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第8話 森の回廊へ

 次の日の朝、一行は初心者用の訓練ダンジョンへ潜る事になったので兵舎近くで転移陣のある建物へと辿り着いた。


「どうしてお前までついてくるんだ?」


 何故かアニエスまで装備万全で大きなリュックを背負っていた。


「ダンジョン内でのまともな食事を食べさせるのは使用人の義務です。それに許可は既に取ってあります」


 アニエスは一々無駄なポーズを取っている。何度目か言っているが全く聞く様子がない。

 トワさんから受けた命令で見張りも兼ねているんだろうが目立って仕方がない。


「別にRPGで経験値が減ったり、ダンジョンに入れなかったりする訳じゃないから良いんじゃないかな」


 彼方がメタな事を言う。調べてみたが確かに制限はない。

 建物内部で転移陣手前に居た女性兵士も問題ないと言い切った。


「もし問題があるとしたらアニエスさんが戦力になった場合です。使用人に戦闘能力は皆無ですので問題ないです」


 徒人はアニエスが魔王軍のスパイである事を知ってるからこそただ者ではないと思ってる事を認識させられた。こんな変なポーズ取ってる奴を疑わないのだろうかとも思う。


「なんでベッドがあるんですか? もしかして……」


 和樹が続きを言おうとすると女性兵士が引き継いだ。


「初心者は魔力が切れやすいので戻ってきてすぐに休めるようにとの配慮です。女性の方も休まれるのでここの警備は女性がする事になってます」


 女性兵士はニコニコしてる。

 こういう点は本当に古風なRPGみたいだ。


「それじゃあ、行きましょうか」


 リーダーの祝詞が出発の合図を掛ける。


「打ち合わせ道理にお互いをフォロー出来るようにしましょう」


 パーティメンバーが祝詞に対して返事をする。


「やばかったらゴブリンちょっと倒して戻ってきていいんですよ。無駄に損耗する方がお金と命の無駄ですからね。死んでも蘇生できる事もありますから遺体は出来れば連れ帰ってきて下さいね」


 一行はその言葉を背に転移陣へと入っていった。



 彼方の一撃がゴブリンを脳天から真っ二つに斬る。彼女が今持っている刀は支給されたただのなまくらに過ぎないのにも関わらず──

 徒人は負けていられないとターゲットが土門に移ったゴブリンの腹を支給品のブロードソードで薙ぐ。赤い血と赤い臓器らしき物がこぼれ落ちた。子鬼は胴体を横一文字に分かたれて絶命する。

 その様子を見ていた残りのゴブリン2体が慌てて森の奥へと逃げ出そうとする。


「《アイシクル!》」


 和樹の魔法が逃げだそうとしたゴブリンたちの足を凍結させた。そこに祝詞の弓から放たれた矢が片方の子鬼の首を貫く。首を抑え漏れる空気を留めようとしながら子鬼は息絶えた。

 走り込んでいた土門が残ったゴブリンの背中にロングソードを突き立ててトドメを刺した。


「お前ら本当の初陣なのかよ」


 ベテランらしい30代のおっさんらしき盗賊のレオニクスがため息混じりに言った。


「手際が悪かったのか?」


「逆だよ。良すぎるんだよ。奇襲とは言え、ゴブリン4体を楽々と葬りすぎだぜ。躊躇いとかないのかよ」


 レオニクスはゴブリンたちの死体をあさりながらアイテムを回収している。


「別に」


 返り血を被った彼方は異世界に持ち込めたのか、タオルで顔を拭いていた。

 徒人は精霊さんを呼んで職業熟練度(クラスレベル)を確認するが一つ上がっただけだった。さすがにゴブリンではこの程度か。


「返り血を放置してると病気になりますから拭くなり何なりして下さいね」


 アニエスが拭く物を渡してくれた。変なポーズでだけど──だから普通に渡してくれ。


「そう言えばスマホとか電子機器が使えなかったな」


「確かに使えないな」


 和樹はアニエスをチラチラと見てたり、周囲を見渡したりしている。誤魔化してるのか警戒してるのかどっちなんだ。


「なあ、アニエス」


「ご主人様、なんで御座いましょう」


「病気は回復魔法で治せるんだろう?」


 徒人の言葉に祝詞とアニエスが反応する。二人とも真剣な表情に変わる。


「病気は衛生兵(メディック)や薬じゃないと治せません。だから気をつけて下さい」


「社でそんな注意を受けたな」


 徒人は手に持っていたタオルで肌の露出してる部分に掛かった血を慌てて拭いた。


「お客さんが来てる」


「人の仕事取るなよ」


 彼方の言葉にレオニクスが小さく抗議する。

 茂みを揺らして現れたのはシェパード犬くらいのネズミが3体。こちらを見るなり襲いかかってくる。


「《アイシクル!》」


 走りだそうとした巨大ネズミの足を和樹の氷魔法が絡め取り、その出鼻を挫く。


「ガス切れだ。あと頼む」


 その声を聞いてないのか、既に敵陣に切り込んでいた彼方は巨大ネズミの中心で独楽のように回転して3体にそれぞれダメージを与える。体力が一番残っていなかったのか左に居たネズミが地面に倒れた。

