弐五
結乃は抱え込んだ膝に顎を乗せ、小さく丸まる。
「高校には……行ってないので……」
だから、高校生に見えなくても仕方が無いと言いたいのだろう。
ポツリと呟く結乃の声色は酷く寂しそうだ。
「何で?」
「何でって……」
「働いてるワケじゃねんだろ?」
「……はぃ、」
「サボッてんのか?」
「……はぃ、」
長い前髪に、パッとしない服装。
終始、肩を竦めた様子は、所謂、引き篭もりの類であろう想像に斡真は苦笑する。
「そっか。まぁ、三流大の俺にアドバイス出来る事なんて1つもねぇなぁ」
「……」
「つか、俺も似たようなもんだったしなぁ」
「ぇ?」
結乃はパッと顔を上げる。
「学校、嫌いだったんですか?」
どうやら結乃は学校が嫌いらしい。
察する所、コミュニケーション力は低そうだから、クラスに馴染めずにいるのだろう。
雖も、斡真は結乃と同じ方向にいた訳では無いから眉を困らせる。
「嫌いっつぅかぁ、まぁ、最悪なパターンの極悪ヤンキーっつか。
学級崩壊上等みてぇな?」
「ぇ……」
「まぁ、学校がとかじゃねぇよ。何もかんも嫌いだったんだろぉな、あん時の俺」
『あの時』と言うからには、今は違うのだろう。
確かに、コレ迄の言動の限りでは、斡真の気性の荒さは見て取れる。
思った事は口にし、相手構わず言い逆らう力を持っている。
5人の中で1番 度胸があるのも斡真だ。
ソレが培われたヤンキー根性だと言われれば、納得せざる負えない。
然し、助けられた結乃からすれば、斡真には包容力も感じている。
「変わったんですね?」
「うーん。まぁ、多少は?」
「どうしてですか?」
「うーん。……出来のイイ兄貴が、事故って死んだからかなぁ」
「!」
結乃は息を飲む。
安易にも理由を聞いてしまった事の罪悪感に顔を伏せ、ギュッと目を閉じる。
「す、すみません……」
「何だよソレ、別にイイっつの」
(優しかった お袋が死んでからは、
厳格な親父と出来損ないの俺との関係は、兄貴が取り持ってくれていた。
親父は教員を目指す優秀な兄貴が自慢だった。勿論、俺も。
だから、兄貴に『親子なんだから仲良くしろ』と言われてしまえば、ソレなりに……)
「兄貴が死んじまってから、親父がヤケに老け込みやがってさ。
あぁ、こりゃ俺が何とかしなきゃならんなぁ、とか思わされたっつーか。
まぁ、何流だろぉが大学くらいは出て、親父の機嫌くらいとってやろぉ的な?
見事な打算だわぁ」
『斡真、お前は長生きしろよ……』
(親父が俺に望んだのは、ソレだけだったけどな、)
『お主らは浄土へ向かう死者なりて』
(国生にそう言われて初めて思った。まだ死ぬワケにゃいかねぇんだって……)
老け込んだ父親の背中を思い出せば、何事も無い顔をして帰ってやりたい。
傍らで塞ぎ込む小さな頭を撫でてやれば、結乃は僅かに顔を上げる。
そして、噛み締める様に言うのだ。
「帰りましょう、絶対に」
「ああ、絶対に」
そう励ましあう2人の背に目を側み、国生は穏やかに笑う。
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