第93話 地の底へ
最近になって人が使った痕跡が残る階段を下へ下へと下ってフロアに出て幽霊たちを撃退してまた階段を幾度か降り、それを三度繰り返して地下3Fに降りた。祭壇がある小さな部屋で他には何もない。ただ、大理石ですべて作られていただろう壁や天井に幼稚園児がクレヨンで塗りたくったような感じで血らしき物が付着していた。
既に時が経っているのかそれらからは何の臭いも感じ取れない。
「何にもないね」
彼方が部屋を見渡して呟く。全員部屋の入口で固まったまま動かない。十塚が罠を警戒しての方針だった。
「一応、祭壇の裏に何かあるけどね」
十塚の言葉に徒人は自分でも[罠感知]スキルを使ってみるがレベルが低いからか見つける事が出来なかった。
「祭壇に隠してあるとかお約束なのかな」
微妙に疲れた様子の祝詞が独り言をこぼす。
「俺には分からない」
「そりゃ本職上がりじゃないと見つけられないよ。小生たち本職はスキルだけじゃなくて周りとかも含めて総合的に判断してるしてるのだから」
身も蓋もない返し方をされてしまった。
十塚が警戒しながら部屋の中央にあった祭壇へゆっくりと歩いて近寄ってその裏を覗き込んだ。そして祭壇の中へと左手を突っ込んで何かを探し始める。ガコンと言う音と同時に何かの歯車が動き出すような音がし始める。その音の鳴り響く長さに不吉なものを感じてしまう。
「吊り天井やないよね?」
「俺もそれは真っ先に思った」
終と和樹が好き勝手に言っている。徒人が天井を見上げると天井が迫ってくるような様子はない。
前方から大きな音がして壁が開いて祭壇が横にずれた。壁の奥にあったのは鉱山とかに使われる蛇腹式扉のエレベーターだった。
「まだ動くみたいだ」
十塚がエレベーターの扉を開けて中に入って詳しく点検している。そしてエレベーターから顔を出した彼女は手招きした。
「考えたら変な話だな。ワープと言うか転移陣はエレベーターなんかよりも凄い発明なのに今はエレベーターを見て懐疑的になれるなんて」
徒人は部屋の端からエレベーターに向かって歩き出す。これの反応で真相に気付いてるかどうか判別できるかもしれない。
「剣と魔法の世界だからね。仕方ない。乗って行ってみましょう」
祝詞が何気なく呟く。彼方の指摘通りなのか。或いは誤魔化しているだけなのか。
当然、彼方は微妙な顔をしていたが終に十塚も反応が悪かった。
「ああ、そうだな。異世界だからエレベーターは目が滑る感じはする」
和樹が珍しく祝詞のフォローに入る。やっぱり、和樹はあんまり嘘が上手くないな。
徒人たちはエレベーターに乗り込む。
「スイッチ押すけど問題ないのよね?」
全員が乗り込むのを確認してから蛇腹式扉を閉めて十塚が確認する。壊れてて落ちて死亡では話にならない。落下で即死しても徒人は蘇生するだろうが他を生き返らせないと帰れないし、蘇生魔法は徒人の職業系譜では覚えられない。
「お願いします」
祝詞の一言に十塚が意を決したようにレバーを下に引いた。
「下へ参ります」
終がエレベーターガールのような仕草をして一言を述べる。徒人が苦笑いを漏らしただけで他のメンバーは無反応だった。と言うかスルーしただけかもしれないが。
しばらくの沈黙の後、エレベーターは動き始め、下へと降下していく。
ひたすら降りていくだけで表示もないので沈黙も限界に近付きつつあった。
「どうやら落ちへんみたいやな」
沈黙に耐えかねた終が最初に口を開いた。
「剣峰さん、また不吉な事を」
「落ちへんと思うから言えるジョークやんか。刀ちゃんは真面目やな」
「彼方ですから」
終はいつものノリで話すが彼方は睨んでいた。
「それは悪口なのか?」
「そうだよ。神蛇さん。子供の頃、凄く間違えられたんだ。だからあんまりいい思い出はない」
なるほどと徒人は適当に相槌を打った。エレベーターの外を見てみるが着きそうな気配はない。ただ漆黒の闇いやただの壁が見えるだけだ。
「それはすまんかったな。彼方ちゃん」
「どっちにしろ。ちゃん付けなんだ。……別に刀呼びでも良いけど剣峰さんは駄目。まだ親しくないから」
その返答に終はショックを受けているように大げさに手を上げてみせた。
「彼方ちゃん、つれないな。うちが何したって言うん?」
「名前を間違えた」
取り付く島もない彼方の対応に終が絶句する。
「意外に根に持つタイプやねんな。お姉さん辛いわ」
終はそんな風に落ち込んだふりをしてみせるがどこか冷めているようにも見えた。
「もうすぐ着くよ」
十塚の言葉に全員戦闘態勢に移った。なんの光か分からないが蛍が放つような淡い色の光が下から漏れている。
低い振動と共にエレベーターは目的地に着いた。同時に十塚が手動で蛇腹式扉を開ける。
【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度は112になりました。魔法騎士の職業熟練度は103になりました。神蛇徒人は[対霊特攻1]を習得しました】




