弐参
「どうした?」
「あの、その、えっとぉ……」
『代わってくれ』とは言い難い。
出来れば察して欲しいでいる薫子の半泣き顔に、斡真は溜息をつく様に頷く。
「分かった、俺が行く」
その言葉に薫子がパッと表情を明るくすれば、結乃が素早く1歩を踏み出す。
「私が行きます」
結乃のまさかの自己申告に斡真は瞠若。
薫子は嫌悪に眉を顰める。
「な、何でよ……?」
「チビ、イイからお前は少し休んどけ」
「皆サンには迷惑をかけてしまいました。
ソレに、万一の事を考えたら、斡真サンが残ってくれた方が良いと思うんです」
理由は何であれ、結乃は2両目を逃げ遅れ、一同に気を揉ませている。
ココで休んでは厚かましいとすら思うのだ。
加えて、斡真はたった1人きりであっても闇空間に飛び込む勇気を持っている。
保険をかけるなら、結乃より斡真に軍配が上がるのは目に見える。
そんな結乃の思量に斡真は言葉を失うが、薫子は良い気がしない。
結乃の行為は斡真に好かれる為の得点稼ぎにしか見えないから、口をへの字に曲げて言う。
「イイですぅ! アタシが行きますからぁ!」
「でも、」
「ハイハイ、お気遣いアリガトウゴザイマスぅ!」
「……、」
感謝されこそすれ嫌われる覚えもないのだが、押し問答するのも不毛。
結乃は素直に引き下がる。
「分かりました。ソレじゃ、気をつけて」
せめて労いの言葉をかけると、薫子は結乃の耳に口を近づけ、ボソリと言う。
「イイ女ぶって そんなコト言ったって、アタシは信用しませんからぁ」
結乃を嘲笑する薫子の言い草。
2両目で突き飛ばされた事を憤慨しているだろうに、文句を言うでも無い結乃の萎らしい態度が却って薫子には癪に障るのだ。
加えて言えば、女としての価値を競わずにはいられない。
薫子の目にかかれば どんな良心も得点稼ぎにしか見えない事に、結乃は落胆し、目を細める。
「解かった。ソレじゃ、次は助けない」
「!」
まさか、そんな言葉を返されるとは思いもしない。
長い前髪に隠された先には どんな睥睨が浮かんでいるのか、見るも適わない不気味さ。
薫子は息を飲み込むと、結乃から逃れる様に3両目に飛び込む。
「オイ! 遅いぞ! 何やってるんだ、キミはぁ!」
浸水した足場にボチャ! と踏み込めば、早速と小金井に口煩い事を言われる。
「ちょっと準備してただけですぅ!」
「そんなもん先に済ませておけ! どれだけ時間があったと思ってるんだ!」
「まぁまぁ小金井サン、今は探す事に専念しましょう」
壁は苔むし、左右に見られる低木の枝が水面から突き出した人骨の様だ。
由嗣は両手で水の底を撫でる様に探索。
然し、指先に泥や水草が引っかかるばかりで ソレらしい物は見つからない。
そんな気色の悪い事は出来ない小金井は両手は確りとロープを掴み、足を伸ばして水底を弄る。
「く、臭い水だなッ、いきなり深くなったりしないだろうな!?」
「そうなれば、僕が真っ先に沈むだけですから」
「み、水でロープが解けたりはしないだろうな!?」
「水に濡れた分、却って結びがキツくなると思うんで、心配ないと思いますよ?」
「オイ、後ろの子! ちゃんと探してるか!?」
「探してますぅ!」
薫子も虫の居所が悪い。
探していると言いながら、暗闇の中を見回すばかりだ。
背中に2人分の苛立ちを背負わなくてはならない由嗣が1番のハズレ籤。




