第75話 我らは黄道十二宮の勇者(ヒーロー・オブ・ゾディアック)
Sideです
薄暗き地の底に出来た空間。ラティウム帝國に忘れ去られた地に僅かな明かりが差し込む中、置かれた円卓に6人の人間がその席に着いている。
だが円卓は半分しか埋まっておらず、明らかに12人で座る事を考慮されている作りだった。そして席に座っている全員が全員フードを被り仮面を被って顔を隠している。
「勇者なのかすら分からん男に岳屋弥勒が敗れたそうだな」
時計で言うなら12時の位置に座る人物が口を開いた。だが沈黙を破った声も魔法で加工されているのか、くぐもった声で男性か女性かの区別がつかない。
「所詮、岳屋弥勒は覚醒勇者の中で最弱。元老院如きに御立てられて我らが戦うなと言った北の魔王軍に喧嘩を挑むとは疎かの極み。その上、敗走した挙句、復活したら復活したで我らの忠告も効かずに西の魔王軍であるメフィストに利用されるなどと言う体たらく。見ているこっちが情けないわ」
2時の位置に座っていた人物が仮面越しに額を抑える。
「まだ未覚醒の獅子座、天秤座、蠍座、そして射手座の4人を除けば我らは6人しか居ない。この穴を埋める為に新しい勇者を目覚めさせねば」
1時の位置に居た人物が呟く。だがその声すらも加工されていた。
「亡くなった神前早希は蘇生できないのか?」
10時の位置に座っていた人物が問う。この人物も声を変えていて性別すら判別できない。
「残念ながら彼女の魂は蘇生を拒否し続けている。この世界の真実が重過ぎたようだ」
「若いと言うのも困ったものだな」
10時に居た人物がため息を吐く。
「岳屋弥勒もその繊細さの一割でもあればこのような状況に追い詰められずに済んだだろうに」
「言うなよ。しかし、気になるのはその岳屋弥勒を倒した男だ。曲がりなりにも黄道十二宮に選ばれた勇者を倒した男なのだぞ」
10時の言葉に11時の位置に居た人物が窘める。この人物もやはり声を変えていた。
「神蛇徒人。以前、神前早希を陥れた色街楓を倒した男と聞いている」
1時の人物が説明を行う。
「話を端折り過ぎで分からないな」
10時の人物が大げさに手を上げてみせた。
「取り敢えず、妹に命を分け与えたり、魔王の血液などと言う物を使って弱体化した双子座の勇者では刃が立たなかったと言う事だ」
「聞いた話とは違うな。途中までは追い詰めていたとの報告を聞いている。だが向こうのユニークスキルでひっくり返されたらしい」
12時の人物に1時の人物が反論する。
「要するにどうやってひっくり返されたかも分からないし、その神蛇徒人の星座も分かってない訳か。仮に勇者としたなら獅子座、天秤座、蠍座、そして射手座のいずれかに当たる訳だが生年月日も判明してないと言う体たらくか」
2時の人物が冷たく罵倒する。
「いちいちここに来てまで星占いなどしないだろう。ここでは何も意味がないのだから。真実を知らなければな……」
「つまり、殆ど分かってない訳か。我々の味方か敵なのかすらも」
10時の人物の自嘲に今まで黙っていた6時の人物が口を開く。当然、この人物も声を変えていた。
「せめて誕生日くらいは聞き出して欲しいわね。同じ星座の勇者は現れないのだから彼が欠番している星座の間に生まれていたのなら勇者の可能性が高い」
10時の席の人物が現状にため息を吐く。
「違ったら魔王にでも加護を授けてもらっているのか……」
12時の人物が独り言を呟く。
「ユニークスキルで魔王の加護があるなどと聞いた事がないが」
隣りに座っていた12時の人物を見て11時の人物が疑問を口にする。
「その時はその時で討てばいい」
「簡単に言ってくれるな。後衛である貴様が抜け抜けと言うのが気に入らんよ」
1時の人物の言葉に6時の人物が嫌悪感を露わにする。
「なんだとやるのか! 乙女座の勇者よ!」
「我々前衛の陰にコソコソと後衛に隠れているだけの姑息な魔法使いが笑わせてくれるのだな」
1時と6時が席から立ち上がった。だが円卓の上に現れた術符の大河が2人を牽制する。
その術符の大河は獲物を狙うピラニアの如くうごめき1時と6時の人物の隙を窺っていた。彼らはその術符の大河を創りだした11時に座る人物を見る。こんな大技が使えるのは陰陽師である奴しか居ない。
「止めぬか。我々で争ってどうする。とにかく今は神蛇徒人を観察しその上で懐柔するか倒すかしなければならぬのだぞ」
「では小生が行こう。神蛇徒人に刀谷彼方。面白いじゃないか」
10時に座っていた人物が席から立ち上がる。
「殺すなよ。見極めるのだ。死神勇者よ」
「言われなくとも」
11時の言葉に10時は、死神勇者と呼ばれた人物が笑い声を漏らす。
それを見て1時が天井から漏れる光に手をかざす。
「全ては我らの星を我らの手に取り戻す為に」
『全ては我らの星を我らの手に取り戻す為に』
1時の言葉に他の全員の言葉がハモる。それを見届けてから死神勇者は1人円卓を去って行った。




