りる意志は無い。
音沙汰も無い様子に斡真は降車扉に近づく。
「ぁ、斡真っ、」
「大丈夫だ、様子を見る。お前はチビと薫子のフォローしてろ」
開け放たれた降車扉から見えるのは、只管に続く暗闇。
迎える死によって降りた先の景色は変わると聞いたが、コレがその世界だろうか、
斡真は暗闇に手を伸ばす。
「!! ……出られない?」
まるで、ガラスの壁に遮られている様だ。
コレでは扉が開いても降りる事は出来ない。
すると、国生が2両目に現れる。
「選ばれた者のみ、列車を降りる事が許される」
ならば、斡真は対象外と言うになる。
(俺以外の誰かが ココで降ろされる……いや、降りなければ電車は停まったままか?
なら、ココで時間を稼げばイイ! 体力が戻るなり、次の作戦を考えるなり、
兎に角だ、由嗣を1人で向かわせるワケにゃいかねんだよ!)
そんな悪知恵を働かせている所に、扉の先から呻き声が聞こえて来る。
〈ウゥゥゥ……アァァァ……〉
聞き覚えのある声に、一同の背筋は凍る。
「ャ、ヤツらか……」
「ドア閉めなきゃ! バケモノが入って来ちゃう!」
「置管薫子、ソレは無理な事。降りるべき者が降りねば扉は閉まらぬ」
「ソレじゃ、見す見す奴らの侵入を許す事になる!」
「案ずる事なかれよ、中谷由嗣。
ココは賽の河原にて、黄泉の者は易々と介入できぬゆえ」
「じゃぁ、このままほっときゃイイって事か!?」
「否。高槻斡真よ、ヤツガレが黄泉の者の侵入を阻めるは60分に限られる。
ソレを越えても降りるべきが降りねば、この車両は再び黄泉に蹂躙されるであろう」
又も時間制限つき。
他の車両に移動すれば逃げられる訳で無く、コチラが然るべき対応を見せなければ、
全ての車両が再び闇に覆われ、完全なるチェックメイトを迎える。
斡真は後ずさり、頭を抱える。
(また究極の選択かよ!?
1時間以内にここにいる誰かを外にほっぽり出せって!?
自分が助かりたけりゃ、犠牲は否めねぇって!?
そんな選択、易々やってのける程、俺の頭は事務的に出来てねんだよ!!)
安易に『いってらっしゃい』と送り出せない世界が 目の前に広がっている。
すると、由嗣は急ぐ様に降車扉へと向かう。
「由嗣!」
「僕かも知れないっ、だったら直ぐに降りなけりゃっ、」
「よせ!」
斡真の制止を振り払い、由嗣は扉の外に手を伸ばす。




