壱五
こんな死に様は 冗談でも願い下げ。
斡真は残った右腕1本で異形達を押し返す。
然し、それも僅かな隙間を作るばかり。
その隙間を潰す様に、新たな黄泉醜女の顔が突き出される。
ゴチン! と、斡真と黄泉醜女の額がぶつかれば、双方の顔は目と鼻の先。
「イッ、テッ、うぅぅ!!」
半ナマ死体の顔面が鼻先スレスレ。声を引き攣らせずにはいられない。
(フザケンな、フザケンな、フザケンなぁ!!)
黄泉醜女はガコン……と顎を外して口を開ける。
口内から這い上がって来るのは、蛆の集団だ。
斡真の口に入り込めよと、ワラワラと吐き出す。
「うぅぅッ、うううーーー!!」
頭を振り、唸るばかりの抵抗の中、国生の言葉を思い出す。
『捕まれば黄泉の物を屠らされる。黄泉の物を口にすれば時機に ああなる』
(何で こんなヒデェ私刑に遭ってんだぁ俺はぁぁ!!
ここじゃ蛆も食いモンですか!
人間である以上ゼッテェ食えねぇよ、こんなモン!!)
口を真一文字に結び、訳も分からずジタバタと暴れながら右手を伸ばす。
すると、指先に硬い感触。柄の様な、棒の様な質感に斡真は首を捻る。
(へ? 刀?)
この暗闇ではシルエットを掴むばかりだが、刀と言うよりは剣の様な刃渡り。
視線を更に進ませれば、足を投げ出し、壁に寄りかかった姿で俯く男の姿。
壁に侵食され、疾うに絶命しているが、着衣が時代を感じさせる。
(俺達だけじゃ無かった……
以前にもここに送り込まれて来たヤツはいた……コレは そいつの持ち物か、)
錆のザラつきは感じるも、どんな鈍らにしろ今なら大歓迎だ。
斡真は柄を握り、剣を振り上げる。片手で振り回すには重い代物だ。
然し、充分な破壊力。一振りで黄泉醜女の一塊が弾け飛ぶ。
〈ギャァアァアァアァアァアァ!!〉
身が軽くなれば 飲み込まれた半身を取り戻すのは容易い。
力任せに左肩を引っ張り出し、顔にへばりついていた蛆を払い飛ばす。
(何だこれ、スゲェ刀だな!? 錆びてるとは思えねぇ!)
「ハッ、ハァ、ハァハァッ!!」
「斡真サン、大丈夫ですか!?」
「全然 大丈夫じゃねぇ! 余りのグロさにメンタル傷つきまくりだ!」
襲いかかる異形達を剣を振り回して追いやるも、後から後から湧いて来る。
斡真は剣の刃先で周囲を牽制しながら、もう一方の手を伸ばす。
「チビ、捕まれ!」
「は、はい!」
結乃は今度こそ斡真の手を掴む。結乃も体をくねらせながら必死に踠く。
そして、体の半分ばかりが表に出れば、牛や馬が生れ落ちる様にズルリ……と滑り落ちる。
「走れるか!?」
「頑張ります、」
「良し! じゃぁ行け!」
斡真が道を切り開き、結乃は両手で空を掻く様に走る。
だが、1両目の灯りは容赦なく遠のく。
どうあっても、ココから2人を逃がす訳にはいかない、そんな黄泉の執念だ。
〈何者であろうと、我々を辱めた罰からは逃れられぬ……〉
禍々しい怨言が空間に響く。まるで呪いだ。
こんな妄執に、結乃は嗚咽を零す。
「うぅうぅ、……駄目、追いつかないっ、」
「泣く体力あるなら走る事に集中しろ!」
「でも、ハァ、ハァハァハァ、……ぁ、斡真サンだけでも……」
「フザケんな! 何の為に戻って来たと思ってんだ! 意味ねぇだろ!」
「でも、私、追いつけないっ、私なんか置いて……」
「ッ、」
前に走っていても後ろ向きな結乃の言葉に、斡真は奥歯を噛み鳴らす。
それと共に、小金井に浴びせられた言葉も思い出すのだ。
『まさかキミら、女の子をこんな暗い中に置いて来たんじゃないだろうな!?
どうゆう神経してるんだ!』
(あのオッサンに言われて、俺は自分の相変わらずな ご都合主義に気づかされた。
チビが震える程 怖がってたのは気づいてたのに、どうせ それもヤラセだろうって、俺は自分の事ばかりで、振り返りもしなかったんだから……)
結乃は斡真の裾に手を伸ばしている。
ソレをも振り払って逃げたと思うと、自分が情けなくて堪らない。




