表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
31/57

参零


(こなッ、クソ!!)


 力任せに薙ぎ払えば、異形の手は脆くも崩れ去る。

だが、新たな手がトコロテン式に生え変わるから切りが無い。


 解放された薫子と小金井が水面へ浮上したのを確認し、斡真も2人に続こうとした所で、波に漂う生首が、口をパクパクと動かしながら突進して来る。


(何だありゃ何だありゃ、冗談じゃねぇぞ!!

あんなのに食いつかれたら堪ったもんじゃねぇ!!)


 人面魚と言うよりは人面そのもの。

強烈にグロテスクな人面の襲撃に、斡真は驚き余ってに体勢を崩す。


「!」


人面は目と鼻の先。

斡真の顔に齧りつこうと言う所で、人面は砕けて水底に沈んで行く。


(ゅ、由嗣!?)


 斡真は瞠若。

恐怖に震え上がりながらも、人面の頭を蹴り落した由嗣の意外すぎる逞しさが その理由。


(ヤケるとイロイロ突き抜けちまうタイプか、コイツ、)


 オカルトは苦手だと言っていた由嗣だが、この期に及べば へっぴり腰ではいられない。

由嗣は両手で口を押さえると、アイコンタクトで斡真に浮上を促す。


「ハァ、ハァ、ハァッ、……全員無事か!?」


 水面に顔を出せば、命辛々の薫子と小金井がロープにしがみついている。


「オイ、戻るぞ! 早く、今の内に! こ、殺されちまう!!」

「ァ、アタシ、体、動かない、寒い、怖い……」


 薫子は冷気にガタガタと震えている。

この分ではロープを握る手も悴んでいるに違いない。

由嗣は腰のロープを解くと、薫子に括りつける。


「薫子チャン、頑張って! 小金井サン、先導してあげてください!」

「チッ、しょうがないな、早く着いて来い!」


 由嗣は薫子の背を押し、斡真は一同の足が取られないよう、水の中を警戒する。


(クソヤべぇ、退路が だいぶ伸びてやがるッ、

この水力じゃ、あのチビがロープを引っ張るにも限度があんだろッ、)


一刻の猶予もならない絶望的な展開。



*



 斡真の予想通り、2両目に待機する結乃は両手でロープを引き続けるも、今に倒れてしまいそうな程に体は前後左右に大きく振らている。

3両目では中で何が起こっているのか知る由も無いが、まるで巨大な魚でも釣れたかの様だ。


「ぁ、斡真サンッ、」


 斡真が力尽きていたとしても、引き返す由嗣達に救出して貰う事は可能だろう。

然し、ソレは一縷の望みか、全体重をかけてロープを手繰ろうと、結局はズリズリと床を滑って体ごと引き戻される。



『お前の力じゃ逆に あん中に引っ張り込まれちまうかも知れねぇ。

ヤバくなったらロープを放せ』



「うぅ、あぁあぁあぁ!!」


 斡真の言葉に従う気は無い。結乃は何度でもロープを引き直す。

その性懲りも無い結乃の姿に、国生は哀れむ様に目を細める。


「ヤツガレが その扉を開けておけるのも、残す所10分余り。

羅川結乃、その手を放さねば、お主も黄泉へ引き摺り込まれようぞ」

「ッッ、」

「ここは賽の河原。

お主の末路は知れぬが、所望を果せずとも、終点までは苦痛も無く過ごせるであろう」


 引き返すよう合図を出してから、コレだけ奮闘しているにも関わらず1人も戻らない。

ロープの大きな揺れから見ても、3両目は想像を絶して荒れ狂っているのだろう。

何処をどう見ても、結乃に4人を引き上げる力なぞ無い。

この期に及んでは諦めが肝心と国生が仄めかせば、結乃は斡真に負けぬ赫怒で言い逆らう。


「手を放すくらいなら、引き摺り込まれた方がマシだ!!」

「愚かな。お主は閉ざされた真の黄泉の姿を知らぬ」

「知らない……そんなの知らないけど!

皆を見殺しにして1人だけ残ったって、そんな場所に苦痛が無い何て嘘だ!!」

「賽の河原に苦痛なぞ有りはせぬ」

「苦痛だ!! 1人だけ逃げる何て苦痛だ!!

アナタは知らないんだッ、取り残される事がどんなに苦痛なのかを!!」

「――」


 国生は息を飲む。



「ココにいたって、私はとっくに苦痛なんだ!!」



 肉体における苦痛では無い。結乃の精神が悲鳴を上げている。

弟から引き離され、斡真達の背を見送った時点で、何処に身を寄せようと苦痛なのだ。

然し、人間では無い国生に、人間ならではの痛みを理解する事は出来ないだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