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第83話 蘇生不可能?

 アストルが自分を抱くように両手で二の腕を掴んでいた。それは震えているようにも見える。


「つまりそれはどういう事なんだ? 蘇生魔法で蘇生できないと言う事なのか?」


 徒人は思わず、声を荒げて聞いてしまった。もし、それが死神勇者の力なら徒人にとって最悪の相性の相手になる。

 彼方が左手を徒人の前に出して止めた。

 祝詞は躊躇いがちに口を開く。


「回復系では最初に教わる話で頭に叩き込んでおく事柄があるの。それに関して(わたくし)も一度たりとも忘れた事がない。と言うか忘れてはいけない重要な点があって、人には蘇生魔法が通じる回数があってね。それはライフポイントとも言われてたりするんだけど明確な蘇生回数は分からない。でもそれが尽きると蘇生が不可能になると言われてる。その蘇生不可能な状態を(わたくし)たち回復系は殺し尽くされると称してる」


「ふーん。でもさ、殺し尽くすなんて普通の人間だろうと魔族だろうと出来るでしょう?」


 深刻そうな空気に終が暢気な雰囲気で踏み込んできた。それは他人にとっては死地とも言える脳天気に踏み込んでるように見えるが逆に言い換えれば、終はそれくらいでは怯まないくらいの修羅場を潜ってきたと言えるのかもしれない。


「それは貴女が前衛だからです。それに一般市民ならともかく勇者と呼ばれる人間を殺し尽くすのは困難な事。魔王ですら簡単にはいかないでしょう」


 アストルの震えは消えて怒りが顔に現れていた。終の態度が不謹慎だとでも思ったのだろうか。


「そうなんや。うちは門外漢やったのにチャチャ入れて悪かったな。ホンマにごめんよ。謝るわ。ごめんな」


 両手を合わせて堪忍なと言いそうな仕草の後、彼方よりも僅かに高いと思われる背丈を丸めて低姿勢で頭を下げる終。

 その態度にアストルは不愉快そうにしているがそれ以上は何も言わなかった。祝詞は信じられないものを見るような視線を向けている。


「取り敢えずそれは一部の人間以外は簡単には出来ない事なんだよな? 魔術師には出来ないのか?」


 重苦しい雰囲気を嫌ったのか和樹が割って入る。


「闇系統でそういう効果を付与している上級魔道士(アークウィザード)が居るとは聞いた事がありますがあたくしは聞いた事がありません」


 思いもかけない返答に和樹は目を白黒させていた。


「あら、冬堂さんとは意外。取り敢えず闇系得意分野だったけ?」


「まあな。でも威力と弱点突くのにしか対応してないな。即死系混ぜると跳ね返された時に即死する弊害やアンデッドに効きにくくなったりするからな。第一、アストルさんが言ってるのは即死魔法の事で即死魔法は命を殺し尽くすには程遠いし、一度殺すのがやっとでそんな話は聞いた事がない」


 彼方がほうほうと相槌を打っている。


「それで他にあるの? 技とかで」


 そして続けてそんな事を聞く。徒人にとっても聞きたい事を聞いてくれるのはありがたい。


「少なくともあたくしには分かりません。ただ命を殺し尽くす方法は大まかに分けて二通りあって命を殺し尽くす方法ともう1つは魂を砕く方法です。もっとも魂を砕く方法はかなり難しくて命を殺し尽くす方がマシとも言われていますが」


「存外に楽じゃないのね。もっと簡単にやってくるんだと思ったけど」


 彼方はあっけらかんとした様子で言い放つ。安心しているのか度胸があるのか徒人には判断し辛い。


「対策はないのか?」


 徒人は核心に触れる話を入る。死神勇者の脅威は充分に分かった。問題はどうやって防ぐかだ。


「呪術系なら身代わり人形とか代わりの魂とかそういう即死封じや魂を守るアイテムで無力化出来るんだけど、ユニークスキルなら防げない可能性もあるわね」


 アストルは眉間に皺を作る。


「殺し尽くされたら意味ないけど、一応、(わたくし)は守りを固めておくか。それと誰かに蘇生魔法を覚えてもらうしかないかな」


 祝詞はそう言って和樹を見た。


「え!? 俺かよ。俺、回復魔法の素質平均以下しかないぞ。それで賢者になれって無茶ぶりだろう」


 和樹が嫌そうな顔をする。確か魔術師系は賢者になれば蘇生魔法覚えられるんだったか。


「神蛇さんと冬堂さんは最低限でもあるからいいじゃん。当方は空っぽだよ」


「その代わり余りある物があるから良いじゃないか」


 徒人は多少妬みを込めて言う。


「あんたたちは本当に仲がいいんやね」


 終はどこか懐かしさを込めた一言を漏らす。この言動を聞いていると反りが合わなかったのではなくパーティメンバーが全滅したのではないかと徒人は思う。


「取り敢えず、考えておいて頂戴」


「リーダーは強引だな」


 祝詞の態度に彼方が呆れてるのか諦めてるのか苦笑していた。


「十塚さん、なんか意見ないの?」


「別に。その死神勇者とか言うのにこのパーティが狙われてるかどうか分からないし、小生たちが戦うかどうか決まってないでしょう? そりゃ狙われてから考えればいいわけじゃないけどさ」


 腕組みして今まで黙って聞いていた十塚はもっともな意見を口にする。


「ランキング制で他の稀人(まれびと)に襲撃されてから落ち着かないんだよね。それに双子の勇者の件があるし、対策だけは取っておいた方が良いと思うんだ」


 彼方は双子の勇者に襲撃されて一度殺されている経験があるからか妙に説得力のある言葉を紡ぐ。

 徒人とトワの関係を知っている祝詞ならともかく他の2人が積極的なのは身を守る為なのだろうかとふと考える。ひょっとしたら乗り気じゃない十塚の態度の方が自然かもしれない。


「あたくしに話せる事はこれ以上ないわ。これでいいかしら?」


「ええ。大変参考になりました。ありがとうございます」


 アストルに祝詞が深々と頭を下げた。


「貴方たちの方でも何か分かったら報告して頂戴な」


 人妻っぽい雰囲気を纏った女性はこの部屋を出て行った。


「結局、核心に近い事は何も分からなかったか」


「お偉いさんが殺された動機とか今の段階で詮索しても仕方ないよ。帰って明日からどうするかを決めないと」


 徒人の愚痴に祝詞が宥めた。トワの望みを聞くのであれば、死神勇者と対峙しなければならないのは徒人には避けられない事実だった。

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