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第58話 反旗は誰が為に

Sideです

 場所はラティウム帝國の西の山間部にある聖堂らしき建物。ここは既に廃墟となっていたが十字架教が拠点として使っている聖堂だった。その聖堂の居住区の奥にある書斎らしきある部屋に金髪碧眼でショートヘアの女性が机の前の椅子に座っていた。机の上には占い師が使うような巨大な球体の紫水晶が置かれている。

 彼女の服装は尼僧と言うよりは魔法使いや賢者が着る派手な魔術師然としたローブで全ての指には指輪が嵌められていた。


「報告があります。メフィスト様、入っても宜しいでしょうか?」


 待て。と女性は一言告げて手の届く範囲に置いてあった仮面とベールを被る。被るのは髪と顔を隠す為だ。


「入れ」


 同じく仮面を被って修道士服を着た男が書斎に入ってきた。そして女性に、メフィストに対して手のひらを向ける敬礼をしてから告げる。


「レオニクスの正体がバレ、白咲祝詞のパーティより離脱して逃走中との事。ここへ向かって逃げ延びているようです」


「分かった。レオニクスの奴はここへ通せ。そして双子の勇者である岳屋弥勒(タケヤミロク)をここへ呼びなさい」


 メフィストは簡潔に命令だけを告げる。

 水晶で見たとおりに追撃の手を辛うじて逃れたレオニクスは十字架教の本拠地へと戻ってきたらしい。でかい口を叩いた割にはだらしない二重スパイだ。本当に頼りにならない男。僕がカイルス邸で道化を演じてやったと言うのに。


「どうせ、いつかはバレる事だった。2年前からこの日が来る事は分かっていた事だろう」


 修道士服の男と入れ替わりに仮面を被った男が書斎へと入ってくる。その腰の両側に小剣を差していた。


岳屋弥勒(タケヤミロク)か。随分早かったね」


 メフィストは居心地の悪そうに身じろぎする。こいつとは長い付き合いだがどうしても落ち着かない。


「元々、ここに来る予定だったからね。それより説得できなかった場合は神蛇徒人を倒してしまっても構わないんだろう?」


 弥勒は淡々と語るがその目は血走っている。聞くところによると北の魔王に敗れてからこんな調子らしい。この傲慢さが北の魔王に敗れた遠因だとは思わないのだろうかとメフィストはいつも思うが黙っておく。


「彼が勇者だと言う根拠はないと思うが第一君が先走らなければ白咲祝詞のチームとぶつからずに済んだんだよ」


「奴らが、帝國の犬が引っ掻き回さなければ色街はまだ生きていた。彼女はネクロリカバーの魔法を使える貴重な人材だったのに」


「色街の馬鹿が焦って余計な事をしたから神前早希が死に、その結果、神蛇徒人に狙われて色街が落命したんじゃないか。因果応報だよ」


 メフィストの言葉に弥勒が隠そうともせず舌打ちをした。よくこんな短気で先代の南の魔王を殺せたものだとメフィストは呆れ返る。罠に嵌められて倒れたらしい先代南の魔王に哀れみすら覚えた。本来、敵ですらある者に。


