弐弐 「3両目」
国生の手伝いもあって作業の手は早まったが、随分な労力を使った事に変わりは無い。
ソレでも疲労が残らないのが この異空間の特徴だ。
「揃々頃合。悠長にしていては迫る刻に出鼻を挫かれてしまうぞ」
黄泉比良坂の終点が近づいている事を仄めかされれば、一同は固唾を飲む。
由嗣は座席シートを繋いで作ったロープの先端を自分の腰に括りつける。
「じゃぁ、言い出しぃの俺が先頭を歩きますから、
小金井サン・薫子チャンの順で1メートルずつの間隔で掴まってください」
「ビビリの由嗣が先頭って……つか、やっぱ俺が行った方が良くねぇか?」
「随分な事を言ってくれるよね、斡真はぁ」
確かに、オカルトも暗闇も苦手な由嗣だが、チーム編成を見れば自分が先頭を歩くべきだと思わされる。
(まぁ、小金井サンじゃ一目散にUターンしそうだし、薫子に任せんのもなぁ、)
「……無理すんなよ? やっぱ進めねぇって思ったら合図送れよ?」
「うん。その辺は斡真をアテにしてるから大丈夫だよ」
小金井は即席の心許ないロープを手に、辟易した様子で国生を見やる。
「国生サン、コレで上手くいくと思いますかね?」
「人間の考え至る先なぞ、ヤツガレには分からぬ事」
「あのなぁ、こっちはアンタの頼みを聞いてやってるんだぞ!?
無責任な事を言うなよ!」
「ヤツガレの所望を果せば、ヤツガレはお主等を地上に戻す。
ソレを望まぬのであれば、ヤツガレの所望を果す甲斐も無し」
嫌ならやらなければ良い。それだけの事。
そう言い纏められては反論の余地も無い。
ならば、自分の安全を少しでも高める為に思量するまでだ。
「ソ、ソレじゃぁ、その剣を貸してくれ!
錆びてる割りに斬れ味は良いようだし、そんなモンでも無いよりはマシだろう!」
「ならば、吝かでは無い」
「オイ、待てよ! 両手が塞がった状態で、どうやって探すって!?」
「危険な所に敢えて行くんだぞ!? 手ぶらで何て行けるか!」
「国生サン、行きはイイんだよな!?」
「相違なし」
「帰って来る時の護身用だ!」
「戦ってる暇なんてねぇよ! 突っ走るだけ何だよ! こんなモン荷物になるだけだ!」
「キミはソレを使って戻って来たんだろ! 良いから貸せ!」
そう言って国生の手から剣を奪い取れば、思いほか重量があるから驚かされる。
受け取れきれずに床に落としてしまう小金井に、斡真は憫笑を送る。
「コレ、片手で振り回すんは結構パワーいるぜ?
ロープを諦めて両手で そいつを構えるってなら、何とかなんだろぉけど?」
「……」
国生は片手で振り回していたが、ソレにはコツがいる様だ。
扱いきれない以上、荷物になるだけだろう。
命綱を取るか武器を取るかの究極の選択に、小金井は渋々とロープを握る。
国生は手を上げる。
2両目と同様、誰が手を触れるでも無く3両目に続く貫通扉が開かれる。
「ヤツガレが その扉を開けておけるのは60分」
「ソレまでに戻れなかったら?」
「扉を閉ざす。でなくば黄泉の者の侵入を許す事となる。
次に開ける事が許されるのは、千年後になろうぞ」
「聞いたか、由嗣。千年は缶詰だってよ。
時間が近づいたら力ずくで引っ張り戻すからな」
「た、頼んだよ、」
「60分以内に湯津津間櫛を探し出し、ヤツガレに届けて頂きたい。宜しいか?」
電車の揺れに合わせて扉がスライドすれば、墨汁を零したかの様な闇が広がる。
由嗣はゴクリと固唾を飲んで頷く。
「……皆サン、行きましょう」
何度も深呼吸を繰り返しながら、由嗣は恐る恐る3両目に片足を突っ込む。
ピシャン……
「ん!? み、水!?」
「何だって!?」
「で、でも、深さは……えっと、あぁ、膝くらいかな?」
「オイ! そんなんでどうやって探すんだ!? 潜ってでも探せって言うのか!?」
「ソ、ソレは自己判断で……」
由嗣は諦観と覚悟を胸に前進。3両目の闇に消えて行く。
小金井は『こんな事なら2両目で見栄を張っておけば良かった』と言いたげに由嗣の後に続く。
最後尾の薫子は斡真を振り返り、助けを求めて視線を送る。
2両目に引き続き3両目にも駆り出される上、フィールドが水場ともなれば嫌気も差す。




