第7話 ○×ちゃんが欲しい 相談しましょ
それから一週間経った。稀人たちは全員それぞれが職業別の訓練や戦闘訓練を一通りこなし、コロッセオでゴブリン相手の戦闘と言うか集団でボコってリンチに等しい殺害演習を終えた後、コロッセオの闘技場へと集められた。
全員ごとに分けられて横一列に整列させられている。
祝詞も和樹も彼方、それに悟の姿もある。それにカルナや他の巫女達の姿もあった。
観客席の端にはアニエスの姿もある。授業参観を見に来た親かとも思わんでもない。
「これより、回復職によるパーティ選抜を行う」
しばらく休暇中だったのか、ここ数日、姿が見なかったアスタルテが宣言する。
「これより殺し合いを行うとか言い出すのかと思ったぜ」
「そんな無駄な事してどうする? 召喚に掛かった経費が無駄じゃないか。お前たち稀人のセンスは小官には理解しかねるよ」
悟の言葉にアスタルテは心底呆れた表情をしていた。何度か言われた台詞なんだろうか。
「呼ばれた者は前に出てきて箱の中からクジを引いてくれ。そして、巫女に見せて小官の前で呼ばれた順に横一列で整列してくれ」
祝詞を含めた回復系職が呼ばれてそれぞれがクジを引いて徒人たちから向かって左から整列していく。
呼ばれないとか笑い話ないよな。徒人は不安に思う。
「自分を含めて最大6人までで1チーム作って貰う。どんな組み合わせでも構わぬがあんまり変な組み合わせで苦労するのは自分たちだからな。あと指名された者は拒否する権利もあるが後から撤回したり出来ないしパーティを組めない可能性もあるので注意するように」
「指名する前に質問したりして良いのでしょうか?」
おっとりした感じの僧侶らしき少女が挙手して質問する。
「構わないが1人の選定に出来る質問は一つだけだ。なるべく簡素な質問にしてくれ」
「分かりました」
少女はさっそくこちらを見て誰を選ぶかを決めている。要するに野球のドラフト会議みたいなものか。
「まず、右のお前からだ」
アスタルテが祝詞を指名する。
「じゃあ、剣客の刀谷彼方さん、私が最初に指名するのは貴方で」
「当方ですか! 勿論、この身が朱に染まるまでこの刀と剣技で滅私奉公させて頂きます」
祝詞は彼女に目を付けていたのか、迷う事も質問する事さえもなく一言で招き寄せた。
周囲の回復職たちが舌打ちをしていたのが聞こえた。彼方は本当に有名人だったらしい。
徒人は質問と指名されるのを待っていたが呼ばれる気配も質問も飛んでこない。──モヤモヤしてきた。
「盾騎士の神前早希」
適当に眺めていると性格の悪そうなギャルみたいな見た目の修道僧が口を開いた。神前早希と指名されたアザレアピンクのセミロングで瞳は銀色の少女を指名する。
アニエスが言っていた少女がこいつなのかと思いつつ、徒人は顔を覚えることに努める。
「すいません。先約があるのでお断りします」
だが少女は申し訳なさそうに一礼して断ってしまった。修道僧のギャルメイクの少女は唇を噛んで違う盾騎士を指名する。なんか波乱が起きそうなやり取りだなと徒人は他人事のようにその様子を見ていた。
早希は別の、おっとりした感じの僧侶に指名されて彼女のパーティに加わった。徒人にはギャルメイクが早希を睨んでいたのが何故か引っかかった。
「魔術師系の皆さん、得意系統は何ですか?」
祝詞が魔術師達に質問する。それぞれが炎・氷・雷・風・土などの得意系統を言う中で一人だけ黙っていた。和樹だ。
「氷だ」
徒人の聞いた話だと氷は土に次いで評判が良くないらしい。魔術師の何人かが隠れて笑っている。