「とにかく俺は奴を殺る。文句は言わせない」


 弥勒はそう言って押し黙ってしまった。頭の悪い勇者だ。もっともその方がこちらには好都合だが。

 しばらくして廊下を走ってくる反響音と呼吸音が聞こえてきた。次の瞬間にレオニクスが書斎へと転がり込むように入ってくる。余程、慌ててきたのか酷いなりだった。


「俺はお前たちの言うとおりに二重スパイを続けてきたんだぞ。それがどうだ? このザマだぞ。帝國には帰れない。教団のスパイだとバレる。最悪じゃないか」


 レオニクスは息を整えたかと思うと罵声を浴びせ始めた。どいつもこいつもだらしない男だ。見てるこっちが情けなくなる。


「同志よ、落ち着け。我々はまだ敗れた訳ではない」


 メフィストは形だけは宥めようと声を掛ける。


「お前たちはそれでいいだろうがだがこっちはそうはいかない。この大陸で人の住める所にすら居られないんだぞ」


 喚き散らすレオニクスを見てメフィストは冷めていく。彼女からしてみたら大した事ではない。逆に言えば人の居ない所には堂々と住めるのだから。


「では我らが知るこの大陸の事実を示そう。それを取引材料とするといい」


「世界がぶっ飛ぶような情報じゃなきゃ使えないぞ」


 メフィストはレオニクスの抗議を無視して魔法を使い、その情報を見せた。彼女が知るこの世界に置けるごくごくつまらない話だ。


「ありえない! 俺はこんな馬鹿な話は信じないぞ!」


 先程まで怒りに震えていたレオニクスが今度は恐怖と驚愕に身を震わせていた。母親とはぐれた子供ですらここまで怯えてたりはしない。


「だが事実だ。だからこそ我々はラティウム帝國を倒さなければならない理由なのだ」


「俺は付き合えない! こんな馬鹿な話があるか!」


 レオニクスは事実を受け入れられないのか唇をワナワナと震わせている。その様子はずぶ濡れのドブネズミだ。これだから人間は困る。いやこの場合は稀人(まれびと)はと言うべきか。


「取り敢えず、僕は下がるよ。どうせ、奴らはここに来るのだからもてなす用意をしないとな」


 レオニクスへの侮蔑の視線を隠そうともせずに弥勒は書斎を出て行った。


「転送装置はあるんだろうな? 帰る方法はあるんだろうな?」


「現時点では見つかっていない。見つけたらお前に優先的に使ってやろう」


 その場を収める為にメフィストはそう答えた。


「だ、だが俺は奴らとは戦いたくないぞ。充分に働いたからな」


「分かった。適当にやり過ごすといい」


 怯えるレオニクスに戦力としての期待していないのでメフィストが適当に答える。その言葉を聞いて安心したのか、奴は書斎から出て行った。それを見計らったかのように紫水晶が光る。

 メフィストは紫水晶に右手をかざして通話できるようにした。そこには瞳に知性を宿したキツネの顔が映る。


「相変わらず悪趣味な女め。策にしか生きられないとそこまで性格まで歪むのか」


「使えないくせにうるさかったからお灸を据えてやっただけだ。それよりも雑魚勇者が神蛇徒人を倒すと息巻いているが止めなくて良かったのかい」


 ファウストと呼ばれる狐の獣人にメフィストは説明と状況を報告する。


「我が見識が確かならあやつ如きに葬られるような男ではないよ。彼はトワ・ノールオセアン殿の婚約者だ。彼如きで倒されるとは思えないがな。例え、殺せたとしても」


「でも倒されたら彼女は元上司に続いて婚約者まで失う事になるのね」


 自信満々のファウストにメフィストは淡々と語りかける。


「それはないと思うがね。それに双子座の勇者に対して怒っているのは五星角が最後の一人殿だよ」


「五星角が最後の一人か。ウェポンマスターのシルヴェストル、マスターナイトのクシシュチャール、時空魔道士(ヴォイドマスター)のカイロス、枢機卿(カーディナル)のフィロメナ。そして最後の一人にそんなキャッチフレーズの奴が居たね。確か先代の南の魔王がこの大陸に来てからの親代わりだったか。そんな世間話よりもどっちが勝つか賭けない?」


「本当に腐った奴だ。勝敗など既に決まっているから賭けが成立しない」


 ファウストの言葉にメフィストは笑い声を漏らす。


「どっちが勝っても僕ら西の魔王軍にとっては利益しかないからね」


「我は同情するよ。魔王の婚約者殿にな」


 ファウストは呆れ返ったのか、通信を一方的に切ってしまう。その部屋にはメフィストだけが残された。

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