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第96話 パーティ解散ね

 結局、宝らしい宝は見つからず最初に襲ってきた山羊悪魔の素材を取りに戻った。そしてその後は祝詞の動揺もあって素材を武器屋で売り払って自宅へと帰った。

 アニエスが玄関で迎えてくれたが状況を察したのか何も言わなかった。それから夕食が終わったにも関わらず、後片付けを行うアニエス以外は誰も動こうとはしなかった。兵舎に住んでいる十塚でさえ席を立とうとしない。

 重苦しい雰囲気が漂い、正直、敵対してるマフィアの会合でもここまで重い空気は感じないだろう。全てはこの世界が地球によく似た世界である事は確実になった上に未来の地球かもしれないと思い知らされたのなら当然のダメージだと言える。

 一番ショックを受けているであろう祝詞だったが夕食で出されたものはゆっくりながらも全て食べていた。芯が強いと言うか負けず嫌いなのかは分からないがやられたまんまじゃ気が済まないのかもしれない。


「アニエスさん」


 夕食の片付けが終わって台所から戻ってきたアニエスに十塚が声を掛けた。


「はい。何でしょうか?」


「今日はここに泊まりたいのですが部屋は空いてますか?」


「客間を片付ければ使えるかと思いますがそこでよろしいですか?」


「それでいいよ。小生、寝相悪いから」


 十塚が右手を振っていいよいいよと示す。


「それでどうするの? こうやってずっと黙り込んでても仕方ないよね?」


 十塚は痛いところを突いてきた。こうやって重苦しい空気にどっぷり使っていても仕方ない。その発言に居間を出て行こうとしたアニエスは元居た席に戻る。


「取り敢えず、帝國との間に関してはどうするん? まさかいきなり離反しますとか言い出さないよね? うちは全面戦争とかごめんやで」


 終は居間に居た全員の顔を探るように見ている。


「そんな事はしません。現時点でラティウム帝國を敵に回すリスクは取りたくない。でも神霊の祭壇の件も含めて彼らが意図して事実を伏せていたと言うのなら探りを入れる必要は出てくる。あそこで共倒れしたのか、どっちが勝っていたのかで話が変わってくるし、現時点で権力を振るっているユリウス執政官はどっちなのか。権力者で(わたくし)の立場に同調してくれる人間が居るのかどうか。それらの判断材料を集めないと話にならないから」


 祝詞はいつもの様に正座して背筋を伸ばして自分の意見を述べた。


「意外に元気で安心したよ」


 徒人は少し安心する。だが身を乗り出してきた祝詞にデコピンをお見舞いされてしまう。爪が伸びていたせいか少し痛かった。


「徒人、その発言は結構無神経なんだけど……それにまだ立ち直ってすら居ないし。今は思いつく範囲で必要な事を言ったまで」


 祝詞の怒りを買ってしまったが怒れないようなヤワな状態ではなかったようだ。


「立ち直るには時間が必要と言う事やね。無理も無い話だと思うけど」


 あぐらをかいて座卓の上に膝を付いている手で顔を支えている終が気だるそうにしている。別に真面目に話を聞く気がないのではなくどこか他人事のように思う事で心身へのダメージを避けているのだろうか。


(わたくし)だけダメージを貰ってるようで面白くないな」


「当方を含めて全員同じだけダメージを貰ってるから気のせいかな」


 祝詞のジト目を彼方は湯飲みに入ったお茶をすすりながらやり過ごしている。既に入れられてからかなりの時間が経っているのにフーフーと冷ますような動作をしている時点で誤魔化している感が拭えない。


「随分感じ悪い言い方ね」


 祝詞は掴みかからん勢いで彼方を睨んでいた。彼方の方は我関せずと言う雰囲気を漂わせてスルーしている。


「戦場で知ってしまったら取り乱すのは無理ない事かと」


 仲裁を務める気がない終に変わって十塚が止めに入った。


「アニエスは人間じゃないんだろう? 人間以外では周知の事実なのか?」


 黙っていた和樹が隣りに座っていたアニエスに対して口を開く。その真剣な表情に告白かと思ったがそうではなかった。

 徒人はその言葉に凍り付く。バレたら殺傷沙汰にならないだろうか。いやそもそもアニエスが南の魔王軍のスパイだとバレるような事は避けたい。


「おい。和樹、お前──」


 徒人は遅まきながら止めに入るが途中で遮られた。


「はい。師匠の仰るとおりではあります。魔族と言っても西の大陸は人と魔族が生活圏を分けて普通に暮らしてますからね。人と魔族で交易もしてますし。結局、この大陸の争いなんぞただの権力争いとか主導権争いの類でしかないですから。勿論、稀人(まれびと)との接点や国家の上層部とは薄い関係ですからわざわざ教えたりはしません」


