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第64話 ユニークスキル・死と再生の転輪

 徒人は手放さなかった魔剣を強く握りしめ、全身を襲う痛みに抵抗しながら立ち上がる。額が割れたのか視界の左側が赤い。


「馬鹿な。あの一撃は必殺だった筈だ。魔王ですら殺せたんだぞ」


 怒りではなく驚愕の声を上げる岳屋。


「清浄なる光の下僕たる神蛇徒人が命じる。傷付き倒れたこの者に安寧たる光の祝福を! 《ヒール!》」


 その隙に徒人は回復魔法を唱えた。全身が光りに包まれると同時に視界の左側から赤色が消え、顎と左ふくらはぎ、右の二の腕の傷から出血が止まった。痛みも軽減した。まだ戦える。トワさんの所へはいかせない。それだけの為に。それだけしか考えられなくて。

 徒人は魔剣を構えた。


「どうしてだ! どうして死なない! クソ! 五光聖双子星!」


 岳屋は再度、必殺技を放とうと襲い掛かる。先程は見えなかった剣撃の軌跡が見える。双子座の能力なのだろう。前後挟み撃ちによる本体と分身体による連続攻撃。

 徒人は全ての攻撃を交わす事は出来なかったが魔剣や漆黒のガントレットで致命傷にならないように最小限に抑える。そして必殺技を打ち終わった瞬間に岳屋の顔を狙って剣撃を振り下ろす。

 その一撃が顔をかすめて岳屋が虫のように部屋の端へと逃げる。

 仮面が脱げたその素顔は優等生タイプのイケメンと称して問題ないレベルだったが虫を思わせる動きがその全てを台無しにしていた。

 徒人は追わずに回復魔法を唱えた。


「清浄なる光の下僕たる神蛇徒人が命じる。傷付き倒れたこの者に安寧たる光の祝福を! 《ヒール!》」


 その回復で光を纏った徒人の負った傷はほぼ完治した。

 徒人は無言で岳屋に迫る。


「お前の力か! お前のユニークスキル()か。それがあれば! 八雲は」


 岳屋が身勝手な事を叫ぶが徒人が今考えているのはこの男の息の根を止める事だけだ。

 何度目かの突撃を試みて岳屋が五光聖双子星を放とうと予備動作を行う。一度崩れると同じパターンでしか行動できないのが岳屋の欠点のようだ。


「ブラッド・クレセント!」


 それを待っていた徒人は体を横にしてカウンター気味に魔剣から生み出された三日月型の光刃で己の周囲を覆う。岳屋と分身体はそれをマトモに食らい、必殺技を発動する事なく両方の岳屋の腹を斬り裂く。

 その衝撃で分身体は消滅。岳屋は1対の小剣を落とす。

 金属音を響かせながら部屋の隅へと1対の小剣は消えた。

 岳屋が床の上を転がるようにして逃げ出そうとする。

 徒人は三日月型の光刃を撃ち出して元勇者の右足を斬り飛ばした。足と血液が埃と共に宙を舞う。


「僕が勇者なんだ! 僕を殺すなんて……後悔するぞ」


 距離を詰めた徒人は無言で魔剣を振り下ろして岳屋弥勒の顔を、頭蓋骨を叩き潰した。


「安心しろ。フツメンとしてはこれ以上ないくらいスッキリしてるよ。イケメン君。いや、元勇者か」


 徒人は肩で息をしながらお悔やみの言葉を言ってやる。ちっとも悼む気はないが。

 息を整えている最中に気配を感じて徒人は振り返った。

 そこにはアニエスが立っていた。ただし、服はいつものメイド服ではない。暗闇に溶け込むような薄い黒いで露出度の低い戦闘服だった。


「ご主人様、おめでとうございます」


 アニエスはいつものような口調で笑っているが徒人のカンは異常事態だと告げている。


「でも自分としては1つ確かめたいことがあるんですよ。貴方が勇者だった場合の話です」


 アニエスは直球できた。


「勇者ならどうする?」


「勇者なら殺します」


 顔から笑いの表情を消して無表情になったアニエスの瞳は酷く冷たい。


「冗談ですよ。ご主人様、でもそう言い出す魔族が居ることは確かです」


 どう見てもアニエスの言葉は冗談に聞こえない。今の彼女は獲物を視界に捉えて離さないライオンのように見える。


「トワさんはどう思ってるんだ?」


 徒人はそれだけを確かめる。トワさんの命令なのかアニエスの独断なのか、それとも裏に誰かがいるのか探りを入れるしかない。


「変わりませんよ。前にも言った通り、それでも貴方を愛してると思います。貴方の望む形かどうか分かりませんが」


「それは答えじゃないと思うんだが」


「正直に言うと自分はあの人の真意が読めません」


 徒人の言葉にアニエスはマトモな答えを返さない。


「見逃すって訳にはいかないかな。俺は勇者じゃないと思うんだ」


「でも自分にも色々と責務がありますので」


「どうしても殺るのか」


 徒人は焦りを隠しながら問う。こうして対峙して分かるがアニエスは岳屋とは比べ物にならない強さを誇る。倒すどころか逃げきれるかどうか──


「その気にないなら1つ良い事をお教えしましょう。自分は貴方のパーティメンバーの仇ですよ。彼らは自分が殺しました」


 アニエスは殺意と思しき黒い感情を徒人に向ける。


「……」


 徒人はその返答に言葉を失う。少なくともアニエスが和樹を手に掛けるとは思えないがこうなったらやるしかない。


「では始めましょうか」


 アニエスが厳かに告げる。その様子は処刑人のようだった。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は30になりました。魔剣士の職業熟練度(クラスレベル)は25になりました。[勇者殺し]の称号を獲得。[勇者殺し]の称号の効果で[暗黒の庇護]を習得しました。ユニークスキル[死と再生の転輪]の発動を確認しました】


[勇者殺し] 勇者を殺害した者に与えられる称号。


[暗黒の庇護] 高位隠蔽スキルでスキルやレベルを隠蔽する。人間に見破るのは困難。


[死と再生の転輪] 即死を防ぐ。死亡した場合、即時蘇生か蘇生する場所を選択できる。

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