壱四
「オナカ、空いた……喉、渇いた……」
呑気な言い草だが、猛烈な空腹感と乾きに襲われるのだから仕方が無い。
まるで、天井に体のエネルギーを吸い取られるかの様だ。
結乃は体を掘り返すのを止め、手は食べ物を求める様に左右に動く。
すると、蔓から ぶら下がった果実に指が触れる。
「ぶ、どぉ?」
葡萄。
こんな所に食物があるとは思えないが、丸い粒が鈴なりに実った、見た目は葡萄。
その1粒を摘み取る。コレを食べれば、少しは飢えを凌げるだろう。
然し、口に運ぼうとすれば、それを凝視する黄泉醜女達からの視線に食欲が躊躇われる。
「こ、こんな所の物を食べたら絶対 病気になる……でも、」
葛藤。
決めかねる結乃は息を上げ、だらりと手を投げ出す。
今は葡萄を食べないにしろ手放さずにいるのは、抑えられない食い気ゆえ。
こうして戦意を喪失している間に、掻き出した分の体がもう1度 飲み込まれて行く。
「戻らなきゃ、良かった……」
四つん這いになった薫子を助けに戻らなければ、こんな事にはならなかった。
結乃を突き飛ばして逃げ果せた薫子の行動は、恐れがあったとは言え、まるで生贄を与え、逃亡時間を稼ごうとでもするかのよう。
「いっつも そう……」
いつも。
「皆、自分の事ばかり……人が どうなったって構わない……
いつも私はそうされて、もう懲りていたのに……馬鹿みたい、」
結乃の日常は身勝手な他人が包囲している。丁度、今の現状と変わらない。
結乃はいつでも身動きが取れず、ただ成される儘の生贄生活。
「之登だけだったのに……
だから、ちゃんと言いたかった……いつも ありがとうって……」
意識が遠のく。せめて、最期くらいは唯一の味方であった弟を思っていたい。
「ゆき、と……」
「俺は斡真だ!」
「!?」
意識が引き戻される。
パッと目を見開けば、眼下に見える斡真の姿。結乃は大きく息を吸う。
「ど、どうして……?」
「はぁ!? 助けに着てやったんだろが! つか、何々だテメェは!?
天井から生えてんのか!? もう人間じゃねぇなら、俺はこのまま帰るぞ!」
「に、人間ですっ、人間です!」
結乃が両手を伸ばせば、斡真の大きな手が力強く手首を掴む。
人の温かみに、結乃の目からは涙が零れる。
然し、異形等は斡真が結乃を救出する間を与えない。
凶暴性を高め、斡真に襲いかかる。
「うあぁあッ、」
「ぁ、斡真サン!!」
雪崩の如く襲いかかる異形達に繋がれた2人の手は解かれ、斡真は押し倒される。
「やめて! やめて! やめてぇ!!」
斡真に覆い被さる異形の重量は増すばかり。
結乃がどれだけ手を伸ばそうと、斡真を助ける事は出来ない。
(クソ重ッ、臭ッ、フザケんなって、
……オイ! 俺の体、埋まってってねぇか!?)
メリメリと左肩から埋まって行く。
(の、飲み込まれてる!?)
この現象に、漸く理解が追い着く。
これは完全なるノンフィクションであり、空間そのものが生きていると言う事。
そして、空間の一部にスッカリ収まれば、次に現れた人間を四方八方から監視し、襲いかかる異形に変化すると言う事。
『黄泉に囚われれば、浄土へ向かうは適わぬ事』
「国生めッ、」
『では、ご冥福を』
「じょ、ッ、だんじゃ、ねぇ!!」




