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第55話 どっちにつく?

 その後、アニエスと合流してレオニクスを連れて家へと戻ってきた。夜も更けているが今後の方針を決めるためだ。


「お前らよくこんな所に住めるな」


 無理やり靴を脱がされて居間に通されたレオニクスが居心地悪そうに呟く。そう言えば、彼がこの家に上がるのは初めてだったか。


「日本人が日本家屋に住むのは当たり前の事じゃない。掘っ立て小屋にでも見えるの?」


 彼方が漆黒の瞳を更に闇を濃くしてレオニクスに言い返す。


「喧嘩しなくていいよ。今は内輪揉めしてる場合じゃないでしょう」


 上座に座っている祝詞がため息を吐く。他のメンバーも座布団を敷いて二列に対面して座る。まるで時代劇の作戦会議だ。

 徒人は祝詞の左斜め前に座布団を敷いて座った。アニエスは部屋の隅に立ったまま話を聞くつもりのようだ。


「あんな話を聞いた後だ。荒れるのは仕方がない」


 和樹が宥めようと口を開くが収まるような気配はない。


「帰る前にも言ったけどみんなの意見を聞きたいの? それに不満があるなら聞いておきたい」


「十字架教との話か? 奴らとは戦うんだろう?」


 レオニクスが確認するかのように問う。


(わたくし)が聞きたいのは今後における全体的な話よ。今後の方針によっては最悪の自体に陥った場合は帝國と戦う事になるかもしれないからそれぞれが思ってる事を聞きたいの」


 祝詞の意見に徒人を含めて他の全員が凍りつく。


「それはどこまで本気で言ってるんだ?」


「最悪の場合を想定して聞いているのだから本気に決まってるでしょう」


 土門の問いに祝詞が淡々と答える。


「勇者使い潰しの件も含めてか?」


「それもあるけど召喚装置の件があいつらの言ったとおりになった場合、貴方たちは帝國を許せる? 本当に死んでからも躯を利用されて死者としての安らぎも得られないのは屈辱じゃない?」


 徒人の問いに祝詞は宗教的な観点と倫理的な観点から答えを返した。神社の巫女だけの事はあるか。


「はっきり言って納得はできない。騙された気分だ」


「使い潰されるのは嫌だけど戦えるのは嫌いじゃないな。でも死んだ後の事なんて分からない。この間、死んでみたけどお花畑なんか見えないし、ただ幽体離脱だけこの世にあるんだなって分かったけど」


「オレは死んだ後の事よりも別の事が気になる。あくまで私的な事だから話せないが」


 和樹、彼方、土門が口々に言い放つ。徒人はそれを黙ってみている。トワと言う後ろ盾があるお陰なのだろうか。それも自身が勇者だった場合にどうなるかは分からないが。それに今は聞きたくても時間切れで本人に直接聞く事が出来ない。


「徒人とレオニクスはどうなの?」


「俺は帝國を敵に回すなんてごめんだ。国家と正面切って戦えるか」


 レオニクスは至極当然の意見を出す。横目で表情をチェックしていた徒人にはどうしても引っ掛かる物を感じる。


「徒人は?」


 祝詞が身を乗り出して聞いてくる。トワさんと手を組んでるくせに聞いてくるのは何故だろうか。かと言ってこの場で確認されないのも和樹たちに怪しまれて困るのだが。


「そうだな。確かに不愉快だ。だからと言ってすぐに裏切ったり執政官に喧嘩売りに行く訳にはいかないだろう。誰が敵か味方がハッキリさせないと。それに神前が亡くなったのは帝國に消されたって感じではないから安易に後ろ盾もなく裏切るのはどうかと思う」


「いっそう魔王に泣きついて仲間にしてもらおうか?」


 彼方が冗談交じりに言い放つ。その言葉に止せばいいのに祝詞と視線が合ってしまう。すぐに視線を離すと疑われるとお互いに感じたのか呆れてるふりをしてからやり過ごす。


「案外いいアイデアかもな。ただし向こうが話を聞いてくれるならの話しだが」


 笑いながらその案に乗る土門に和樹が冷たい視線を送る。和樹は割りと冗談が通じないのは笑えない。


「神蛇さんは召喚補助装置ぶっ壊す提案したけどリーダーはどうするの?」


「こういう展開になった以上は元の世界に帰る方法は探すけどね。ない可能性も覚悟しておいてね」


 祝詞は考えられる一番最悪の想定を出してきた。居間全体の空気が重くなったように感じる。


「リーダーは悲観論者だな」


 その空気を振り払う為に徒人が茶化す。


(わたくし)は嘘吐き政治家じゃないんだから現実的な事を言ってるだけ。司令官なら最悪の事態を想定しておくのが危機管理上当然の事じゃない?」


 祝詞が極めて当然の判断を述べた。


「リーダーちゃんと考えてるんだな」


 土門の驚きに彼方と和樹が頷いているが言われた当人は不愉快そうにしている。


「徒人はどうしてあの屋敷を破壊しようとしたの? 向こうに未練ない?」


 話題を変える為に祝詞が聞いてくる。


「仲間仲間! 神蛇さん、良いとこあるじゃないか」


 彼方は本当にこっちの世界で生きていくつもりで居るのか、我が意を得たりと言わんがばかりにはしゃいでいる。だが隣りにあぐらをかいて座っていたレオニクスの視線は冷たい。それこそ不審人物を見るように。いやもっと根本的な不信かもしれないが。


「あるけどあれを放置しておくのはどうかと思ったんだ」


「徒人は善意をこじらせて悪い方向に行ってしまう性質なのね」


 祝詞は楽しそうに徒人を眺めている。


「取り敢えず、当分は十字架教と戦うと言う判断でいいんだよな? 話が済んだのなら俺は兵舎に帰りたいんだが」


 レオニクスが座布団から立ち上がる。この場に居たくないと言う意志は明確に感じる。


「そうね。夜分遅くに申し訳なかったわ。送らなくて大丈夫?」


「リーダー殿に送ってもらうほどヤワじゃないよ」


 祝詞の言葉をやんわりと断ってレオニクスはふすまを開けて居間を出て行った。ずっと黙ったままのアニエスはその様子を黙ってみている。


「そう言えば、アニエスは」


「ご主人様、自分には帝國に報告する義務はありますが義理はありませんよ」


 アニエスはニッコリと笑って話を終わらせた。その紫色の瞳はレオニクスが座っていた座布団に注がれているように見えた。

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