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第68話 ここは7度絶滅を繰り返した星

「二人共、随分酷くやられたわね」


 上の、祝詞曰く一階のH字のフロアで徒人と彼方は祝詞たちと合流した。和樹も祝詞も土門も傷らしい傷なくピンピンしている。引き換え、徒人も彼方も無事では済まなかった。もっとも一番酷いのは徒人なのだが──

 一応回復したのだが本職で回復魔法の使い手である祝詞から見たら一目で分かるみたいだ。


「我が弟子のアニエスが殆ど1人で敵の足を止めてくれたから楽だったよ」


 和樹がそう説明してくれたがどこかノロケか皮肉に聞こえるのは何故だろうか。


「お陰で正騎士の立場ないよ」


 そりゃ最低でもレベル3桁以上の忍で相手がただの人間なら軽々と相手できるだろう。


「取り敢えず、誰もレオニクスの姿を見てないんだな」


「恐らく隠し通路とかで逃げたんでしょう」


 徒人の問いに祝詞はため息混じりに言った。レオニクスを逃がしてまた謹慎では話にならない。


「追いかける?」


「いえ、和樹の錬金鳥によると奥に幹部が使っている部屋があるみたいだからそこで使えそうな資料だけ回収してこの場は撤退しましょう」


 彼方の言葉に祝詞が決定する。


「あいつらが、元勇者以外が帝國を裏切った理由か」


 黙っていた土門が口を開く。神前早希の一件から妙にこの件には食いついてくる気がする。


「ええ、掴めるなら(わたくし)たちもそれを知っておく必要があると思うの」


「とてつもなく嫌な予感しかしないんだが……」


 徒人は右手で頭を掻きながら鼻をかく。岳屋弥勒と八雲があんな風になったのは本当に北の魔王に負けた事だけが原因なのだろうか?


「それでも知らないで帝國の手のひらで踊るよりはマシでしょう」


 祝詞が(わたくし)は間違ってないと言わんがばかりに腰に両手を当てて言う。


「虎穴に入らずんば虎児を得ず、か」


「そういう事。和樹君、案内をお願い」


 徒人の懸念に事実など知ってから悩めばいいと言わんがばかりの祝詞が指示を下す。


「了解。この通路を左に行って奥まで行って突き当たった所を道沿いに行ったところの部屋だ」


 徒人たちは土門を先頭にH字フロアを北西に向かって歩き始めた。徒人は慌てて[罠感知]のスキルを使いつつ、土門の隣を歩く。



 敵や罠に遭遇する事なく徒人たちは和樹が言う書斎らしき部屋の前に辿り着く。黒塗りで木製のドア。荒れている地下と比べてこのフロアは整然としており、えらく高級そうな印象を受ける。


「誰か居る?」


 徒人は言われるまでもなくドアを確かめながら[気配察知]のスキルを使っていた。


「いや居ない」


「でも変な臭いがするわね」


「人間っぽくない臭い?」


 徒人の言葉に祝詞と彼方が話し始める。彼方は鞘に収めた長船兼光の柄に手を伸ばしている。


「オレには意味が分からないんだが説明してくれるか?」


「全部、分かる訳じゃないけどここの書斎を使ってた人物は人間じゃない可能性が高いってこと」


 怪訝な表情の土門に祝詞が鼻を鳴らしながら答える。逆に言えば、トワの件は匂いで祝詞にバレたのかもしれないと徒人は思った。匂い対策を講じなければ。


「徒人君、開けて」


 祝詞に言われて罠があるかどうか確かめてからドアを開け放つ。小さな部屋だが本棚に囲まれた中心に机があり、誰かが使っていた形跡が残っていた。


「何か残ってるかな」


「罠が残ってない事を祈るよ」


 徒人は部屋の上下左右全てを確認してから呟く。もっとも罠らしい仕掛けは見つからない。調べる気にならないのでドアを背にしてもたれかかる。これで閉じ込められる事だけは避けられる。


