弐零
「で、ユツツマグシだったかな?」
「はい。クシってからには、髪を梳く櫛って考えて良いのかなぁ?」
「何でも良いが、ソレを拾って来れば良いんだろう?」
「小金井サンよぉ、簡単に言うなって。
さっき見ただろ? 髪留め1本が葡萄に化けてんだ、
そのクシがどんな形で落っこってか分かったもんじゃねぇ」
「そんな事は分かってる! いちいち突っかからないでくれないか!?」
口の悪さはお互い様だ。
『ハイハイ』と適当に頷いてケーキを齧る斡真の白々しさに、由嗣は苦笑を交えて話を続ける。
「3両目も すごく暗いだろうから、物を探すのは難しいと思いますけど、
見落としが無いよう気をつけましょう。見つけたら全員で一斉にダッシュ。
諦めずに走れば、きっと戻って来られる」
「然しなぁ……俺は走るのは苦手なんだよ。膝が悪いんだ。
ソレに、鳥目なんだ! キミは運動神経が良いんだろ? だったらキミが、」
探索に加わりたくない小金井の顔は引き攣っている。
今回もまた傍観に留まろうとする口吻が聞き捨てならない斡真は、ケーキをすっかり食べ終えると指先をペロリと舐め、眉を吊り上げる。
「小金井サンよぉ、そうやって由嗣に押し付けようとしてんじゃねぇよ」
「何だと!? 俺は2両目がどんなんなのか、ソレすら知らないんだぞ!」
「ソレこそ知るか。テメェが尻込みして来なかっただけだろぉが」
「キミらが自主的に行ったんだろう!
大体、誰かしらココに残らないでどうするんだ!」
「そんなのアンタじゃなくてもイイだろーが。
次は誰が残るかってトコから決めようぜ」
「1度経験したヤツが行った方が成功率が高い!
そんな事も解からないのか!」
「ビギナーズラックってのも使えるんじゃね?」
「こんな時に どうしようも無い事を言うんじゃない!
これだから世間知らずな学生は!
良いか、俺が行っても足手纏いになるって話をしてるんだ!
ソレにな、この子みたいに置き去りにされたら堪ったもんじゃない!!」
「ソレをまだ言うか、テメェはぁ!!」
斡真が怒りに任せて立ち上がれば、結局、由嗣が両手で制止する。
「今はケンカしてる時じゃないだろ!
斡真はそうやって直ぐキレないで落ち着けって!」
「コイツ、いい年してしつけぇんだよ!」
「何だと!? このヤンキーが!」
「小金井サンも勘弁してくださいよっ、
斡真は結乃チャンを助け出した勇敢なヤツです、ソレは分かってるでしょうっ?
次は誰も置き去りに何かしません! 約束します!」
「そうゆうキミは行くんだろうな!?」
「行きますよ、勿論です! 嫌だけど……」
啖呵を切った直ぐ後に本音。
由嗣の素直さに小金井は毒気を抜かれてしまう。
2人が静まれば由嗣は一息をつく。コレで冷静に話を進められそうだ。
「僕としては、斡真と結乃チャンは置いて行きたいんですけど、どうですか?」
「あぁ? なに言ってんだよ、由嗣」
「全員で行くより待機する人がいた方が良い。ソレは僕も賛成だよ。
言いたくないけど……無事に戻れるとは限らないから、」
2両目は、ソレこそビギナーズラックだったか知れない。
異常の一片を垣間見ただけか知れない。
3両目も同じであるとは限らない以上、無事に湯津津間櫛を探し出せるのか、
走って逃げ切れるのかも分からない。
経験者の戦歴なぞ成功の確約になりはしないのだ。
「体力が尽きればアウト。コレは絶対だと思う。
ケーキ1つで体力が取り戻せるとは思えないし、斡真と結乃チャンは待機すべきだと思う」
「ゎ、我々だけで行こうって言うのか……?」
小金井は由嗣と薫子を見やる。どうにも頼りないチーム編成だ。
口は悪くても、威勢の良い斡真がアテになる様な気がする。
アレコレ言ってはみても、小金井なりに斡真を評価している様だ。




