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ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
20/57

壱九


 こんな あから様な悪態は見ていられない。

結乃は立ち上がり、一同と距離を置く様に座席に置いた儘の手荷物を取りに戻る。

そして、ケーキの箱を見下し、呟く。


「之登……」


 奇跡的にも黒御鬘を手に入れる事が出来たが、2度も同じ好機に恵まれはしないだろう。

当分は家に帰れない所か、未だその確約が無い事には肩が落ちる。


「ケーキ、一緒に食べたかったな……」


 2両目でエネルギーを吸収され放題な目に遭った結乃の腹は、今にグ~っと唸りを上げそうだ。きっと、斡真も同じだけ消耗しているに違いない。

箱の中には之登が好きなフルーツケーキが2つ入っている。

このまま腐らせてしまうくらいなら食べてしまおうと思うも、6等分するのは難しい。


「どうしたの、結乃チャン」

「!」


 顔を上げれば、穏やかな笑みの由嗣が傍らにいる事に気づく。

結乃はオロオロと視線を泳がせ、返す言葉が見つけられずに俯く。


「……あぁ、ケーキか。早く冷蔵庫に入れないと駄目になっちゃうね。

でも、どうせなら食べちゃったら?」

「ぇ?」

「さっき見たら、時計まで止まってるから驚いたよ。

今が何時なのか分からないけど、1時間は経ったようだし、小腹、空いてるでしょ?」

「でも、2つしか無いので……」

「うーん。じゃぁ、こんなのはどうだろ? 結乃チャンと斡真で食べるのは」

「ソレじゃ、他の人に……」

「僕、2人が戻るのを待ちながらずっと考えてたんだ。

この世界が何なのか、国生サンの言う事を全面的に信用したわけじゃないけど、

ココが異常な空間だって事は解かる」

「はい、」

「ねぇ、1両目で待っていただけの小金井サンだけど、こんな状況だって言うのに、疲れた様子が無いと思わない? あんなに怒って声荒げてるのに、不思議だろ?」


 小金井は癇症に顔を顰め、苛々に爪先をパタパタと動かすのも引っ切り無し。

然し、由嗣の言う様に疲労した様子は窺えない。


「走って逃げる時、普段の力が出なかった。怯えきっていたのもあるけど……

もしかしたら、あの暗闇の中にいる事で、体力を消耗するんじゃないかな?」

「そ、そうかも知れませんっ、

私ずっと捕まってて、力が奪われていくようで、とてもオナカが空いて、喉が渇いて、だから側にあった葡萄に手を出しちゃったんですけど……

勿論、食べませんでした、絶対 腐ってるって思ったし、」

「うん。良かった。あの中の物は食べちゃいけないみたいだから」


 あの闇空間では容赦なくエネルギーが奪われて行く。

齎された空腹感と乾きに耐え切れなくなれば、蛆すらも食したくなるのだろう。

最も、そうなってしまえば須らく異形と成り果てるのだが。


 由嗣はケーキの箱を持ち上げると、結乃に差し出す。


「尚更、結乃チャンと斡真で食べるべきだと思うよね、コレは」


 誰よりも体力消耗しているだろう斡真と結乃には糖分が必要。

ケーキの箱を受け取る結乃が頷けは、由嗣は矮小の背を押して一同の元へ戻る。


「ねぇ斡真、結乃チャンがケーキくれるって!

2人で食べて、早く元気になってくれると助かるなぁ!」


 由嗣の傍らには顔を真っ赤にした結乃。

長い前髪は相変わらず表情を隠すも、照れ臭そうに肩を竦める様は可愛げがある。

それで無くとも差し入れは有り難い斡真は、幼い子供の様に喜色する。


「マジで!? 実はスゲェ腹減ってた! マジ助かる!」


 快く受け入れられた事に結乃は肩を撫で下ろす。

薫子は座席を譲るよう由嗣に促されると、渋々と明け渡す。


「ワリぃな、チビ! 戻ったら新しいの買ってやるからな!」

「だ、大丈夫ですから、どうぞ、」

「ンじゃ、いっただき~~」


 ケーキを食べる陽気な2人は放って、小金井は由嗣に向き直る。


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