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第60話 十字架教の壊滅記念日

 祝詞の好意に甘えさせてもらって睡眠をとったので徒人の頭はすっきりしていた。一方、祝詞は独自のツテを使ってレオニクスが裏切った事への報告と対十字架教戦を整えていたらしい。抜目のないことで。

 準備を済ませた徒人を連れてアニエスを先頭にラティウム帝國の西の山間部にある聖堂らしき建物が見える小高い丘までやってきた。周囲は山肌が剥きだして所々に思い出したように高山植物が生えているだけだった。そして周囲に居るのは岩陰に隠れている治安維持部隊と草を揺らす風だけだった。

 周囲は帝國の治安維持部隊が包囲して押さえ込んでくれるから突入して双子座の勇者を倒すのが祝詞たちに与えられた任務となっている。


「教団に与した剣士は倒してくれ。あと出来ればレオニクスはこちらに生きたまま捕縛してくれたらありがたい。執政官殿の立場が悪くなるのでな」


 錬金術士が作ったと思しき金色の小鳥からアスタルテの声が響く。徒人には出来れば殺せと言ってるようにも聞こえる。


「分かりました。善処致します」


「白咲祝詞とそのパーティの皆さんにご武運を」


 アスタルテが言い終わると同時に小鳥は去って行った。

 見張りは向こうが殺してくれるらしいが歩哨のように巡回しているものは居ない。バレるのかと徒人は思う。


「来るのバレてるかな」


 彼方が望遠鏡で聖堂の入り口を覗いている。


「レオニクスを逃がしたのが痛かったな」


 徒人はため息を吐く。自分の落ち度である所は否めない。


「前衛と分断されないように気をつけないと」


「その場合は自分が皆さんをお守りしますよ」


 徒人は彼方に言ったつもりだったのだが反応したのはアニエスだった。


「あんたを信用していいのか」


 土門が冷たい視線と言葉と投げ掛ける。


「……では自分の能力の一部を明かしましょう。自分が就いているクラスは使用人ともう1つ同時に忍と言う職に就いてます。だからレオニクスが抜けた穴埋めは任せて下さい。罠感知は得意じゃないですが」


「つまり、前衛としては代わりになるけど罠感知に関しては駄目じゃないか」


 土門が頭を掻きながら徒人を見る。どうせ、そうなる予感がしたが実際に頼りにされると嬉しくない。


「それがアニエスのユニークスキルか?」


「はい」


 和樹の問いにアニエスは答えている。何だよ、この夫婦の会話みたいな空気。誰がアニエスの主か分からなくなる。


「だから双子座の勇者が出たらご主人様と刀谷様は突撃してもらって大丈夫です。こっちの守りは自分がなんとかしますので」


 徒人は彼方の突撃癖を忘れていたのを思い出した。双子座の勇者を見たら突撃する事は間違いない。


「頼む」


「では任されました」


 アニエスは袖からクナイのような武器を出している。


「忍者だからクナイなのか?」


「忍者……忍の別呼びでしたか。単にこれが一番使い易くて隠しやすいからこれを使っているに過ぎません」


 土門の問いにアニエスはペラペラと喋っていた。本当にバレても大した事ないと思って言ってるのか更に奥の手があるんかは分からないが。


「雑談はそれくらいでいいでしょう。行きましょう。どうせ、決着を着けないといけないんだし、それよりアスタルテが着てるけど纏めてふっ飛ばされたりしないわよね?」


「一応、対策はしておくよ。でも氷の盾なんか役に立たないかもしれないから別の手で対処しないと駄目かもしれない」


 和樹がため息を吐く。


「でも防御魔法なら(わたくし)の分野かと言いたいけど職業(クラス)正巫女になったけど苦手なんだよね」


「その場合は抜け道がある筈ですから地下へ潜ればいいかと、ただ、アスタルテがそんな事をするとは思いませんが。あの人、常識人ですし、無駄に疲れる事が嫌いですから」


 祝詞の落胆の言葉にアニエスが無駄な性格分析まで付け加える。


「アニエス、自棄になってないか? お前そんなに一言多かったけ?」


「そんな訳はないですよ。安心できる材料を出しただけですから」


 徒人はアニエスと和樹の視線を受けて黙った。


「取り敢えず、行きましょう。賽は投げられたんだから」


 アニエスを先頭にして徒人たちは山間部に申し訳程度にある岩陰に隠れながら聖堂跡に近付く。相手に全く反応がないのが余計に不気味に思える。


「嫌な感じ」


「近付いて来たら魔法でドカンかな」


 祝詞は落ち着かない様子だったが彼方は逆に落ち着いているのか、長船兼光の鞘に触れていた。それには徒人が予め掛けておいたウインドコクーンの魔法が掛けられている。


「向こうがまだ(わたくし)を説得する気ならそれはしないでしょう。第一、やる気なら既にやってると思う」


 もう目と鼻の先に聖堂を取り囲んでいる柵がある。それは風雨でボロボロになって役目を果たしていない。引きつけて魔法攻撃をするつもりなら既に射程範囲だ。


「そこに付け入って倒すのか」


 徒人はアニエスの後追いながら柵に張り付く。ここまで来ても人の気配も[罠感知]のスキルにも何も引っかからない。


「ヤー」


 祝詞は簡単に肯定する。


「とんだ巫女だな。神職が人騙していいのかよ」


「騙す事を八百万の神に期待されるのなら騙しもするよ」


 土門と祝詞はいつもの調子が戻ってきたみたいだった。


「表の扉に取り付きます。開けて中を確かめたら後を追ってきて下さい」


 アニエスが聖堂跡の表の扉に張り付いて中の様子を伺い、誰も居ない事を確認したのか、手招きする。

 徒人が続こうとした瞬間に彼方が追い抜いていく。仕方ないので徒人は先に行かせて後ろから追い、聖堂跡に入った。荘厳さを感じさせる内部は人が居なくなって荒れ果てているのかと思えば規則正しく長椅子が並べられて使われていた当時のままだった。天井や壁にも酷い損傷はない。誰かが今もこの施設を使用している証拠だ。

 彼方は辺りを警戒しながら先に進んでいくが1人だけ突出しすぎだ。仕方ないので徒人も後を追う。


「駄目です。そこは」


 他のメンバーが来るまで待っていたアニエスが叫んだ。同時に足が床についている感覚がなくなる。どう考えても落とし穴だ。徒人の[罠感知]スキルでは見破れなかった。


「先に言えよ!」


 徒人は床に現れた穴に飲み込まれ、前に居た彼方も同様に落とし穴に飲み込まれていた。

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