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ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
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「いねぇ……」


 車掌がいない。

『電車に乗り込んだ時、何と何しに運転席を見やった時には車掌の背が見えた様な気がしたのだが……』と言いたげに、首を捻りながら振り返れば、顔を顰めた4人の視線に狼狽させられる。


(車掌いないの、俺の所為かよ? そんな顔されても困るんだがぁ?)


「後ろの車両にいるんじゃねぇか?」


 責任を押しつけられた感を払拭すべく、貫通扉へ歩き、青年と肩を並べる。


(随分とまぁ、小奇麗なツラした兄チャンだなぁ)


「うぁ。マジかよ、何も見えねぇじゃんか」


 青年が言った通り、後部車両は停電している。

電気が点いているのは、この1両目ばかりの様だ。

ならば、車掌は今頃 他車両を巡回しているに違いない。

待っていれば、その内ここにもやって来るだろう。


 とは言え、何もしないでいては手持ち無沙汰。

奇妙な状況を把握する為にも、率先して動くとしよう。

鞄から携帯電話を取り出し、懐中電灯がわりにライトを点灯させ、貫通扉に手をかける。



ガチャン、



「ん? あぁ? 開かねぇし」


 押しても引いても貫通扉は開かない。

試しにドアを叩いてみるが、2車両目の乗客が顔を出す様子も無い。

混乱して誰も動けないでいるのだろうか、

舌打ちをして苛立たしげに頭を掻けば、青年が代わって扉に手をかける。

然し、結果は同じ事。


「うーん、開かないなぁ……電子機器の故障かな?」

「詳しいのか?」

「いえ、そうゆうわけじゃありませんが……」

「そうゆうモンが故障してても、電車って走ってられるのか?」

「どうでしょうね? 運転には支障ないのかも。でも、心配ですね、」


 故障なら、いつこの1両目も停電してしまうか分からない。

そうなっては念仏でも唱えなければならない気さえするから、声を潜めて青年を問い詰める。


「オイ、脱線とかねぇだろぉなッ?」

「ま、まさか……え、ぃゃ……どうだろう……」

「つか、トンネル長すぎんだろッ、

切り替えポイント、逆に突っ込んで走ってるとかもアリじゃねぇかッ?

行き止まりの車庫にブッ込まれるとかってオチはねぇだろぉなッ?」

「山武本線って単線でしたよね? 切り替えポイント何てあったかな……」

「そ、そっか……」

「いや。あるかも知れない。

特に車庫行きのフラグは……現に無い筈のトンネルを走っているわけだから、」

「だ、だろッ?」

「うん、」


 背を丸め、鼻っ面を合わせてのヒソヒソ話。

たまたま同車両に乗り合わせただけと言うのに、まるで学友の様な距離感。


「ハ、ハハハ……何か変だな。俺、高槻タカツキ斡真アツマ。斡真でイイから」

「僕は由嗣。中谷ナカタニ由嗣ユウシ。宜しく、斡真」

「まぁ、これも何かの縁か知れねぇから、それなりに協定をさ、組もうじゃねぇか」

「そうだね」

「ンじゃ、由嗣、こうゆう場合は どーしとくもんだ?」

「車掌サンもいないんじゃ……一先ず、非常ボタン押してみようか?」


 まさか このボタンを押す日が来ようとは……と言いたげに、由嗣は直ぐ側にある降車扉脇の非常ボタンを押す。

車種によって異なるが、非常ボタンを押せば乗務員と通話が可能になるか、そうで無ければ非常ブレーキがかかる筈だ。



……

……



 待てど暮らせど反応なし。


「オイ、コレも壊れてんじゃねぇのか?」

「そうみたいだね。でも、騒ぐのは良くないから……

他の車両の人達も静かにしているようだし、僕らも落ち着いて、暫く様子を見ようか」


 少ない人数とは言え、喚かれては敵わない。

パニックを起こさせないよう留意すべきだろう。

2人は車内に向き直り、苦笑する。


「ドア、開きそうに無いので……

その内、車内アナウンスが入ると思うので、それまでココで待ちましょう。ね? 斡真」

「そ、そうだな。うん。それがイイ!」


 2人の不器用な口舌に、座席に座ったきりの3人は納得せざる負えない様子で頷く。


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