 徒人も続いて彼方から一番遠い巨大ネズミに斬りかかる。その一撃は口を切り裂き、そのまま顔の上半分を斬り飛ばす。

 彼方が残っていたネズミの首を刎ね落として決着を着けたと思われた。


「また来たぞ!」


 レオニクスの声が響く。徒人が彼の方を見ると反対側から巨大な黒い塊が4つ現れる。想像したくないが多分──


「えーと森Gかな?」


 矢を放ちながら祝詞が呟く。その矢は滑るように距離を詰めていた森Gの一つに命中し、そのまま息の根を止めた。


「俺はどうしよう」


 魔力切れの和樹はロッドを構えて残り3体の森Gを威嚇する。だが昆虫科?に属する奴らは何も変化がない。

 取り敢えず、庇わないといけないと考えたであろう土門が立ちふさがって挑発するが止まったのは一匹だけ。抜けてきた森Gの一匹に彼方が走り寄ると下から振り上げるような斬撃を加えて足を止める。だが踏み込みが甘かったのか足を幾本か斬り落とされただけで森Gは動いている。


「刀を汚したくなかった気持ちが災いしたか」


 彼方は忌々しそうに舌打ちする。なまくらでも嫌だったのか。


「うわぁ、こっち来る」


 徒人が気を取られた間に和樹が森Gに足を噛まれてしまった。


「動くな」


 徒人は暴れる和樹をなだめ、ブロードソードを突き立てて森Gを黙らせた。


「これも病気になるのかね」


「放置すれば化膿はしますね」


 戦闘になると妙に存在が薄れるアニエスが呟いた。多分、隠匿系のスキルで身を隠しているのだろうか。

 徒人が振り返ると彼方が一匹、土門とレオニクスが一匹葬っていた。


「終わったみたいだな」


 精霊さんを呼んで職業熟練度(クラスレベル)を確認すると5に上がっていた。この変な機械音なんとかならないのかとも思うがこの世界では地球とは在り方が違うので突っ込まないようにしておこうと徒人は割り切るように努力する。


魔術師(メイジ)さん、これを飲んでおけば気分はマシになります」


 ちゃんと姿が見えるようになったアニエスが和樹になんか水筒のような物を渡している。だがまた変なポーズだ。


「お主、中二病か?」


「分かるのか。魔術師(メイジ)殿」


「勿論だ。お主出来るな」


 和樹は寄りにもよって乗ってしまった。


「見ろ! ご主人! 理解者が──」


 興奮状態で敬語が無茶苦茶になってるアニエスの頭部へと徒人のチョップが命中した。


「あ、痛っ。ご主人様は意外に心が狭いんですね」


「お前が暴走してるだけだ」


 徒人は額を押さえる。

 視線に気が付いて祝詞の方を見る。何故かちょっと喜んでいた。彼方は一瞬こちらを見たが興味なさそうに刀に付着した粘液と睨み合っている。


「リーダー、なんでしょうか?」


 徒人は思い切って聞いてみた。このパーティに入らなきゃ仕方なかったが祝詞の事はなんか苦手だ。


「いやぁ、(わたくし)はダメンズかもしれないとか思ったり。神蛇君がDVの気があると思うとちょっとゾクゾクしてしまった」


「ないです」


 女は斬らないとか言い出したりはしないが尊重する気もない徒人にしてみたらなんか心外だった。


「顔も背もそこそこでモテなかったのはHなのもあると思うけどそういうオーラのせいだと思うの」


 祝詞は和樹の左隣で回復魔法を使いながら上目遣いで徒人を見る。


「なら、なんで嬉しそうなんですか」


 徒人は目付きは良くない方だったが、こういう視線を浴びるのは慣れていない。


「だから言ってるじゃないの。(わたくし)はダメンズかもしれない」


 ニヤニヤしてる祝詞を見て調子が狂った徒人はため息を吐く。真面目に考えるのは止めた。


「ご主人様。弟子にしてもらいました」


 和樹と何やら話し込んでいたアニエスがそう叫んだ瞬間に徒人は宿舎に帰りたくなった。

 こいつと話してると疲れる。

 結局、この日はアニエスが持っていた安物の魔力回復アイテムを使って何戦かした後、モンスターたちの素材になりそうな部分やアイテムを回収して夕方前にこの森の回廊を抜けた。


【神蛇徒人は剣士の職業熟練度(クラスレベル)が14になりました。[剣技4]を習得しました。[[知識欲2]と[成長促進2] が3にレベルアップしました】

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