異世界に来てもヒエラルキーか。切ないな。スクールカーストの中で決して上の方だと言えなかった自分には好ましい光景ではなかった。
誰もが炎や雷や風を選ぶと思っていた中、祝詞は和樹の前まで歩いて行ってその目の前に立って再び口を開いた。
2つめの質問を巫女が阻もうとしてアスタルテに止められる。
「それで貴方は氷魔法で何をなすつもり?」
「仲間を救う。魔術師の本分は火力じゃない。頭脳だ。氷の方が応用が利くと思ったんだ」
和樹は祝詞の目を真っ正面から見据え、はっきりと言った。徒人はちょっと感動してしまった。魔術師になった方が良かったかと思い、少し羨ましくなった。
祝詞は笑って右手を差し出した。
「その答えはイケてるね。是非、私のパーティへ」
「ありがとう」
和樹はその手を取って握手し返した。まるで物語に出てくるようなシーン。トワの誘いに乗ってなかったらあそこに加わっていたのかと思って寂しくなる。
そして2巡目が終わる。
3巡目は二人目の戦士を選ぶ者、盾騎士を選ぶ者、盗賊を選ぶ者、魔術師を選ぶ者と選択肢は分散していった。祝詞は盾騎士の土門勇気を選んでいた。
剣士でも呼ばれた者が居たが勿論徒人ではない。
4巡目もお呼びが掛からない。祝詞は盗賊のシュナイダー・レオニクスを入れていた。これは一人でダンジョンとか降りたりするフラグじゃないだろうな。潜入大失敗なんじゃないかとも思えてくる。
パーティに入れないで残ってる方が少なくなってきた。ここに来てまでぼっちの気分に。いや悟が残っているのでそれよりも惨めな気分になる。
5巡目が始まろうとした頃、祝詞が近くに居た巫女を、カルナを呼んで何かを話している。ちょっと長めの話でアスタルテが中断させようとした時にその言葉が聞こえた。
「私が最後に選ぶのは剣士の神蛇徒人。貴方だよ。遅くなってごめんね」
徒人は少し構えていた。
呼んだのは祝詞だ。呼んでもらえるのはありがたいが彼女の鋭さをどうするか悩む。だが今の状態で単独行動とか自殺行為に過ぎないし当てもないのに断るのは愚か者だ。
「何? 反応悪いな。断ってもまた指名するから運命だと思って諦めなさい」
目の前まで来ていた祝詞に強引に手を捕まれて引っ張り出される。
「べ、別に断りはしないけどちょっとびっくりしただけだ」
徒人が言い返す。ここで拒んで怪しまれるのは得策ではない。それこそ本末転倒だと判断して受け入れた。
「また会おうと言ったじゃない。鈍いな。ちょっと巫女さんと話し込んでたのは剣士の中級職に回復系があるか聞いてただけよ」
腕を組んでるカルナが小さくVサインを送る。徒人は意外にお節介な人なんだなと思った。
「そうなのか」
「悪いけど下級を速攻で抜けたら回復魔法を覚えられる職に行ってもらっていい?」
「別にそれは構わないがそれまで回復がほぼ一人で持つのか」
徒人も転職プランとして最悪の時に備えて自己回復出来るように中級職のリストは覗いていた。裏切りがばれた場合に備えて身一つでも生存率を高める事は必要だ。
トワも生き残れと言っていたし──
「持たせるに決まってるでしょう」
こうして無事にパーティに潜り込む事は出来た。メンバーは神蛇徒人、白咲祝詞、刀谷彼方、冬堂和樹、シュナイダー・レオニクス。そして土門勇気の六人だった。
「あと最後に言っておくがパーティごとに戦果を競ってもらう。上位のパーティには特典と報償があるが下位の者にはペナルティーが発生するので注意してくれ」
アスタルテは最後にそう告げた。勿論、誰も遊びでパーティを組んだ訳じゃないだろうがそういう事は先に言うべきじゃないのか。
「まあ、大丈夫でしょう」
祝詞は自信満々な笑みを浮かべて平然としていた。