 アニエスは淡々と語った。

 徒人は普通の反応しか返さないメンバーにショックを受ける。てっきり斬りかかったりすると思っていたからだ。特に新参者の2人は──


「魔族の人と言えば南の大陸から砂糖とサツマイモっぽいの持ってきはるよね。甘いもん好きのうちにはありがたいわ」


「甘いもの大事。とっても大事。乙女の魂を救う薬」


「里見ちゃん、ええこと言うな。ナイスフレーズやわ」


 終に褒められた十塚が微妙な表情をしていた。どうやら下の名前で呼ばれたくないらしい。


「砂糖はこの大陸の北側からですよ。帝國に都合が悪いから隠しては居ますが」


 アニエスが終の発言にツッコミを入れる。


「そうやった? 訂正ありがとうな」


 終は口調とは裏腹に嬉しそうではなかった。


「あと話が逸れてるから戻して言っておくけど一度パーティ解散ね」


 祝詞の意外な言葉に彼女以外の全員が凍り付いた。勿論、徒人もその1人だった。


「え?」


「冗談だろう!」


「失業ですか?」


 アニエスに和樹。それに十塚が叫ぶ。徒人は反応できないで唖然としていたが彼方と終は黙って成り行きを見つめていた。


「冗談だから。一旦リーダーを降りて陰陽師になってユニークスキル[汚れへの忌避]のマイナス効果を打ち消せるようになっておくよ。それに一度冷静になって考えたい。だからちょっと冷静になれる修行場へ行ってくるよ。一週間も掛からないと思う」


 祝詞は両手で上下に振ってその場を落ち着けと宥める。言い方が悪かったせいだろうとツッコミを入れたくはなるが黙っていた事に対する意趣返しの可能性もあるので敢えて問題にはしない。


「でもリーダーが居ない間の回復役はどうするんだよ? 俺が賢者になってフォローしろとか言うなよ。素人だからな」


 真っ先に噛み付いたのは和樹だった。そりゃ自分がパーティ全員の命を預かる事になるのだから気が気ではないだろう。


「和樹君にはリーダーをお願いするだけだよ。それにアニエスに当てを聞いたら紹介できる人が居ると教えてくれたから」


 その一言でこの場に居た人間の視線がアニエスに集中する。


「ええ。ベテランで凄腕ですから大丈夫でしょう。ただし、自分が祝詞さんの護衛に付いて自分が離脱する絡みで観測者が居ないので帝國による正規の仕事は受けられないかと。あと自分の知り合いなんで現地合流になりますよ。それで皆さんは問題ないですか?」


 アニエスの表情がしまったなとか言い出しかねない曇り加減だった。


「回復系として腕さえ良ければ気にしないよ」


「そうやな。本当に凄腕なら文句言わへんよ」


 彼方と終があっさりと言い放つ。同意見なのか十塚も頷いていた。それを見て祝詞は若干面白くなさそうな表情をしている。


「2人の意見は?」


「俺がやらなくていいのなら何も言わない」


 和樹が無責任極まりない発言を行う。徒人は目で睨みつけて非難してつもりだったが向こうは気付かなかった。


「ちゃんと蘇生魔法覚えてて頼れる人間なら構わないよ。祝詞は要らないとか言われないうちに戻ってきてくれよ」


「任せておいて欲しいな。すぐに戻ってくるから短い春を謳歌するといい」


 祝詞は深夜の神社で呪いの藁人形に五寸釘を打ち付けているような不吉な笑みを浮かべている。徒人はフォローしたつもりだったのだがどうやら逆効果だったらしい。


「あとあの死神を相手にするなら邪眼(イビルアイ)を何とかしないと」


 徒人は肝心な事を忘れていたので補足する。同じ失態はご免だ。


「それなら邪眼(イビルアイ)を防ぐには東の大陸にある鎮守の森にある精霊の雫を材料にしたペンダントがあればいい筈。総合ランキングトップ10なら港町ジュノーから出発する許可がすぐに取れる筈です」


「じゃあ、決まりやね。明日から東の大陸にレッツゴーや」


 アニエスの発言に終が右拳を突き上げる。


「和樹君、ちゃんと仕切ってね」


 不満そうな祝詞に嫌そうに和樹が頷く。

 徒人のカンが明日から大変な予感がすると告げていた。

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