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ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
28/57

弐七


 苔むした天井から滴る結露は水面に波紋を作る。


「さ、む!!」


 水温は20度以下。長く浸かっていては体が冷えてしまうだろう。

行き止まりで由嗣達を待たせるのも憚れる。

斡真は引かれたロープを伝いながら、焦燥のまま水底を浚う。


「うあ~~……キモ!! つか、泥! 何かアレだわッ、ラードだわ!」


 油っぽさのある泥の手触りに、やはり自分が来て正解だったと強く思う斡真だ。


「つか、難易度上がってっし……」


 携帯電話のライトを水面に向けるも、灯りは飲み込まれ、水中を映す事は無い。


(暗くて水の中が見えない……

いや、明るくたって、こんなドブ水に見通し何かありゃしねぇ。

見つける所か……

見つかったとして、身動きも取りにくい この足場でどうやって逃げ切りゃイイ?)


「由嗣! いるか!? オイ! 俺の声、聞こえるか!?」



……

……



 返答は無い。

きっと由嗣も斡真を呼んでいるだろうが、20メートルばかり離れているだけだと言うのに、声が聞こえないと言うのも不気味な事だ。

この暗闇に遮られているのだと思えば、漂う空気すら異形に感じられる。


(まぁ、ソレなりに頑張りますけども……

3人がかりで探して見つからなかったモンを、俺なら見つけられるとは思えねんだけどな?)


 ザバザバと水をかく。


(クロミカズラは葡萄だった。

今度は何に化けてやがるのか、共通点はねぇのか?

そもそも、こんな空間に食い物が生息してるってのが、どーかしてんだろうよ、)


「どーかしてる。

全てがどーかしてっから、今更どーでもイイっつぅ……」


(あぁ、食いモンの事 考えたら急激に腹減ったし、喉乾いたしよぉ……

やっぱ体力の消費ハンパねぇ、目ぇ回る。ホント、目ぇ……)


「立ち、くら、み、……」


 強力な重力が体に圧し掛かる。

斡真の膝はガクリと抜け、そのままうつ伏せに倒れる。



ビシャン!



(ヤベぇ……力出ねぇ……つか、使い切った……)


 水面に顔面が浸かっているのは感覚で分かるが、体を起こす力が湧かない。


(息、出来ねんですけど……

水位10センチありゃ余裕で溺死するって、ホントだな……

いや、待て。クシ、クシだよ。それをお持ち帰りするんだろぉが……

こんな生臭ぇトコでウッカリ死んでられるかよ、起きろ、俺……

そんなに寝たけりゃ家に帰ってから起きるまで寝りゃぁイイだろ、が……)



*



……

……



 国生は目を伏せる。



「力尽きたか」


「ぇ?」



 結乃は国生に向き直る。


「何です? ソレ、どうゆう意味ですか……?」


 国生は懐中時計に目を落とす。制限時間の60分迄は残り20分。


「やはり、黄泉の消耗には堪えられぬよのぉ、高槻斡真」

「ぁ、斡真サン、斡真サンがどうしたんですか!? 何かあったんですか!?」


 国生は立ち上がり、3両目の闇を見つめる。


「お主等は死地に向かう死者なりて、今や肉体を持たぬ魂だけの存在。

賽の河原に留まる迄は苦しむ事も無いが、黄泉ではその性質が異なる」

「何を、言ってるんですか……」

「黄泉に在るには黄泉の者でなくば、その存在を維持しつづけるは適わぬ事。

故に、力尽きる事にもならば、黄泉との同化を迎えるばかりになろう」


 灯りの点いた車両にいる分には、何の事は無い。

腹も空かなければ眠くもならない疲れ知らず。

そんな感覚を、結乃も実感し始めていた所だ。

ソレが死の顕れなのだとしたら、不可解さは取り除かれる。



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