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第61話 勇者のおぞましき秘密

 徒人は慌てて起き上がる。辺りを見渡すと地下聖堂だったらしい空間が広がっていた。だがその性質とは裏腹に白色に塗られていた壁は赤く薄汚れている。おそらく侵入者の血だろう。ここは外敵を処刑する処刑場だったようだ。

 近くに倒れていた彼方も気が付いたらしくゆっくりと立ち上がる。


「どうやら当方たちは分断されたみたいだね」


 ちっとも悪びれる様子なく彼方は笑う。そして長船兼光を鞘から抜き放つ。


「出てきなさい。居るのは分かってるんだから」


 彼方が地下聖堂の奥へ向かって叫んだ。

 薄暗い闇の中から一対の小剣を持った仮面の男が現れた。仮面の隙間から覗くその目は血走っている。


「双子座の勇者殿とお呼びしましょうか?」


 徒人は煽る。だが相手は反応しない。


「俺の名は岳屋弥勒(タケヤミロク)。神蛇徒人、よくも俺の計画を台無しにしてくれたな。貴様は俺が殺す」


 仮面の男は岳屋と名乗る。


「勇者じゃなくて悪役の台詞だな」


 徒人が魔剣を抜いて正眼に構える。


「ちょっと待ちなさい。あんたを殺すのは当方だよ。だからあんたは神蛇さんを殺す事はできない」


 彼方は徒人と岳屋の間に割って入る。


「どけ! 女! 今度こそあの世に送るぞ」


「それはこっちの台詞だよ。……と言いたいけどもう1人の雑魚で我慢してあげる」


 彼方の言葉に岳屋は今まで見せた事のない激しい怒りを見せる。

 彼方が言った人物を探すが徒人は[気配察知]のスキルには引っ掛かっていない。誰も居ないように思えた。だが彼女が言うのだから間違いないと確信する。スキルを超えた剣客としてのカンなんだろう。

 暫くの間を置いて岳屋の奥から似たような背格好の人物が現れた。かなり似てるが何処となく雰囲気が違う。こっちへとゆっくりと歩いてくるが人間の歩き方とはどこかが異質だった。


「気配が変だと思ったら人間じゃないのね」


 彼方の言葉に徒人はずっと出しぱなしにしていた精霊さんに呼びかける。秘匿されているらしく殆ど情報は読み取れないがアンデッドとだけ精霊さんが伝えてきた。


「黙れ! 俺の妹を! 八雲(やくも)を否定するな!」


 彼方はその言葉を聞き流している。


「アンデッド? 死んでるのか?」


「黙れ! 妹は死んでない! まだ生きてる。色街が治すはずだったんだ! それを貴様が!」


 岳屋は徒人への憎悪をたぎらせる。


「知らんよ、そんな事。同情でもしてやれば良いのか? 第一、蘇生しなかった色街にでも文句を言えばいい」


 そう言えば今まで色街が蘇生する可能性を失念していた。もし、蘇っていたらあいつの性格で考えれば復讐しに現れるだろう。


「奴は蘇生しなかったよ。ネクロリカバーを使った時に倒された者は蘇生魔法では蘇生しない」


「知らなかったや。神蛇さん、勉強になってよかったね」


 岳屋の地の底から絞り出すような声に彼方はからかうように笑う。勿論、煽っているのだろう。


「貴様ぁ!」


「少なくとも当方はアンデッドの妹を侍らせてるキモいのに言われたくないな。変態勇者様」


 彼方の言葉に反応したのは八雲と言われた妹の方だった。兄を庇うように一歩前へ出る。


「八雲」


 岳屋は感極まっているようだが徒人の目にはネクロな、屍な趣味があるようにしか思えない。


「始める前に1つ聞くけどそうなったのは北の魔王のせい?」


「とも言えるし、南の魔王のせいでお陰で八雲は生きてると言える」


 彼方の問いに岳屋は謎々のような答えを返す。南の魔王のお陰?


「生きてる? 死んでるんじゃないのか?」


 徒人はいつでも攻撃できるように体の具合を確かめる。


「生きてるさ。少しだけ見せてやれ」


 兄に言われて八雲は胸元の紐を解いて服を右手で上着を引っ張って心臓の辺りを見せた。その薄い胸に、屍蝋のような黄ばんだ肌に赤黒く浮き上がる血管と手術痕。一瞬、理性が徒人の思考を停止させたのを無理やり動かして唇を噛む。

 八雲は服を引っ張っていた右手を離して身だしなみを整える。


「北の魔王に妹の心臓を潰されたから倒していた先代の南の魔王の心臓を移植したのか」


 徒人は出てきたキーワードと胸の傷を照らし合わせて答えを導き出す。


「ご名答。賢いじゃないか、神蛇徒人。正確には心臓と肺だよ」


 岳屋は狂気に囚われた笑みを浮かべる。かつて勇者と呼ばれた男の姿は何処にもなかった。仲間を失い、人としての妹を失えばそうなるのかもしれないが徒人には同情する気も起きなかった。湧き上がってきたのは嫌悪だけだった。


「どっちが魔王か分かりゃしない」


 彼方が吐き捨てるように呟く。


「何を言ってるんだい? 南の魔王が復活するのを阻止しながら妹を生かす。これほど世の中の為になっている方法を俺は知らない」


 岳屋が悦に浸りながら叫ぶ。


「魔王は代替わりして南の魔王は別の人物が居るだろう。どこが有益なんだ」


 徒人は呆れてため息を吐く。


「ならそいつも殺して妹の予備心臓にしてやる」


 岳屋がヘラヘラと笑っている。

 トワの笑顔が浮かぶ。その次にありえないと思いつつもトワが岳屋に殺される姿を想像する。初めて自分に対して優しく笑顔を振りまいて女性を殺すと言われて黙っていられない。

 徒人の視界が怒りで赤くなった。


「彼方、譲ってくれてありがとう。後で借りはたっぷり返すから」


 徒人の言葉と同時に彼方は右側へと移動し、八雲に切っ先を向ける。


「今月の食費代全部出してもらうからね」


 双子の勇者はお互いを見て左右に別れる。


「ふざけるな! 貴様に帰る場所などない。ここで死ね!」


 徒人は左側にあった出入り口へと走る。岳屋が逃すまいと追っかけてきた。

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