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第88話 二日酔いの会議

「やっぱり二日酔いか」


 敷居を跨いで居間に入ってきた十塚があまりにも呆れたのかそんな発言をする。その視線の先には座卓に倒れてうつ伏せになって呻いている和樹と終が居た。アニエスはメイド服に着替えて意識はしっかりしてるがいつもとは違い、冴えない顔をしている。


「ご一緒だったんですか?」


「うん。小生は途中で帰った。昼前にここに集まるとか言ってたし。しかし、本当に臭うな。鼻がキツイよ」


 祝詞の言葉に十塚は鼻を鳴らしながら答える。


「確かにキツイな。何を飲んだらそうなるんだ?」


 徒人は疑問に思ってそんな事を口にした。


「ちょっと調子に乗ってドラゴン殺しと言う銘柄のアルコール度数の高い蒸留酒と地産のビールを少々。それだけで止めておけばよかったんやけどウィスキーを飲んだら完全に酔ってしまってな。うちもそこからは断片的にしか覚えて居らんのよ」


 終は座卓の上にあった水の入った湯呑みに手を付ける。喋ってる様子はノーメイクなせいか普段とは違って老けて見える。


「流石にドラゴン殺しから始まってビールに行ってウィスキー行くのは無謀ですねと止めたのですが……頭痛い」


 普段は部屋の隅で立ったままで話を聞いているアニエスが和樹の隣に座って座卓に肘を乗せる。心底げんなりした表情で。


「いつの間に星座が出来るようになったんだ?」


「この間、師匠に教えて頂きました」


 アニエスが話しながら和樹の様子を見ながら背中を擦っていた。


「ようはするに無茶苦茶に飲んでハチャメチャにらんちき騒ぎを起こした訳か」


「本当に申し訳ないわ。でも店で暴れたりしてへんからな」


 徒人は無意識に終を睨みつけていた。それを感じ取られたのか、終は座卓の上に両手を付いて土下座みたいな形で謝っている。ワザとやってるのか天然なのか微妙に判別できない。


「会議するって言ったのに……取り敢えず今日はアルコール抜くのが先みたいね。頭がガンガンするらしいけど(わたくし)の声を聞いて貰うわよ」


 祝詞から黒い湯気と言うか黒いオーラが見えて彼女の背後の景色がゆがんで見えた気がした。


「隊長さん、殺生やな。二日酔いは地獄の苦しみやで」


「さっき飲んだ薬で随分収まったでしょうに」


 終はお茶目っぽく戯けて見せたがアニエスが冷たい言葉を返す。


「じゃあ、折角の会議やし意見出す前に聞かせてもらうけど隊長さんはどうして魔骨宮殿の上層部へ行きたくないんや」


 座卓の上に乗せていた両手を戻して終は姿勢を正して正座する。やられっぱなしにならないのが大人の女性らしいが。そこでトワの事を考えて比較してしまったが彼女も祝詞相手には冷たい為政者としての対応をしていたので遅れをとっては居なかった。

 思ってるよりも交渉に関しては有能なトワの事を考えると嬉しくなったが今は脳内で1人で惚気けてる場合ではない。

 祝詞が幾らリーダーとして優れていても所詮は高校生と言う枠組みの中だけか。祝詞の機嫌が悪いのはそれを自覚してるからなのか。


「酷い目に遭ったと言う話は昨日した筈ですが」


 祝詞は冷たい反応を返す。


「トラウマは乗り越えなあかんよ」


「トラウマなどありませんよ。ただ、あそこの上層部から嫌な気配を感じるだけです。足元からムカデが這い上がってくるかのようなおぞましくて薄気味悪い感覚を。あそこに何かが隠されているのは間違いないですが今の(わたくし)たちで勝てるかどうか」


 祝詞の反論に終が興味深そうに目を細めたように徒人には見えた。


「ガチで巫女のリーダーがそれを感じるのならかなりヤバイ予感がする」


「それなら神霊の祭礼へ行ってみたら? あそこならそこそこの敵が居てそれなりの物があるかも」


 今まで黙っていた十塚が提案する。彼女は若干呆れており、会議よりも外に出て活動しようぜと言いたげだった。


「神霊の祭礼? 当方は聞いた事がないな」


 彼方は座卓の上に大陸の大雑把な地図を広げながら言われた場所を探している。


「西の魔王軍の支配地域に近い神殿で霊のたまり場よ。パルテノン神殿みたいな外見でさ、敵が下級悪魔や霊が多いからみんな行きたがらないし、荒らされてないから」


 十塚が広げた地図で場所を指差して説明してくれた。地図では大陸の西側に当たる部分で平野みたいだ。しかし、説明を聞いてるとヤバイ場所にしか思えない。


「リーダーの経験値稼ぎにはなるんじゃないか」


 アニエスに背中をさすってもらっている和樹が口を挟んだが自分の出した声が頭に響いたのか額を抑えていた。未成年だから断ればよかったじゃないかとも思わなくもないがこの大陸では法律も何もあった物ではないので終の誘いを断れたかと言う点で考えると徒人も人の事を言えそうにない。


「素朴な疑問なんだが俺たちに霊とか見えるのか? あの手の類は霊力がないと見えないとか攻撃できないとかあるんじゃないの?」


 RPGなら霊が見えるくらい大した事はないんだろうがこれはあくまで現実だ。霊が剣で斬れるとは思えないが──


「普通に見えるよ。問題なくね。こっちに来た時に色々と適応させられたのか知らないけど、霊力のなかったうちにも見えたから大丈夫や。それよりも問題なのは前衛は霊に通じる武器じゃないといけないと言う事実の方が面倒やね」


「それならご主人様なら錬金剣士の上位職である魔法騎士にでもなれば退魔の力か聖なる力を剣に乗せられるじゃないですか。それで問題は解決しますよ」


 終の言葉をアニエスが補足する。二人共、最初の頃よりは随分マシな表情になってる気がした。


「じゃあ、神蛇さんにはウェスタの巫女神殿に行って貰って魔法騎士に転職だね。これで当方も霊が斬れるよ」


 彼方がうんうんと頷きながら一番喜んでいた。


「え? 頼りっぱなしなの?」


「え? 当方に魔法使えると思ってるの? 適応力0なのに」


「開き直りかよ」


 彼方と祝詞の漫才みたいなやり取りに徒人は思わずツッコミを入れていた。

 結局、その日はウェスタの巫女に寄った後、砂の回廊での肩慣らしで終わってしまったので神霊の祭礼へは明日行く事になった。


【神蛇徒人は魔法騎士の職業熟練度(クラスレベル)は15になりました】

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