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第91話 最も神聖で最も穢れた場所

 霊力がなかった徒人にも祝詞の指摘が間違いではないのはこの神殿に入った瞬間にすぐに解った。心霊スポット巡りなどした事はなかったが明らかに自分たちとは違う何かがそこに存在している。

 壁の白さは幽霊の白だと言われても納得してしまう。

 しかも内部は広いのに薄暗くたまにさまよう光が、光る球体が映し出す白い大理石の床ですらもホワイトアウトのような白い闇に思える。


「血の臭いが絶えないね。余程、血生臭い出来事が起きたのは分かる」


 彼方は長船兼光の柄を右手で触れ、いつでも抜けるように警戒している。


「《ライティング!》」


 和樹がロッドの先端に光を生む。


「聖なる力よ。この光に退魔の加護を。《リペール!》」


 祝詞が右手を和樹のロッドにかざして聖なる加護を授ける。詠唱内容から敵を近付けない魔法のようだ。


「闇の神よ。我らの足音を殺し、我らの吐息を殺し、我らの敵からその姿を隠蔽せよ。《忍手(しのびて)!》」


 十塚の魔法が完成すると同時に徒人たちは黒いもやに包まれた後、それはすぐに虚空に溶けた。


「これで小生の魔力以上の敵以外は見えないと思う」


「つまり、あんまり期待できないと言う事か」


 冷静なツッコミを入れる彼方に十塚が苦笑いを浮かべている。


「ここを西の魔王軍に占拠された割には綺麗だな」


 生み出された光が照らしだす微かな道標を頼りに徒人たちは下に降りる階段を探して動き出した。歩きながら辺りを見渡してみるが床も壁も天井も見える範囲で荒れてるような様子はない。むしろ、整然としていた。


「西の魔王軍の幹部が一時的に占拠してその後は戦略拠点にはならないとみなして放棄したと聞いている」


「魔王軍らしくない行動だな」


 西の魔王軍はファウストの言葉だけで考えると脳筋軍団なイメージだったのだがそれを補う為に頭脳労働を担当してる人物が居るのだろうかと徒人は考えた。


「ここを占拠したのはある物を探していたとの情報を聞いたが小生が聞いた範囲では噂レベルでしかない」

 十塚はスキルを使って見渡しているのか、光量の少ないこの神殿内部でも遜色ないように見えた。


「魔王を倒せる伝説の武器でも眠ってたのか? 或いは防具とか」


 和樹がRPGのお約束をからかうように言う。


「ここは神殿だったんやろう? その手の物が収まっているように思えないんやけど」


 終が胡散臭そうに暗闇を見る。横顔が妙に攻撃的だった。


「神殿にも宝刀の類なら収めたりしますがね。もし伝説の武器なんて物が存在したとして……城に保管しておかずにお偉いさんが馬鹿なら本物を奉納して奪われるとか笑えない現実もあるかも」


 祝詞がどこか自虐的に呟いた。


「祝詞ちゃん、何か盗まれたんか? うちが取り返してやるで。ただし行ける所に犯人がいるならの話だけど」


(わたくし)が懸念してるのは盗まれたと言う事実ですよ。起きてしまったと言う事実は消せない。時でも戻せるなら話は変わってきますが」


 終の言葉を否定するような祝詞の言葉が返ってきた。


「そうやな。起こってしまった事は元には戻せんよな」


 てっきり喧嘩がまた始まるのかと思えば終は自嘲気味に一言呟いただけでそれ以上は何も言わなかった。


「結局、武器でもなければ防具でもなければ、西の魔王軍はここに何を探しに来たんだ?」


 徒人の言葉に誰も反応を返さなかった。と言うか返せなかったと言うのが正確なのだろうか。


「お客さんだ」


 十塚が警戒を促す。最初、徒人の目には見えなかったが人影みたいな物が数体。そして、全身黒い毛並みで直立する山羊即ち一般的な悪魔のような姿をした連中が3体。


「おほほ。本当に悪魔が居るんだ。面白いじゃない」


 彼方が面白がりながら白い光を帯びた長船兼光を鞘から抜き放つ。ここが地球かもしれないのにそんな反応できる彼方の図太さが羨ましい。そんな事を羨ましがっていても仕方ないので徒人は魔剣を鞘から抜いた。


「上機嫌やね。こいつらそれなりに強いのに」


 終は肩に担いでいたノートゥングを構え直す。


「取り敢えず、弱そうな幽霊からで」


 祝詞がワームポットから弓を取り出す。

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