表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
10/57


「は、走れ!!」


 焦燥する斡真の指示に全員が一斉に駆け出す。全力疾走だ。

然し、1両目の灯りは刻々と遠ざかる。


(フィクションにしちゃ、やり過ぎだろぉがぁ!!)


「な、何で追いつかねんだよ!?」

「この車両、成長してるんじゃないか!?」

「どうゆう意味だよ!?」

「伸びてるって事で!」

「いやぁあぁあぁ!! 怖い! 怖いよぉ!! 置いてかないでぇ!!」

「兎に角、走れ! 遅れるな!」


 どんなトリックを使ったら これ程の不気味なリアリティーを再現できるのか、

気づけば本気で、この異常空間を受け入れている。


(何かが追って来る……生きてる人間とは思えない、もっと異質な何かが……

分からない、ただヤバイ! ココは考え無しで踏み混んでイイ場所じゃねぇ!!)


 本能が警鐘を鳴らしている。

今迄に感じた事の無い危機感を振り払う様に闇雲に走る。

そうして200メートルは疾走しただろうか、息を乱す薫子の膝は徐々に上がらなくなる。酸素を求める魚の様に顎を上げ、減速。

遂には四つん這いになって へたり込んでしまう。


「ま、待ってぇ……も、もう走れない……、」

「!」


 薫子の蚊の鳴く様な声に結乃は立ち止まる。

引き返す事を一瞬ばかりは戸惑うも、腰を上げられずにいる薫子を放ってはおけない。


「だ、大丈夫ですかっ? ぁの、頑張りましょう、立てますか?」

「ぅ、うん、」


 薫子は結乃の手を借りてヨロヨロと腰を上げる。

そして、床に放ってしまった携帯電話に手を伸ばすなり、戦々恐々と顔色を変えるのだ。



「ぎ、やぁあぁあぁあぁ!!」



 携帯電話のライトが映し出すのは、結乃と薫子の間に顔を突き出す痩せこけた女。

頬の肉はケロイドの様に爛れ、目や口からはポロポロと蛆が零れ出す。

コレは、車窓から見えた化け物と同種の生き物だろう。

そう理解すると同時、薫子は結乃をドン! と押し退けて駆け出す。


「邪魔ぁ!! 怖い! 怖いよぉ! 化け物ぉ! 化け物ぉ!!」


 火事場の馬鹿力で一目散に全力疾走。

薫子は猪突猛進で斡真と由嗣に追い着く。


「薫子チャン! 早く、コッチだ!」


 1番に1両目に到着したのは、運動神経には自信のある由嗣。

斡真は一足遅れ、ダイビングで転がり込む。

由嗣は貫通扉の手摺りに掴まり、手を伸ばして薫子を引っ張り入れるも、続く筈の結乃の姿が見えない事に息を飲む。


「ゅ、結乃チャンは!?」

「え!? ――ぁ、えっと……ゎ、分かんない、途中ではぐれちゃって、」

「はぐれた!? って、オイ、あのチビ、逃げ遅れたんじゃねぇか!?」


 今も車両は成長し続けている。ならば、結乃は遥か彼方。

焦燥する斡真に、状況知らずの小金井が口を挟む。


「な、何だッ、何があった!? あの女の子はどうしたんだ!?

まさかキミら、女の子をこんな暗い中に置いて来たんじゃないだろうな!?

どうゆう神経してるんだ!」

「テメェ! 待ってるだけの分際で偉そうな事ほざいてんじゃねぇぞ!

こっちゃぁ戻れるかどうかの瀬戸際だったんだ! 知ったクチ聞くんじゃねぇよ!」

「ッ、」


 斡真にキツく言い返されれば、小金井は目を背けて押し黙る。

すると、国生は何事も無い様子で腰を上げる。



「黒御鬘は何処いずこに?」



 最も呑気に高みの見物をしていたのは、この男だろう。

斡真は国生を睨みつけ、壁を殴りつける。


「手ぶらだよ! 出戻りの俺らをバカしてんのか!」

「それは困った……」

「どうでもイイが、チビと はぐれちまったよ!

これも打ち合わせ通りってなら、探しに行く手間も省けんだけどなぁ!」

「どうしたものか……」

「そりゃこっちのセリフだ! 好い加減、種明かししやがれ!」


 国生は懐中時計に目を落とす。

60分後を知らせる針は、現在20分ばかりが経過。

まだ時間はあるにも関わらず、国生はパチン……と懐中時計の蓋を閉める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