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第79話 死神勇者とは何ですか?

 明日、朝から終の引っ越しを手伝うのが決まって早々に自室に引き篭もった徒人だったが日付が変わる頃、入ってきたアニエスに起こされてしまった。彼女曰くちょっと黒鷺城でトラブルが起きたので収めるのを手伝って欲しいらしい。

 転移陣を使って黒鷺城へやってきたのだがいつもの黒鷺城は夜になれば警戒に当っているリビングメイルの足音くらいしか聞こえない筈なのだがテラスの方が妙に明るくて騒がしい。誰かが酔っ払って騒いでるみたいなのだがどう考えてもこの声の主は1人しか居ない。聞こえてくる声は母親を探す子供みたいに思えるのは惚気だろうか。

 近くにはシルヴェストルの姿もあった。


「アニエス。もしかしてアレが呼ばれた原因なのか?」


「はい。取り敢えず、魔剣は預かります。余計に騒がれても困りますから」


 徒人はベルトから鞘ごとアニエスに渡した。彼女は両手で魔剣を抱えている。


「ネゴシエートの基本だな」


 黒鷺城で襲われる心配はないと思うが反対派が居ないとは限らないのでアニエスが護衛代わりにテラスの方へと先頭に立って歩く。

 テラスに近付くと酔っ払った女性がと言うか、トワさんが出来上がっていた。彼女はテーブルの上に持たれて潰れてる。ネグリジェの胸元が見えていた。


「徒人様、魔王様をお願いします。最近ずっとこうなので」


 近くに居た執事長らしき白髪混じりの老人が頭を下げる。覗こうとしてたのにその一言で徒人は慌てて身を正す。はいなどと適当に返事を返す。


「どうせ、好きなだけ見れるじゃないですか。格好悪いご主人様ですね。まあ、そんなご主人様に対してハッキリ聞きもせず1人で飲んだくれてるもっと格好悪い(魔王トワ)のが居ますが」


 アニエスは背を向けたまま呆れていた。辛辣過ぎる。


「徒人の為に、徒人の為にやったのに」


 寝てるのか起きてるのは微妙な状態のトワが呟く。


「ここ一ヶ月酒を飲むとずっとこれです」


「あんまり飲めないのにちゃんぽんするから」


 アニエスとシルヴェストルがぼやく。テーブルの上を見ると赤ワインらしき液体が入ったワイングラスとなんか芋焼酎みたいな液体が入った徳利が置いてあった。


「我ながら面倒な人を好きになってしまったんだな」


「アニエス! シルヴェストル! なんで徒人を呼んだんですか! 格好悪いじゃないですか。見られたくなかったのにぃ!」


 徒人が苦笑しているとトワがテーブルの上に持たれていた半身を起こして怒り始める。正直、泣いてるのか怒ってるのかよく分からない。


「取り敢えず、飲むのはやめて落ち着いて下さい」


 仕方ないので慰めついでに徒人は近くのメイドが持っていたタオルを借りてトワの目尻を拭く。よく見たらトワの顔は瞼が腫れて化粧も落ちていた。


「死神勇者って分かりますか?」


 徒人はトワの隣の椅子に座る。そして気を逸らす為に、聞きたかった事も含めて死神勇者の話を振ってみる。


「わたしに会いに来てくれたと思ったら他の女の話ですか!」


 見事にやぶ蛇だった。


「情報を知りたいだけかと。第一、死神勇者は以前のケースだと男じゃなかったですか? シルヴェルスト、昔の勇者で言うと蠍でしたけ? 山羊でしたけ?」


 アニエスはトワにツッコミを入れつつ、シルヴェルストに話を振る。


「確か山羊が悪魔への捧げ物で反転したら神だった筈だが……その関係で山羊が神を担当していたような、詳しく覚えてなくてすまぬな」


 シルヴェルストは腕組みをしてその巨躯に似合わぬ思案顔で答える。


「山羊座で確定なんですか?」


「ほぼ間違いなく」


 シルヴェルストの答えは徒人の望んでいた物ではなかった。蠍座なら徒人自身が勇者であるとか言う不安を握り潰せるのに──


「600年前の話ですから頼るものが資料しかないですが」


「恐れながら申し上げます。あれの信ぴょう性はイマイチで余り信じない方がよろしいかと」


 控えていた魔族のメイドが口を挟んだ。


「徒人はわたしの酒が飲めないんですか!」


「トワさん、この会話が終わったら助けるのを付き合いますので」


 ワザと意地悪してトワさんの反応を見た。


「死神勇者とか言うのでわたしが知ってるのは、ヒック。山羊座の勇者で、ヒック、命を殺し尽くすユニークスキルの話だけです。彼だか彼女だか知りませんがヒック。死神勇者に倒された人間は蘇生しないそうです。そのお伽話みたいな信ぴょう性ですけど、ヒック。さあ、徒人、覚悟して飲むんです」


 トワは赤ワインが入ったワイングラスを徒人に向けてくる。飲まないと返さない勢いだ。

 泣き上戸で絡み酒とか最悪の組み合わせだなと思いつつ、徒人は思っていた事を口にする。


「飲めないです。別に未成年とか云々言う気はないですが飲んだらトワの面倒を見れないじゃないですか」


 徒人の言葉にトワが凍り付いた。硬直していると言うのが正しいがその酒で赤かった顔は更に赤くなって耳まで赤くなる。


「今、徒人に殺されそうになりました。ううう」


 徒人は嫌な予感がしたがとっさに避けられなかった。トワの嘔吐を。それは見事に徒人の下半身と言うか、股間の部分にぶち撒けられる。これは絶対に朝まで乾かない。その上、アルコール臭がする。祝詞どころかみんなを誤魔化すのにどうしたものか。お漏らししましたとか言う訳にもいかないし──


「トワ、大丈夫だから気にしないで」


 徒人はそう言って誤魔化すが内心は頭を抱えている。


「はぁ。吐いてスッキリしました。徒人、お風呂に一緒に入りましょう。服はわたしが後で洗濯しますから!」


 次の瞬間、今まで酔い潰れていたとは人物とは思えないくらいトワは回復していた。しかも凄くいい笑顔で。そして先程まで右手に持っていたワイングラスはテーブルの上に置かれている。


「待って下さい。なんで急に元気になるんですか?」


 フフフとトワは笑い声を漏らしている。虚ろ目よりもある意味で怖いんですけど、さっき吐いたのはワザとじゃないだろうかと不安になってくる。だがその間にトワは徒人の首根っこを捕まえて黒鷺城の中へと引きずって行く。

 服が伸びますってと言ってみたが効果はない。むしろ、トワさんは余計に意地になって引っ張っている気がする。


「浴場開いてるよね? 急いで準備をお願い」


「承りました。アニエス様」


 アニエスが近くに居たメイドにサラリと命令する。


「おい。話が決まって──」


「徒人、大丈夫ですよ。隅から隅まで洗ってあげますから」


「ちょっ、嬉しいような、怖いような」


 徒人は抵抗する間もなく大浴場へと引きずられて行った。

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