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第74話 噛み合わない稀人たち 後編

 徒人はアニエスを追って縁側を玄関の方へ移動する。

 門の向こうに複数人がいるのは分かった。


「誰か居ませんか? 熊越優子です。来栖と一緒に来ました」


 門の向こうにいると思しき熊越が叫ぶ。

 アニエスが徒人を見る。勿論、自分が門を開けると言う意味だろう。徒人は頷いて腰にぶら下げていた魔剣に手を掛ける。

 アニエスは門を開けた。こっちを確認すると熊越が丁寧に頭を下げ、来栖も一瞬遅れて硬い動作で頭を下げる。鈍いのは肩に担いだ干した大根の束のせいだろう。

 彼方と土門が遅れて玄関を開けてやってきた。


「裏切り者の元勇者討伐おめでとうございます。これは祝いの品です」


 熊越が言うと来栖がアニエスに渡そうとするが土門がそれを代わりに受け取った。昨日の戦闘で攻めさせるならアニエスが担当した方がいいと判断したのだろうか。


「近くとは言え、わざわざ祝いの品を渡す為だけに来た訳じゃないんでしょう」


 見れば祝詞が徒人の隣に立っていた。


「はい。実は聞いて欲しい事があってきました。相談できそうな稀人(まれびと)仲間は貴方たちしか居ないと思ったので」


「随分と買い被ってくれるのね。……まあいいわ。居間へ上がって」


 思い詰めた様子の熊越に祝詞は簡単に許可してしまった。害意を感じなかったのか、それとも、相手が2人ならどうにでも出来ると思ったのだろうか。

 取り敢えず、客人である2人を含めて徒人たち全員は居間に戻った。



 アニエスが並んで正座して座る2人に客人用の湯呑みでお茶を出した。


「懐かしいな。家と言い、このこの湯呑みと言い」


 来栖は疑いもせず、一口でお茶を飲み干してしまう。アニエスは仕方ないのでポットに入ったお茶を入れるがそれが最後だったのか湯呑みを満たす前になくなってしまった。

 仕方ないのでアニエスはポットを持って居間から出て行く。この場の戦力を削ぐ為にやったのなら中々侮れない。


「味噌汁ですか? 飲んでいいですか?」


 屋敷での一件以来、すっかり毒気が抜けた来栖は置いてあった鍋の味噌汁を見つけてそんな事を言い出す。


「もう汁しか残ってないよ。それでいいなら。あと自分で入れてね」


 呆れ果てた彼方が答えた。来栖は使われずに残っていたお椀を取って適当に味噌汁を入れて飲み始めた。

 そんな彼女を横目に熊越が話し始めた。


「あたしが話したいのはそこにいる幼馴染みのゆーちゃんに関してです」


「ゆーちゃんって貴女のことじゃないの?」


 祝詞は怪訝そうにして巫女特有の長髪を右手で弄りながら話を聞いている。


「俺たちはお互いにゆーちゃんと呼び合ってたんだ」


「はい。そこにいるゆうちゃんの言葉通り間違いありません」


 土門のフォローに熊越は引っかかる言い方で答えた。幼馴染みに対しては妙に他人行儀な気がする。


「皆さんはパーティメンバーの召喚された時間と世界に違和感を覚えた事はありますか?」


 熊越がチラッと来栖を見るが彼女は出来るだけ音を立てないようにしながら味噌汁を啜っている。


「丁度、そういう話をしてた」


 イマイチ話に乗れない和樹と自分が話の対象になっている為に黙っている土門に代わり、彼方が答えた。徒人は関係ないので黙って様子を見守っていた。お茶を入れたポットを持ってアニエスが台所から戻ってくる。


「あたしはこの世界に来た時から感じていました。それはそこにいるゆーちゃんを見た時からです」


「どうしてオレになるんだ?」


 そこで熊越は黙りこんでしまう。味噌汁を飲み終えた来栖がお椀を座卓の上に置いて諭すように言った。


「その為に来たんだから」


「うん」


 再び間が空いてから意を決した熊越が話を切り出した。


「何故ならゆーちゃんはあたしの世界では14歳の時に事故で死んでいるからです」


「なぁ」


 土門が殆ど反射的に声を上げる。徒人たちも少なからず動揺が走る。


「だから、あたしはゆーちゃんが幼馴染みであるのにも関わらずパーティには誘えませんでした。あたしが相談したいのはその部分です。あたしたちは確かに帝國からの召喚に応じてこの世界にやってきました。帝國があたしたちを召喚する法則はなんなのでしょうか? そこに早希ちゃんが悩んでいた原因があるのでしょうか?」


熊越の問いに徒人たちは黙り込む。話していいものか否かも含めて。


「随分と難しい問いをしてくれるわね。それを知ったから神前は蘇生しないで元勇者と言われた双子座の勇者である岳屋弥勒は裏切ったかもしれない。それでも聞きたいの?」


「はい。聞きたいです。この胸のモヤモヤを解決しないと先に進めません」


 祝詞の脅しに熊越は意に介さずに言い放った。


「構わないけど長くなるよ」


 祝詞は顎に手を添えてどう話したもんかと思案している。


「それともう一つ。ゆーちゃんと交際させて下さい」


「はい?」


 熊越が言った言葉に徒人は声を上げていた。重要な話ってそんな事なのかよ。

 何故か土門が立ち上がった。


「オレからも言うべき事がある。リーダー、このパーティを抜けさせてくれ。オレは熊越の面倒を見たいんだ」

これで第2章は終わって次から第3章です



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