壱壱
(こんなのフィクションだろ、現実であって堪るかよ!
こうやって俺らの反応を面白おかしく試してんだろぉが!)
国生の言葉を信じるなら、自らの死を認めなければならないのだが、
生きてる感覚がある以上、眉唾なのだ。
雖も、どちらかを認めなければ収拾がつかない気もする。
そんな一同の困惑を視界に、国生はハットの黒縁に指を添え、小さく頭を垂れる。
「残念だが、お主らの余命も幾許。然し、こうして出会えたも縁。
せめて苦しむ事無きよう、今暫くは この場に安住するが宜しい。では、ご冥福を」
言下、国生は一同の目の前から胡散霧消。
「え? ……消え、た……?」
まさに、降って湧き、風に攫われる霧の如く消える。
これ程 痛快に姿を消すマジシャンがいるだろうか、小金井は国生の立っていた場所まで走り、周囲を見回す。
「どうやって、消えたんだ……?」
「ゅ、幽霊!?」
怯える薫子の言う通り、幽霊が1番しっくり来る。
ならば、テレビどころか、種も仕掛けも無いリアリティー。
納得する前に、この現状が真実だと押し付けられる。
(何処か、気づいてた筈なんだ……
俺が見ているものにニセモノは無いんだって……)
『お主らは浄土へ向かう死者なりて』
(死んだ覚えはねぇよ……
ただ、嘘臭ぇトコが1つも見つけられなかったんだ……)
幾ら何でも出来すぎている。それ程、落ち度の無い空間。
だが、国生がいなくなった今、あれこれ捲くし立てる事も適わない。
小金井は頭を抱えてしゃがみ込む。
「このままジッとしてれば、そのうち降ろして貰える、きっと……」
虚しい願望を聴き流し、斡真は貫通扉に足を運ばせる。
2両目の闇は何処まで育っただろうか、目を凝らせど、結乃が駆け戻る様子は無い。
「由嗣、何か武器になるモン、持ってねぇか?」
「え?」
「この先、ゾンビ徘徊中。要注意、だろ?
流石に丸腰で もっかいこん中に入るとか、キッツイわぁ……」
「結乃チャンを探しに行くのか?」
「生きてるとか死んでるとか実感わかねぇけど、このまんまだと胸焼けする」
「それなら僕も行く!」
「運動神経は買いだけどよ、ビビリのお前はアテにならねっつの。
ココで招き猫してろ。それに、多少 動けるヤツが残ってねぇとな」
薫子と小金井を残して行くには心許ない。
結果的に斡真にアテにされていると気づけば、由嗣は強張った表情を緩め、恨事を忍ばせながらも頷く。
「解かった……でも斡真、僕、自分の運動神経以外の武器なんて持って無いよ」
「そぉかよぉ、自慢かよぉ」
由嗣の自信過剰には安心させられるのも事実。
「そんじゃ、俺は昔取った杵柄で乗り切るしかねぇな! 由嗣、後は任せたぞ!」
「あぁ! 斡真、気をつけて!」
斡真は深呼吸をすると、携帯電話のライトのみを頼りに2両目に飛び込む。
その背は闇に飲み込まれ、アッと言う間に見えなくなる。
薫子は不安気に闇を見守る由嗣を見上げると、訝しんで問う。
「あのぉ、2人は友達なんですかぁ?」
斡真と由嗣の遣り取りには、互いに向けた信頼を感じる。ソレはまるで旧知の仲。
だが、由嗣は笑う。
「斡真とはココで会ったのが初めてだよ。名前しか知らない。
でも、こうゆう時だからかな、協力しなきゃって思うし、斡真は……
頼りになる気がする」
*




