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第90話 神霊の祭礼

 翌朝、徒人たちは神霊の祭礼へとやってきた。周囲は平野だが所々に沼地が見えたり、薄気味悪そうな怪鳥が獲物を狙うハゲタカの如く上空を旋回している。実際、徒人たちはこの神殿も前に来るまでに怪鳥の強襲を受け、何度が撃退していた。

 終曰くこの怪鳥ガルーダの素材が一時期は高値で売れて稀人(まれびと)たちや他の大陸からやってきた冒険者が狩っていたみたいだが余りに供給が多すぎて値崩れした為に今は狙う物も居なくなったと説明してくれた。

 アニエスが居たら彼女が説明してくれるのだろうが今日は用があると言ってこの場には居ない。


「明らかに居るって感じがやだな」


 神殿を一瞥して祝詞がぼやく。神殿の見た目は真っ白であるがその素材と思しき大理石は精神病棟を連想させる魂を抜き取られそうな気味の悪い空気を纏い、侵入者を拒んでいた。


「ここはどういう神殿なんだ? どう見ても神霊なんて御大層な場所に思えないが」


「そうだね。昔は多神教が崇める神聖な場所だったみたいだけど西の魔王軍の攻勢にあって奪われた後、悪魔の血で汚されて属性と言うか性質が反転したと聞いている。でも実際は西の魔王軍に奪われる前から不穏な空気が漂っていてそれが原因で魔や霊の住処になったと言う噂は絶えないね」


 徒人は十塚のその返答に眉を顰める。


「うちの大剣は通じるから問題ないんやけど」


 終は自分の獲物を棒きれを振り回すように一振りする。軽く振ったようにしか思えないのに風圧と旋風が起きた。祝詞は乱れた髪を迷惑そうに整えて、十塚は乱れた事を気にもしてない。彼方はいい風じゃと言わんがばかりに目を細めている。


「それってずるくない? 当方だけ掛けてある魔法が切れたら霊が斬れないじゃん」


「業物なのか?」


 むくれる彼方を無視して和樹が問う。徒人はそんなやり取りを横目で見つつ剣魔法を唱えた。

 昨日、あんな会話をしたのにも関わらずこんな話をしている彼方には驚かされる。


「業物も何もこの大剣はノートゥングだし」


「伝説の剣の1本か。よくそんなのあったな」


「昔、拾ってね。それより彼方ちゃんはそれでも問題ないよ。ほら」


 終は話を逸らすような雰囲気を漂わせる。

 徒人の剣魔法が完成した。


「《ホーリー・コクーン!》」


 徒人の言葉に反応して彼方のベルトに挟まっていた鞘が白い光を帯びる。


「おほぉ。良いね。これで斬れるよ」


 彼方は鞘から長船兼光を抜き放って白い光に包まれた刀身をウットリと眺めている。それは宝石を見るかのような瞳だった。


「うち、思うんだけどそういう表情は女子の喜ぶお宝を見てすべきだと思うんや」


「余計なお世話だから」


 取り付く島もない彼方の返事に徒人は苦笑いを漏らすが周りは凍り付いている方が多かった。


「じゃあ、誕生日には刃物を送ればいいのか?」


 和樹がからかうように聞く。

 その問いの間に彼方は長船兼光を鞘へと納刀していた。


「まさか。服とか小物の方がいいよ。ただ何で喜ぶかは当方の勝手じゃない」


 当然過ぎる反応が返ってきた。そりゃそうだろう。


「頑固やねんな。人の趣味にケチつけてもしゃないしな。それより徒人ちゃんの準備が出来たら行こう」


 終が全員を見た後で徒人を見る。その反応に祝詞が面白くなさそうに口を尖らせている。


「《レクイエム・コクーン!》」


 徒人は剣魔法を唱えて自分の魔剣にも退魔の力を宿す。


「では隊長殿に号令を」


 終のゴマすりに祝詞が露骨に嫌そうな顔をする。


「余計にムカつくから」


「作用でございますか。うち、ろくでもない女やから許してな」


 祝詞の反応を楽しんでいるかのように終はヘコヘコと頭を下げている。その様子が反省してるようには思えず、子供と悪ふざけして戯れている大人のように思えた。

 2人はお互いに睨み合うように対峙している。

 和樹は微妙な顔をして止めようとはしないし、彼方は楽しんでいる。十塚は成り行きを黙って見届けるつもりらしい。


「終さん、祝詞を玩具にするのはそのくらいで良いでしょう。大人なんですから限度を弁えて下さい」


 徒人は見かねて2人の間に立ちはだかって止めに入った。その視界の端で十塚が微妙に咎めるような表情をしている。


「徒人ちゃん、視線が冷たいでぇ。隊長ちゃんの反応が可愛いからちょっとからかっただけやんか。でも徒人ちゃんが男前なのは認めるけど」


 終がノートゥングを肩に担ぎながら徒人の隣を通って神殿の方へと歩き出す。


「剣峰さん、先頭をお願いします」


 はいはいと言わんがばかりに左手を振って終が返事を返す。そのやり取りに徒人が気を取られてる間に十塚が背後に寄ってきていた。


「あの2人は喧嘩させて白黒着けさせた方が良かったんだよ。次は戦闘中じゃないかぎり止めたら駄目だ。これは女の主導権争いなんだから」


 小声で言うだけ言って徒人の脇を通り抜けて十塚は終も追い抜いて先頭に立った。

「隊長さん、小生が先頭になって罠を探した方がいい」


「……そうですね。失念していました」


 十塚の指摘に祝詞は素直に応じた。

 こんな状態で大丈夫なんだろうかと徒人は思わずには居られなかった。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は105になりました。魔法騎士の職業熟練度(クラスレベル)は50になりました】

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