表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/368

第66話 アニエスとの対峙 後編

 理屈は分からないがアニエスの4方向からの同時攻撃に徒人は為す術もなくボロ雑巾のようにボロボロにされる。その激痛を処理できずにショック死して仰向けに床に崩れ落ちた。魔剣も手放してしまう。


「即死が無効なら削り殺せばいい。単純な話です」


 アニエスは今までと同じようにクナイをしまう。

 徒人は蘇生すべきか迷う。だがこの場で体を失えば幾ら蘇生出来たとしても帰るからだがなければ無意味である可能性を考慮して回復魔法を唱え始める。


「清浄なる光の、下僕たる神蛇徒人が、命じる。傷付き倒れた、この者に安寧たる光の祝福を! 《ヒール!》」


 小声で回復魔法を唱えるが回復する時に発生した光でアニエスに気付かれる。


「しつこいですよ」


 アニエスの右足が徒人の喉を、首の骨を踏み砕く。


 徒人は骨が治る音を聞きながら即時蘇生し、アニエスの足首を掴む。彼女のバランスを崩そうとするがビクともしない。


「ゾンビアタックですか? 無駄ですよ」


 そのまま押し切られて首を中心に床に叩きつけられて再び首を折られてその骨が皮膚を突き破った。アニエスは振り払うように徒人の右脇腹を蹴る。徒人の体は首から血を撒き散らしながらゴムボールのように空中を飛んで無造作に放置されていた棺桶にぶつかって床に落ちる。

 千切れて取れかかっていた首は失った血を回復させながら元通りに完治する。肉体の方はまだ持つかもしれないが精神の方がヤバイ。何とかアニエスを撃退しなければ──

 RPGなら一旦出直してレベル上げしてから挑むのだろうがあいにくそうはいかない。


「9回殺したのに元気ですね。その精神力には頭が下がります」


 アニエスの表情に微かな焦りが見えた。本当に僅かな動作だが彼女は右足首を庇っているようだ。


「どんなに辛かろうが痛かろうが諦めたらそこで終了だろう」


 左目の血管が治ってないのか左側の視野が赤く染まっているがそんな事に気を払わずに徒人はアニエスに突撃する。


「愚かな。格闘でご主人様が勝てる……」


 その言葉が言い終わらない内に徒人は床に落ちていたそれを、岳屋が使っていた小剣を蹴り飛ばした。

 アニエスはそれを舌打ちしつつ、真剣白刃取りの見本みたいに両手で受け止める。受け止めるのは計算のうち。

 徒人はその小剣の柄を掴んでそのまま押し込む。


「思い切りが良くなったじゃないですか。でもまだです」


 アニエスは横に体をずらして右手で徒人の両腕を強打。左の手刀で首を狙う。徒人は喉を抉られて10回目の絶命を経験した。だが即時蘇生し、引き換えにアニエスの腹部を蹴り上げる。


「くっ!?」


 今まで苦痛の声を上げた事のなかったアニエスが初めて動揺する。

 そのまま、右の掌底でアニエスの顔面を狙う。だが背を向けて一本背負投で返され、徒人は脳天から床に叩きつけられた。そして糸の切れた操り人形の如く床に崩れ落ちる。


「11回目の正直です」


 アニエスが背を向けた。

 即時蘇生した徒人は辺りを見渡す。魔剣は自分とアニエスの線状にある。これ以上は精神が持たないし、いい加減に終わらせるしかない。

 徒人は立ち上がると同時にアニエスに向かって全力で突進。勢いのままタックルをその背中に敢行。予想外だったのかアニエスはその一撃をモロに受けて棺桶に衝突し、壁に叩きつけられた。

 それを追いかけながら徒人は走りながら落ちていた魔剣を回収し、両手持ちの状態でアニエスの首を目掛けて振り下ろす。



「殺さないのですか?」


 壁を背にしてアニエスは徒人を見上げながら言った。魔剣はギリギリの所で止まっている。


「必要はないだろう。わざわざ一度戦闘を中断してパワーアップする時間を与えてる奴が敵な訳ないだろう」


「ありゃ、やっぱりバレましたか。でもケジメなんでスパっとお願いします。スパイ生活も疲れましたし」


「分かった」


 徒人は魔剣を手離して右手で握り拳を作って力の限り、アニエスの左頬をぶん殴った。殴られた衝撃で奥歯らしき歯が飛んでいく。


「何するんですか! 仮にも女の顔ですよ。女をグーで殴りますか! グーで!」


「喧しい。いきなり人に襲いかかっておいてどの口で言うか! 今回だけはこれで許してやる。その代わりに主替えと俺に危害を加えるな。あとパーティのみんなを守れ」


 アニエスは徒人の怒りの言葉に不満そうにしながらも敵意も害意もない。


「それは賛同しますけど、ご主人様は人使いが荒くないですか?」


「とにかくその3つの命令を守れ。死んで楽になれると思うなよ。死ぬまで働け。死んでも働け」


「取り敢えず、その要望承りました。了承いたします」


 いつもは見せないポーカーフェイスにイラッとくる。


「それと、どうでもいい事を聞くけどお前は和樹の事が好きだろう」


「そりゃこんな自分のつまらない人生に笑いをくれた人ですからね。誰かさんと違って変な発言もしませんし」


 ポーカーフェイスを突き崩そうとして徒人は無用な反撃を受ける。最初に市場へ行った時の発言がマイナスだったのだろうしか思えない。


「11回殺しておいてそれか! それで済んだだけマシだろう。どうせ、回復魔法で治すだろう? つーか、あと10回殴るか?」


「さすがにそれは遠慮しておきます。それにご主人様はそういう人じゃないでしょう。死んだ恐怖をコントロール出来てるだけ強い人ですから」


 アニエスは立ち上がって服に付いた埃を払う。そして今まで徒人には見せなかった笑顔を見せる。


「更に余計な聞くけど、この前、遅刻したのは和樹と……」


「ご主人様、もう一度本当に殺しましょうか?」


 調子に乗って踏み込んだらアニエスの瞳孔から光が消えた。


「悪かったもう聞かない。謝る。……俺は先に戻るけどお前はどうする?」


 さすがにこれ以上殺されたくないので徒人は慌てて謝って話題を変える。


「ご主人様が折角殺した勇者です。蘇生不可処置を施して帝國に、アスタルテに引き渡します」

 アニエスは表情を戻して部屋の端に転がっている岳屋弥勒を指差す。


「それで蘇生しないのか?」


「可能性は半々ですね」


「ありがたくない話だ」


 徒人はため息を吐きつつ、魔剣を拾って鞘に収める。またあの陰険野郎と戦うのは面倒くさい。


「皆さんは上で待ってると思います。上への階段はそっちの奥です。あと言っておきますがあの勇者はかなり弱体化していました。くれぐれも油断なさらぬように」


 仲間を殺したとはやっぱり嘘か。でもあの表情で言われたらビビるよなと思うが余計な事を言って続きを始められたら困るので黙っている。


「……分かってるけどはっきり言われると凹むな。でもそうじゃないと魔王をぶっ殺した奴に勝てないよな」


 徒人は肩を落とした。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は103になりました。魔剣士の職業熟練度(クラスレベル)は354になりました。[死を乗り越える者]の称号を獲得。[死を乗り越える者]の称号の効果で[精神耐性10]を習得しました】


[死を乗り越える者] 10回死んで蘇生した者に贈られる称号。


[精神耐性10] 精神的苦痛への耐性。徒人の場合は蘇生する事への耐性。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