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第63話 勇者の力

 徒人が岳屋を引き連れてきた部屋は薄暗く棺桶が並んでいた。使われていない部屋だったのかそこかしこに埃が溜まっている。天井に穴が開いているのか、光だけは不足なく差し込んでいた。


「神蛇徒人、お前にふさわしい部屋だな」


 岳屋が入ってくると同時に入り口が落ちてきた鉄板で塞がれた。逃げ場なしか。


「一々フルネームじゃないと人の名前を呼べない病気にでも掛かってるのか?」


 徒人は怒りの中で相手を煽り返す。とにかく冷静になって奴をしなければいけない。その為の時間稼ぎだ。


「殺る前に1つ聞いておく。何故、お前から魔族の臭いがする」


「知らないね。街で魔族の女でも引っ掛けたかな」


 徒人は適当な答えを返す。魔族、いや魔王と対峙した事がある者なら容易に想像できた事だった。トワから残り香への対策がなってなかった事を徒人は悔いる。


「覚えていないのなら仕方ないな。体に聞いてやろう。もっともうっかり殺してしまったら運がなかったと諦めてくれ」


 岳屋は粗雑に右の小剣を向ける。


「よく喋る口だな。黙る事を覚えたらどうだ」


 徒人は隙を窺う。正直、本気を出していなかったあの場で倒せなかったのは痛い。

 それを読み取ったのか岳屋はダンサーのように片足を上げて攻撃姿勢をとる。


「安心しろ。お前が聞かなればいいだけだ」


 その言葉と同時に岳屋が忍者走りで地面を這うような走り方で迫ってくる。

 徒人は魔剣を下段の構えて迎え討つ。2人が交わって幾度の閃きが走って離れた後、徒人の左ふくらはぎ辺りから血が吹き出た。


「弱いな」


 岳屋が嘲った瞬間、左肩が裂け、血が溢れだす。だが痛覚を麻痺させているのか、普通に立っている。


「先代の南の魔王が大した事なかったのか? それとも騙し討ちにでもしたのか?」


 徒人は煽るが予想以上にピンチである事は間違いない。剣の軌道が読めないだ。先代の南の魔王を殺したと言うのは伊達ではないのか。

 しかし、相手の反応が腑に落ちない。妹と同様に魔王から移植した物を体内に宿しているのだろうか。


「良いだろう。慢心は捨ててお前を殺す」


「1つ聞かせてくれ? その台詞は何度目なんだ?」


 徒人は魔剣を正眼に構え直す。


「殺す! お前だけは殺す!」


 岳屋は再び忍者走りで地を這うような前傾姿勢で向かってきた。

 徒人も迎え討つ為に走る。3つの軌跡が光を放つ。徒人の顎に浅い裂傷が生まれて湧き出るように出血し、右の二の腕にも剣撃による傷で血が流れ出す。岳屋の方は右腕を半ばまで斬り裂かれたのにも関わらず平然としている。


「やっぱり魔王の一部を移植したのか?」


 徒人は回復する時間が欲しい。だが岳屋はゆっくりと近付いてくる。


「血だよ。魔王の血さ。お陰で痛覚で必要以上の情報を受け取らずに済むようになった。有効活用だよ」


「世間ではそれを外道と言うんだ」


 痛みを押しのけるように徒人は声を荒げる。そして左二の腕部分で顎からの出血を拭う。


「ああ、そんなモンだろうな。必要な時は勇者、勇者とおべっかを使っておいていざちょっと道を外れたら非道だのなんだの言い放つ。民衆は自分で決して勇者になろうとしないくせに。そういう観点で言えばお前はまだマシか」


「勇者じゃないと言っただろう。しつこい奴だな」


 先程、顎を掠めた一撃のせいで足がふらつく。だがそんな事を言い訳にしてる場合じゃない。こいつを倒さないと。


「あくまで認めないのだな。そろそろ終わりだ。殺してから蘇生できないように粉々に砕いてやる」


 岳屋の言葉に徒人は答えない。取り敢えず、顎の血だけは止めないと。


「回復などさせん」


「ブラッド・クレセント!」


 徒人は素早く肩に魔剣を担いで必殺技を放つ。魔剣から生み出された三日月型の光刃は上下は部屋の床から天井まで左右は部屋の端まで届く大きさで岳屋に逃げ場はない。 威力は最小で範囲を最大にすればこの部屋が持つ筈だと考えての事だ。


「勇者を舐めるな!」


 壁にめり込みながらも岳屋はその一撃を双剣で受け止め、かき消した。


「あれで効かないのか」


 出力を絞り過ぎたのが原因か、それとも力不足か。徒人は追撃するのも忘れて唖然となった。


「では今度こそ終わりだ。行くぞ」


 岳屋が地を這うような走り方で襲い掛かって来る。一瞬、徒人の反応が遅れる。


五光聖双子星(ごこうせいふたごぼし)!」


 岳屋の姿が消えたと思った瞬間に徒人の体が宙に舞っていた。そして天井に叩きつけられて床に落ちてその部分に大きな穴を作る。


「やっと終わったか」


 岳屋は双剣に付いた血を振って拭う。

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