「徒人君は手伝ってくれないのね」


「あ、当方が代わるよ」


 祝詞の恨み節のような言葉に待ってましたと言わんがばかりに彼方が徒人の前に立って右手で退け退けと左右に振っている。


「お前だって文字読めるだろうに」


「当方、頭脳労働は嫌いなんだよ。刀が必要な時だけ呼んで」


 問答無用で彼方は徒人が立っていた位置を奪う。和樹は左側で本棚を調べ、土門は机の引き出しを調べている。祝詞は机の上にあった書類を見ていた。


「単に雑務が嫌いなだけだろう」


 彼方は舌を出していた。テヘペロとか言う感じで。徒人は仕方ないので他のメンバーを見て調べていない所を、右の本棚を担当する。


「なんかあったか?」


 徒人は[罠感知]のスキルを使いつつ、本棚を見る。隠し扉が──とか期待してみたがこの本棚にはそういう仕掛けは見当たらない。


「特にこれと言ってないわね。自分たちの身元に繋がるような資料はないのかもしれない」


「日本海軍では船が沈む時に機密書類は焼却処分だったか。ここに残ってるのは大した資料じゃなさそうだな」


「魔術の本があるだけだな。役に立ちそうなんで持って帰るけど」


 祝詞、土門、和樹はそれぞれ言いたい放題言っている。で和樹は言った通りショルダーバッグに本を入れていた。RPGだなとか徒人は笑えない事を思う。


「なんか映せよ」


 土門が机の上にあった紫水晶を指で弾いた。その瞬間に紫水晶から金髪碧眼で魔術師みたいな格好をしたショートヘアの女性が映しだされた。何故か部屋の中であるのにも関わらず、フードを被って頭頂部を隠しているように見える。

 原理は立体映像と同じ理屈なんだろうが徒人にはよく分からない。


『やあ、稀人(まれびと)たち。僕の名はメフィスト。君たちが十字架教団と呼んでいたクルセイダーズの幹部の1人だ。お初にお目にかかる。と言ってもこれは録画だけどね。君たちなら録画の意味くらい分かるだろう? これから君たちに見せる映像の意味を考えてくれ』


 そう言い放つと同時にメフィストと名乗った女性は姿を消し、代わりにSF映画とかに出てくる変な高層ビルが並ぶ都市が津波に飲み込まれたり、ハリケーンで倒壊するマンション、地割れに飲み込まれる高速道路や自動操縦の車と思しき物。落雷を受けて墜落する最新の飛行機。落ちてくる宇宙ステーションらしき物体。巨大彗星の落下による核爆発級の被害。


「ツングースカ大爆発? でもなんか違うな落ちてる所が南米みたいな景色っぽいし、中国で起きた隕石事件でないし……」


 意外にも途中で口を開いたのは彼方だった。しかもなんかよく分からん話を呟いてる。祝詞は途中まで見て呆れたのか罠を警戒したのか背を向けて映像自体を見ていない。土門は胡散臭そうに見ており、和樹は首を傾げて映像の意味が飲み込めないような表情をしていた。

 そして映像が途切れてただの書斎に戻った。


『これは7度目の世界絶滅時に残された映像だ。そして君たちへの贈り物だよ。我々は決して戦うべき相手ではないのだ。是非、一度、考慮してくれ』


 置き土産のようにメフィストの言葉で閉じられた。

 徒人はこの映像が残っている事に胡散臭さを感じた。本当に絶滅時の映像ならそもそも映像が残ってる訳もない。だがこの文明のレベルでこんな映像を作れるのだろうかとも思う。


「黙示録かな? この時代がいつか知らないけど今よりも文明が進んでいた事だけは分かるね」


 彼方が意外な単語を口にする。普段は怠け者のくせにこういう時だけ迅速な気がする。


「だから色々な物があったのか」


 絶滅を繰り返していたら建築技術も残っている可能性があるとも言える。だが徒人には何かが腑に落ちない。


「絶滅を何度も体験した異世界なんて結構怖いな」


「本当に異世界転移なのかな。なんか信じられなくなってきそう」


 土門の声に彼方が真剣な表情で呟く。意外に当たってそうなのが怖い。


「怖いことを言うなよ」


「これが稀人(まれびと)たちが裏切った理由かしら?」


 不安がる和樹の声を遮るように祝詞が独り言をこぼす。


「分からないよ。でもその紫水晶は回収してアニエスに調べさせた方がいいかも」


 徒人はそう言った。勿論、調べるのはトワさん率いる南の魔王軍なんだが──


「取り敢えず、ここを出ましょう。これ以上、この場に留まってアスタルテに疑われるのも面倒だから」


 祝詞の言葉に徒人たちは黙って従った。

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