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第84話 恋愛には命賭けます 前編

 家に帰って居間でこれからどうするかを相談したが纏まらず、明日に持ち越しになった。終は魔骨宮殿上層階に拘っていて祝詞は別の狩場へ行く事を提案したからだ。徒人には祝詞自身がユニークスキルの[汚れへの忌避]のマイナス効果をなんとかしたがっているように見える。

 そんなやり取りのまま話は全く進まないので今日は解散になってしまった。

 相談が終わった後、廊下ですれ違ったアニエスが密かに呟く。


「今夜21時に決行するそうです。自分は剣峰と十塚を見張っているのでご主人様だけで行って下さい。時間は部屋にある物が振動して寝てても起こしてくれますから」


 徒人はそれに言葉で答えずに瞼を閉じて答えた。

 それから3時間。鎧は脱いだ状態で腰のベルトに魔剣を差した状態でうつらうつらしていたら急に振動した畳のせいでびっくりして徒人は目を覚ます。地震かと思えば畳が揺れていたようだった。

 びっくりさせるなよとアニエスに文句の1つでも言ってやろうかと思ったが遅刻してトワに怒られたのでは話にならないので大きな鏡を部屋の中央に置いてドアが開くか試してみる。ドアノブさえ少しも動く気配はなくドアは扉のようになっていた。

 徒人はそれを確認して大きな鏡に手をかざして転移陣を起動させた。一瞬、意識が暗転して気が付いた時には黒鷺城の庭に居た。頭を振って転移陣による意識の混濁を振り払う。最初は何も感じなかったが最近は転送回数が増えたせいか微妙に気持ち悪い。


「大丈夫か? 少年?」


 目の前に巨大な影があると思えば、満月の光が照らしだすとそれはシルヴェストルだった。


「こんばんは。なんとか大丈夫かと……転移陣は体に悪いんでしょうか?」


「体に悪いのではなく貴公が強くなって細かい部分を感じ取れるようになっただけだ。こっちだ。食堂で閣下がお待ちしている」


 月明かりに照らしだされた庭園をシルヴェストルが徒人に背を向けて黒鷺城へと歩き出す。それに着いて行く徒人。強くなったからこそ目の前を振動を起こしながら歩く竜人(ドラゴニュート)の強さに驚く。強いとは思っていたが職業(クラス)レベルが500以上あるのにそれでも歯が立たないと感じさせられてしまう。


「別に嘆く必要などない。それは貴公が強くなった証だ。……要らぬお喋りついでに余計な助言をしておこう。西の魔王軍のファウストとは戦うな。素手でのレンジに入られたらこの大陸で奴に勝てる者など居ない」


「あの狐男はシルヴェストルさんより強いんですか」


 徒人はファウストの姿を思い返す。武人タイプだとは思うがあいつには得体の知れない薄気味悪さがあった。切り札を幾つも隠し持っているような底知れない恐ろしさを。


「わしでも1対1で懐に入られたらキツイな。押し切られる。もし逃げられず、戦う事になってしまったら絶対に複数で襲い掛かって奴に攻撃させる暇を与えるな」


「……覚えておきます」


 2人は黒鷺城の入り口まで来ていた。リビングメイルが敬礼して扉を開け放つ。徒人とシルヴェストルは城内に入って玄関ホールを通って食堂へと向かう。質素だけど品のいい調度品を見ていると変に客人を圧迫されたりしないので過剰な気遣いをしなくていいのは助かる。


「ここにあるのは全て閣下が選ばれた品だ。下々の者に構えて欲しくないと言ってな。それにいつ攻めこまれるか分からないのに貴重な物はおけないと仰ってな……セコいと言うか変な所でしっかりして居られると言うか、イカン。要らぬ事を言ったな。出来れば忘れてくれ」


 豪快に笑う竜人に徒人もつられて笑ってしまう。


「善処して忘れますよ」


「頼むぞ。ここだ。自分で開けて入ってくれ。わしがやるとドワノブを壊してしまうのでな」


 冗談だろうと笑いながら徒人は食堂のドアを開けて入った。

 長テーブルを挟んでトワとダークブルーのフードとマントを被った影と頭部に山羊の角が生えた緑系で三つ編みで牛乳瓶底の眼鏡を掛けた豪華な法衣を着た女性が居た。言っては悪いが女性の方は芋っぽい感じを受ける。食堂にはこの3人だけしか居ない、

 笑ってる場合ではないのを察して徒人は表情を消して食堂のドアを閉める。


「徒人、こっちです。確か初対面ですよね。こっちのフードを被った影は時空魔道士(ヴォイドマスター)のカイロスとこっちの頭部に山羊の角が生えてるのが悪魔で枢機卿(カーディナル)のフィロメナです。共に南の魔王軍の幹部で五星角です」


 2人の人物は長テーブルの反対側であるホスト席の左右に佇んだまま微動だにしない。


「初めまして」


「初めまして、婚約者殿。我はカイロス。以後見知り置きを」


「こんな興奮する満月の夜が初対面とは嬉しく思います。手前はフィロメナ。ご記憶の隅に留めて頂けると幸いです」


 2人の幹部は深々と頭を垂れた。徒人も慌てて頭を下げる。頭を上げるとフィロメナの社交辞令と思われる挨拶にトワは面白くなさそうに睨んでいた。彼女が何をするのか分からないが幸先が思いやられる。


「カイロスさんは全く喋らないと聞きましたが」


 取り敢えず、トワの気を逸らす為にカイロスに話を振ってみた。


「アニエスだな。事情があって、あいつと話すと面倒なのだ。ご内密にお願いしたい」


 カイロスはこれからして男性と判断して間違いない。アニエスとの事情を踏み込んで聞いてみたいが黙って流す。


「分かりました。トワさん、それで俺は何をしたら良いのでしょうか?」


「ホスト席の対面にある椅子に座って下さい。あと部下の前でもさん付けは駄目です」


 徒人は言われたとおり、指定された席に着く。近寄ってきたトワはどこからか取り出した人形を徒人の前に置く。よく見ると徒人にかなり似せて作っているのは分かるのだが所々に血らしき赤黒い色が付着していて微妙な気分にさせられる。


「単純かつハッキリ言うとわたしはこれから一切の手加減抜きで徒人に即死の魔法をかけます。理由は徒人が受けた感覚の正体を知る事が死神勇者の正体を暴く事に通じると判断したからです。考え抜いた上でわたしには即死魔法を受けた感覚しか思い付かなかったので即死魔法を試してみようと思い立ちました。別の方法にしますか?」

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