弐四
10メートル程進んだだろうか、電車の中央部辺りに差しかかるも発見は無い。
『丹念に探したつもりだけど……』と言いたげに、由嗣は首を傾げる。
背後からは2人の溜息が連投される。
「本当に不気味な所だな……
壁には海虫も這ってるし、水の中も実際どうなってるんだか……」
「ゃ、やめてくださいよ、小金井サン、僕、何も考えないようにしてるんですから、」
「あのぉ、クシがどんな形になってるかって、国生サンには分からないんでしょぉかぁ?」
「見ないと分からないって言っていたよ?」
「ハァ……何々だ、あの男は本当に! 人を使うばっかりで自分は何もしやしない!」
「自分ではどうにも出来ないから人に頼んでるんでしょうね」
「人に物を頼む態度じゃないって言ってるんだ、俺は!」
「あ~も~、ヤダ~、どんな形なんだろぉ……」
薫子と小金井は不満を吐露するばかりだ。
闇空間にエネルギーを吸収されている事もあってか、捜索の集中力すら欠いている。
この儘では勝手な行動を取られかねない。由嗣は立ち止まり、考え込む。
「オイ、どうたんだ? 何か見つけたのか?」
「いえ。闇雲に探しても疲れるだけかも知れないなぁ、と」
「何だ、そんな解かり切った事を今更!」
「2両目の黒御鬘は葡萄でしたが、それには少し心当たりがあるかもと……」
「心当たりって何だ!?」
「以前に読んだ日本神話の記述にあったような……」
「―― く、下らない!! もっと現実的な話をしろよ、キミは!」
「でも、小金井サン、国生サンはココを【ヨミヒラサカ】と言っていました。
それは日本神話、古事記にあった黄泉比良坂なのかも、と。違うでしょうか?」
「そんな事知るか! どうでも良いから先に進め! でなけりゃキミを置いて戻るぞ!」
実際にあったかも分からない神話を思い返せる程、小金井は博学でも無ければ信心深くも無い。頭ごなしに由嗣の思考を跳ね除け、先を急がせる。
*
一方、待機組の斡真は貫通扉の前に座り込み、ロープを確りと握って闇空間を見据える。
やれる事も無い結乃は、せめてもの思いで斡真の隣に膝を抱えて座る。
「チビ、椅子に座っとけ。ケツ痛くなんぞ」
「だ、大丈夫です、」
こんな時に自分だけ座席で寛ぐ訳にはいかない。
そんな謙虚さに斡真は笑う。
「なぁ、女って仲良く出来ねぇもんなのか?」
「ぇ?」
「なーんか あの女子高生、お前の事、目の仇にしてるみてぇだったから?」
「……、」
敢えて口を挟みはしなかったが、結乃と薫子の不穏当な遣り取りには斡真も気づいてる。
結乃も薫子の態度や言い草を腹立たしく感じているのは事実で、事の成り行きに愚痴の1つでも零したいのは山々。
だが、そんな事を言っても信じて貰えるか分からない。
薫子の調子からして、猫なで声で斡真達を上手い事 丸め込みそうだ。
そんな不信感に結乃は口を噤む。
(男の俺が、女の社会を理解できるわきゃねぇか、)
「つか、さっきビックリしたわぁ。
代わりに行くとか言いだした件。根性あんのな、お前」
「そ、そんな事、無いです……」
「ンな事あんだろ。
ちっと前まではビビッて泣いてたヤツがソレを言うかって。ハハハハ!」
「だ、だってっ、帰るって、絶対に帰るって決めたから……、」
『前向いて走ってりゃ いつか追いつくんだよ!
ユキトってヤツに会って言う事があんだろが! 勝手に諦めてんじゃねぇ!』
「帰るなら行かなきゃって、行かなきゃ帰れないと思ったから……」
あの時の斡真の励ましが、結乃の生きる事への執着を目覚めさせたのだ。
最愛の弟と再会するには、決して逃げてはならないのだと、今は強く感じている。
そんな結乃の確信ある言葉に、斡真はやはり笑う。
「何だそりゃ、メチャクチャ格好イイじゃねぇか。ハハハハ!」
「……ぁ、ありがとう、ございます、」
「つか、お前、年は?」
「17です、」
「高校生か!? 中坊かと思ってたわ!」
顔容を隠す長い前髪もあって、華奢で小柄な結乃は実年齢よりも幼く見える。
肉づきの良い薫子と比べれば尚の事。
(分かっちゃいても、女のピンキリ具合はスゲぇなぁ。
巨乳もいりゃぁ、コイツみてぇにモヤシみたいなのもいるんだから)




