参四
本来ならココで『早く元の世界に帰せ!』と喚き立てる所だが、
戻る事が適わなかった小金井を思えば、露骨な感情を表すのも不謹慎。
斡真はその場に腰を下ろし、国生を見上げる。
「こうまでして取り戻す価値があるモンなのか、ソレは……」
国生はコレ迄に多くの使者を この車両に迎え、同様の所望をしている。
誰もが元の世界に戻る事を望んだに違いない。
然し、闇空間へと挑むも遭えなく全滅。
夫々がどの様な結末を迎えたのか知る由も無いが、その所望が犠牲を賭すに相応しい物なのか、斡真には解からずにいる。
国生は取り戻した黒御鬘と湯津津間櫛を収めた胸元を押さえ、目を閉じる。
「現世の為、取り戻さねばならぬ物」
現世とは、生者の住まう世界を言う。
生きとし生ける者にとって、国生の所望は必要不可欠らしい。
ソレは、多数を生かすには少数を犠牲するも厭わないと言い換える事も出来るが、斡真の視線の先に見える国生の表情には、随分な苦衷が浮かんでいる。
(どうしても必要だってモンを取り戻したってのに、コイツは喜びもしない……
ソレは、犠牲を払ってる自覚があるからか……)
「喜べよ……
でなきゃ、何の為に小金井サンが向こうに残ったんだか、意味、無くなるだろ……」
「……」
斡真の言葉が耳に痛い。
国生は静かに長息を吐くと、ゆっくりと立ち上がる。
そして、灯りを取り戻した3両目の貫通扉を開け、4両目を真っ直ぐと見つめて言う。
「ヤツガレの所望は――」
この言葉に、一同は息を飲む。
「ま、だ……あるの、か……?」
斡真の呟きに、国生は目を細める。
「ヤツガレの所望は、意富加牟豆美命」
3つ目の所望。
やっと この異常空間から開放されると思いきや、国生の口から発せられる3つ目の所望に一同は今度こそ愕然とする。
「また、化けモンの巣窟に、飛び込めって、言うのか……?」
誰一人して体力を残している者はいない。
ソレ所か、2両目の床には小金井の腕が生々しく転がっている。
コレは、1歩間違えれば同じ目に遭うと言う戒めだ。
そんな強烈なインパクトを前に、4両目に突入できる者がいるのか、
緊張感に耐え切れず、薫子は悲鳴を上げて泣き叫ぶ。
「嫌ぁ!! もぉ嫌ぁ!!
こんなトコいたくなぁい!! 帰りたい! おうちに帰りたぁい!!
絶対に行かないからぁ! アタシ、絶対 行かないからぁ!!
あんな風になりたくないからぁ!!」
小金井の様にはなりたくない。
薫子はそう強く訴え、膝を抱えて泣きじゃくる。
由嗣は薫子の背を摩って慰めながら国生を見やる。
「国生サン、もう僕達には無理です……立ち上がる力も、ましてや走るなんて……」
「無理強いはせぬ。ココは賽の河原にて、痛みも無くば、空腹も乾きも無き世界。
そうして余命が尽きるのを待つも良かろう」
斡真は小金井の腕を一瞬ばかり見やり、目を瞑る。
「俺達は死んでねぇよ!!」
目の前に死が転がっている。
小金井の様になってしまえば、ソレを死として認識する事は出来るが、ココに残っている4人は生きた人間と何ら変わらない。
ソレでも死んでいると言うのなら、小金井の今の姿をどう説明するのかを問いたい。
「死んだ人間が、何でまた死ぬんだよ!?
死んでんなら腕が捥げようが関係ねぇじゃねぇか!
テメェのその奇妙な力でココに降って湧かせろよ! リセットしてみせろよ!!」
「……」
斡真の詰問に国生は口を閉ざす。
現状を受け入れる準備が整わない者に応えてやる意味は無いとも言いたげだ。
すると、斡真に代わり由嗣が意を決する。
「国生サン、アナタは嘘をついてる。事実、僕らはまだ死んで無い」
由嗣の確信めいた口調に、国生の目が向けられる。




